犬の肝酵素「AST」と「ALT」を獣医師がわかりやすく解説

動物病院で血液検査を受けた際、検査結果に「AST」や「ALT」と記載されているのを見たことはありませんか?
数値が高い・低いといった説明を受けたものの、その意味がわからず不安になる飼い主さんも多いでしょう。

この記事では、肝酵素の中でも「逸脱酵素」と呼ばれるASTとALTについて詳しく解説します。
愛犬の血液検査結果を確認しながら、ぜひ読み進めてみてください。

※正常値は検査機関や機器によって異なるため、必ず検査結果に記載された基準値を参考にしましょう。
※また、基準値を外れていても必ずしも病気というわけではありません。獣医師とよく相談することが大切です。

目次

はじめに:犬の肝酵素にはどんな種類があるの?

犬の血液検査で測定される肝酵素には、以下の4種類があります。

  • AST(GOT)
  • ALT(GPT)
  • ALP(アルカリフォスファターゼ)
  • GGT(γ-GTP、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)

これらは、肝臓や胆道系を含むさまざまな組織の状態を把握するための重要な指標です。

肝酵素はその性質により、2つのタイプ(グループ)に分けられます。

1つは逸脱酵素。細胞が壊れた際に血液中に漏れ出す酵素で、ASTとALTがこれに該当します。これらは細胞の障害や壊死が起きた際の重要なサインとなります。

もう1つは誘導酵素。刺激によって細胞内の産生量が増加し、血液中で高値を示す酵素で、ALPとGGTが該当します。誘導酵素については別の記事で詳しく解説しています。

今回はこのうち、逸脱酵素であるASTとALTにスポットを当て、異常値が示す意味について詳しく解説します。

AST(GOT)とは

ASTは正式にはアスパラギン酸アミノ基転移酵素(Aspartate Aminotransferase)と呼ばれる酵素で、以前はGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ:Glutamate Oxaloacetate Transaminase)という名称で広く知られていました。
GOTという名前は、酵素が関与する化学反応の一部(グルタミン酸とオキサロ酢酸を関与させる反応)に由来します。現在では国際的にASTという表記が一般的になっていますが、検査結果や獣医療の現場では「AST(GOT)」と併記されることも多いため、両方の呼び方を覚えておくと良いでしょう。

このAST(GOT)は、肝臓をはじめとして骨格筋・心筋・赤血球など様々な組織に広く分布する酵素です。
細胞がダメージを受けると、破壊された細胞内から血液中に漏れ出すため、「逸脱酵素」のひとつとして位置づけられています。

そのため、ASTの血中濃度が上昇する場合は、肝障害だけでなく、筋肉疾患や心臓疾患、さらには赤血球の破壊(溶血)なども原因となるのが特徴です。

検査会社基準値
富士フィルムモノリス18~65 IU/l
アイデックス(成犬)0〜50 IU/l
▲各検査会社におけるAST(GOT)の基準値

AST(GOT)高値の原因

AST(GOT)高値の原因として、肝細胞の破壊の他に、骨格筋の障害や心筋の障害そして溶血性疾患が原因として考えられます。

AST(GOT)高値の原因
肝細胞の破壊
 肝細胞の破壊を引き起こす具体的な病気は、次のALT(GPT)高値の原因を参照して下さい
骨格筋の障害
心筋の障害
溶血性疾患

AST(GOT)低値の原因

臨床的な意義なし

ALT(GPT)とは

ALTは正式にはアラニンアミノ基転移酵素(Alanine Aminotransferase)と呼ばれる酵素です。
以前はGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ:Glutamate Pyruvate Transaminase)と呼ばれていたため、今でも検査結果の表記や説明の際に「ALT(GPT)」と併記されることが一般的です。
GPTという名前は、この酵素がグルタミン酸とピルビン酸の間でアミノ基を移動させる化学反応を担っていることに由来しています。

ALT(GPT)は主に肝臓に存在する酵素で、他の臓器や組織にはほとんど含まれていません。
そのため、肝臓の細胞が障害を受けて壊れた際には、この酵素が血液中に逸脱し、数値が上昇します。
この特徴から、ALTは肝細胞の障害に対する特異度が非常に高い酵素と考えられており、血中での上昇が認められた場合は、まず肝臓の異常を疑うのが一般的です。

検査会社基準値
富士フィルムモノリス20~99 IU/l
アイデックス(成犬)10〜125 IU/l
▲各検査会社におけるALT(GPT)の基準値

ALT(GPT)高値の原因

ALT(GPT)高値の原因は、AST(GOT)と比較して他臓器への分布量が少ないため、肝細胞の破壊を起こす肝疾患に特異的であるといわれています。

ALT(GPT)高値の原因
肝細胞の破壊
 急性/慢性肝炎
 胆管炎/胆管肝炎
 肝硬変
 薬物性(グルココルチコイド、フェノバルビタールなど)
 肝臓への血流量の低下や低酸素症
 急性膵炎
 創傷
 腫瘍
 犬伝染性肝炎
 敗血症

ALT(GPT)低値の原因

臨床的意義なし

ASTとALTを組み合わせてみることでわかること

ASTとALTはどちらも肝細胞の破壊によって血液中に漏れ出る逸脱酵素ですが、ALTはより肝臓に特異的で、ASTは他の臓器(骨格筋、心筋など)由来の影響も受けるという違いがあります。

そのため、両者を組み合わせて考えることで、異常値の背景をより詳しく推測することが可能です。

  • ASTとALTが同時に上昇 → 肝細胞障害の可能性が高い
  • ASTのみ上昇 → 筋肉や心筋、赤血球など肝臓以外の組織障害を疑う

このように、ASTとALTのバランスは病変部位の推定において非常に有用です。

まとめ

犬の血液検査で測定される肝酵素のうち、ASTとALTは細胞が障害を受けたときに血液中へ逸脱する酵素(逸脱酵素)です。

ASTは肝臓だけでなく骨格筋や心筋、赤血球にも存在するため、異常値が出た場合は肝疾患だけでなく、筋肉や心臓の疾患も考慮する必要があります。

一方、ALTは肝臓にほぼ特異的な酵素であり、肝細胞が傷ついた場合に最も鋭敏に反応するマーカーです。

このように、ASTとALTを組み合わせて総合的に評価することで、異常の原因をより詳しく読み解くことが可能になります。

ただし、これらの数値だけで病気の有無を断定することはできません。
他の肝酵素(ALP、GGT)や、画像診断(レントゲン、超音波検査)、さらには血清総胆汁酸などと併せて、総合的な判断が必要です。

愛犬の血液検査で気になる数値があった際には、自己判断せず、必ず獣医師に相談しましょう。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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