犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を丁寧に解説

この記事では、犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 水をたくさん飲んでたくさんおしっこをする症状(多飲多尿)がみられる犬の飼い主
  • 犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)とは

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、副腎皮質ホルモン(コルチコステロイド)が過剰な状態です。

副腎は、左右の腎臓の近くに存在しています。副腎は、皮質髄質からなり、皮質からミネラルコルチコイド(鉱質コルチコイド)グルココルチコイド(糖質コルチコイド)が、髄質からはアドレナリンが分泌されます。

▲犬の腎臓と副腎の位置関係

原因

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、副腎皮質ホルモン(コルチコステロイド)が過剰な状態ですが、これは①脳下垂体の腫瘍、②副腎の腫瘍、③グルココルチコイド(ステロイド)の過剰投与(医原性副腎皮質機能亢進症)のいずれかが原因となります。

また、脳下垂体や副腎の腫瘍を自然発生副腎皮質機能亢進症としてグルココルチコイドの過剰投与による医原性副腎皮質機能亢進症と区別しています。

脳下垂体の腫瘍

脳下垂体に腺腫と呼ばれる良性の腫瘍ができて、過剰に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌されるタイプで、下垂体性副腎皮質機能亢進症(PDH)と呼ばれます。

犬の自然発生副腎皮質機能亢進症では、80~85%が下垂体性副腎皮質機能亢進症であるとされています。

副腎の腫瘍

副腎が腫瘍化して、過剰な副腎皮質ホルモンを分泌するタイプで、副腎腫瘍性副腎皮質機能亢進症(AT)と呼ばれます。

犬の自然発生副腎皮質機能亢進症では、15~20%が下垂体性副腎皮質機能亢進症であるとされています。

グルココルチコイド(ステロイド)の過剰投与

アレルギー性疾患、炎症性疾患そして自己免疫疾患の治療や抗がん剤としてグルココルチコイド(ステロイド)を長期使用している場合に起こり、医原性副腎皮質機能亢進症と呼ばれます。

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副腎皮質機能亢進症の症状

副腎皮質機能亢進症は、副腎皮質ホルモンの過剰によって様々な臨床症状を示す全身性疾患です。副腎皮質ホルモンが過剰になると、水をよく飲んでおしっこをたくさんする多飲多尿食欲亢進お腹がビール腹のように大きく(主に肝臓の肥大が原因)なったり、手足の毛以外の部分が脱毛したり、皮膚が紙のように薄くなったりします。このうち多飲多尿がもっとも多くみられる臨床症状で、80~90%の犬にみられますが、必ずしも多飲多尿を示すとは限らないことに注意が必要です。

副腎皮質機能亢進症では、下垂体性でも副腎腫瘍性でも徐々に進行していきます。病気の初期は、単に食欲が亢進し、多飲多尿が見られる程度であるので、多くの飼い主さんは、病気であることに気がつかない場合が多いかもしれません。

脳下垂体性の場合には、下垂体腫瘍が大きくなることで脳に影響を与えてしまい、元気食欲の不振、徘徊、夜鳴き、頭を床に押し付けるなどの神経症状がみられることがあります。

副腎皮質機能亢進症は、関連する併発疾患が多数あります。例えば、副腎皮質ホルモンが過剰になると、最終的に免疫機能が抑制され、様々な病原体に対して抵抗性が失われるため感染症になりやすいです。その他に、糖尿病膵炎高血圧血栓塞栓症腎不全胆泥貯留などがあります。

副腎皮質機能亢進症の診断

血液検査でALP、ALT、コレステロール、血糖値の上昇BUNの減少が認められます。また、尿検査では尿比重の低下や蛋白尿、尿路感染症などが検出されます。

副腎皮質機能亢進症が疑われた場合には、追加試験としてACTH刺激試験が行われることが多いです。

また、腹部の超音波で副腎を検査することで、下垂体性か副腎腫瘍性かを鑑別することが可能です。下垂体性の場合には、可能な限り脳のMRI検査の実施が推奨されます。

副腎皮質機能亢進症の治療

下垂体性の副腎皮質機能亢進症の治療目的は、臨床症状を改善し、致死的になる可能性のある併発疾患(糖尿病、膵炎、高血圧、血栓塞栓症、腎不全など)を予防することで、良好な状態で生存期間を延長させることです。

治療には、外科療法や放射線治療もありますが、お薬による治療が選択されることが多いです。

OP’-DDD(商品名:ミトタン)とトリロスタン(商品名:アドレスタン)の2種類が主流となっています。前者は、副腎皮質の細胞を選択的に壊死させる薬剤で、一方後者は副腎皮質ホルモンの前駆物質の合成を阻害する薬剤で、それぞれ作用機序が異なるため、状況によって適切に使い分ける必要があります。

▲犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)治療薬アドレスタン(出典元:共立製薬株式会社HP

副腎腫瘍性の副腎皮質機能亢進症では、腫瘍化した副腎の外科的な摘出が推奨されます。

なお、医原性副腎皮質機能亢進症はグルココルチコイド(ステロイド)の長期投与によって発症するので、適切な投与計画や中止、および減量によって未然に発症を予防することが可能です。

まとめ

犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)について解説しました。多飲多尿、食欲亢進、お腹がビール腹のように大きくなる、脱毛、皮膚が紙のように薄くなるといった症状がみられたら、この病気の可能性がありますので動物病院を受診しましょう。

また、グルココルチコイド(ステロイド)をアレルギー性疾患、炎症性疾患そして自己免疫疾患の治療や抗がん剤として長期使用している場合には、医原性副腎皮質機能亢進症の兆候に注意するようにしましょう。