マダニ感染症の「犬から人」への感染を解説

皆さんは、マダニをご存知でしょうか?都市部ではあまり見ないので、知らない人もいるかもしれませんが、マダニは人を始め犬や猫などの血を吸う寄生虫です。吸血の際にマダニから病気を感染させられることがあり、その病気をマダニ媒介感染症と呼びます。

マダニ媒介感染症に関する新しい事実が発覚しました。それは、マダニ媒介感染症に感染した「犬から人」へ、この病気が感染したというものです。このマダニ媒介感染症は、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という名前で、致死率20%といわれる恐ろしい病気です。

このことについて詳しく解説していきます。

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ニュースの概要

厚生労働省は10日、飼い犬と接触した徳島県の40代男性がマダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」を発症していたと発表した。男性と犬はともに回復している。犬からヒトへの感染事例が明らかになるのは初めて。

出典元:マダニ感染症「犬からヒト」初確認 徳島の男性、既に回復 日本経済新聞(2017/10/14確認)

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解説

マダニとマダニ媒介性感染症

まずは、マダニとマダニ媒介性感染症についてみてみましょう。

マダニはクモ綱ダニ目マダニ亜目マダニ科に属し、吸血前はおよそ3~4mmくらいの大きさで、昆虫では無くクモやサソリに近い仲間です。マダニは、畳やカーペットの中に住むダニとは別の生き物です。マダニはハーラー器官と呼ばれる感覚器を持ち、これらによって哺乳類から発せられる二酸化炭素の匂いや体温、体臭、物理的振動などに反応して、草の上などから生物の上に飛び降り吸血行為を行います。

マダニの吸血は蚊のように刺すのではなく、皮膚に噛みついて宿主と連結して吸血します。このためマダニの吸血時間は極めて長く、雌成虫の場合は6~10日に達します。そして、この間に約1mlに及ぶ大量の血液を吸血することができ、大きさは約1cm前後に大きく膨れ上がります。

マダニが媒介する人の感染症として、日本紅斑熱、Q熱、ライム病、ボレリア症、野兎病そして重症熱性血小板減少症候群(SFTS)があります。

出典元:「マダニ対策、今できること」国立感染症研究所(2017/10/14確認)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染経路

この病気は通常、野山などで人が直接マダニに噛まれることで発症し、国内ではほとんどが西日本での発症となっています。

しかし、マダニから人への感染経路以外に、STFSの「猫から人」への感染事例が2017年7月に明らかになりました。このケースは、人がSFTSに感染していた猫に噛まれ、その後SFTSの症状を発症し亡くなったというものでした。

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そして今回は、初めて「犬から人」への感染が明らかになったケースでした。この人は、飼い犬に咬まれていなかったため、ウイルスに汚染された唾液などに触れ、感染したのではないかと考えられています。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の症状

人の症状

SFTSの初期症状はだるさや発熱などで、5日~6日後ごろから意識障害や出血が起きることもあります。重症化しやすく、致死率は約20%といわれています。これまで西日本を中心に303人の患者が報告され、死亡例は全て50代以上となっています。

「猫から人」への感染例では、猫に咬まれた10日後に亡くなっています。ちなみに、この方は50代の方でした。

今回の「犬から人」への感染例では、まず今年6月上旬に飼い犬が体調を崩し、下痢などが続いたため動物病院を受診しました。そして、同月中旬に飼い主自身も発熱や下痢などをするようになり、医療機関を受診したという経過でした。こちらのケースは40代の方で、1週間ほどで回復しています。

なお、人のSFTSには特効薬はないとされています。

犬や猫の症状

犬や猫のSFTSの症状は、通常診療で見る病気ではないので詳細は不明です。ただ、今回の「犬から人」のケースではSFTSと診断された犬で、下痢などの胃腸症状が続いており、その後飼い主も発熱や下痢といった症状を呈していることから、犬の症状は元気食欲の低下、発熱、下痢や嘔吐などの胃腸障害が中心ではないかと考えられます。

国内の犬が、どれだけSFTSのウイルスに感染しているのかを調べた調査があります。

国内各地の動物病院の協力を得て、945頭の家庭飼育犬のSFTSV抗体の調査を実施した。その結果、3県12頭、1.3%からSFTSV抗体が検出された。陽性犬に明らかな臨床症状は認められていない。イヌにSFTSV抗体が検出された県は、既にヒトでの患者が報告されている西日本の地域であり、患者発生と一致していることが明らかとなった。

出典元:国立感染症研究所 病原微生物情報 Vol37 2016.(2017/10/14確認)

抗体を保有している=ウイルスに感染したことがあるということになるので、西日本を中心に約1%の犬が感染を経験しているということになります。しかし、その犬において明らかな症状は認めてはいませんでした。そのことから考えるに、犬ではSFTS感染により必ずしも重篤な症状を示さないということが考えられます。

また「猫から人」のケースでは、弱った野良猫を保護しようとして猫に咬まれたことがきっかけだったのですが、この猫が重症熱性血小板減少症候群(SFTS)で弱っていたのかは定かではありません。

なお、厚生労働省の獣医療従事者等専門家向けの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&Aによると、どのような症状でSFTSを疑いそしてどのように診断するかについては、以下のように書いてあります。どうやら診断は容易ではなさそうです。

ネコやイヌの症例数が少ないため、明確な基準はありませんが、これまでの知見から、発熱(39℃以上)、白血球減少症(5000/ mm3以下)、血小板減少症(10万/ mm3以下)、食欲消失等の症状が認められ、さらに入院を要するほど重症(自力採餌困難等)で、かつ既存の細菌・原虫・ウイルス(パルボウイルスなど)の感染が否定された場合には、SFTSが疑われます。臨床症状や血液検査等だけではSFTSの確定診断はできませんので、ウイルス学的検査を実施することが必要です。

出典元:厚生労働省の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A(2017/10/14確認)

人でSFTSに対する特効薬がないことから、犬や猫の対処も支持療法となるのではないかと考えられます。

SFTSに対する対策

人が直接マダニに噛まれないようにするためには、野外で腕、足、首などの肌の露出を少なくすることと、マダニに対する忌避剤の使用が考えられます。

また犬や猫に対する対策としては、スポットタイプないし経口タイプのマダニの予防薬を定期的に投与することで予防が可能です。

犬用のノミ・マダニの予防薬

従来はフィラリア駆虫とノミ・マダニ予防は別で行われていましたが、近年一つの製品で両方可能な商品が販売されるようになってきました。

スポットタイプ

成分名:フィプロニル

商品名:フロントライン、フィプロスポット、マイフリーガード

成分名:イミダクロプリド

商品名:フォートレオン、アドボケート(フィラリア予防も可)

経口タイプ

成分名:フルララネル

商品名:ブラベクト

関連記事新しいノミ・マダニ予防薬「ブラベクト錠」

成分名:アフォキソラネル

商品名:ネクスガード、ネクスガードスペクトラ(フィラリア予防も可)

成分名:スピノサド

商品名:コンフォティス、パノラミス(フィラリア予防も可)

ノミやマダニの活動は周囲の気温に影響され13度以下では活動できないと言われているので、「気温が13度になったら始めて、13度を下回ったら止める」というのが基本となっています。関東近辺では、概ね4〜11月に相当するのではないかと思います。

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まとめ

マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が、「犬から人」へ感染したというニュースについて解説しました。致死率20%といわれる恐ろしい病気ですので、我々自身もマダニから身を守らなければなりません。それと同時に、愛犬もマダニから身を守ってあげなければなりません。愛犬のノミやマダニの予防は難しいものではありませんので、必要な時期にはしっかりとノミ・マダニ予防をやるようにしましょう。