犬のエストロゲン過剰症(高エストロゲン症)

愛犬の全身の毛が薄くなってきた時に、もし去勢手術や避妊手術を行っていない場合には、雌であれば持続的な発情徴候がないか、雄なら乳房の腫脹がないか確認してください。

特に潜在精巣の雄犬では注意しなければならない、犬のエストロゲン過剰症について解説します。

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エストロゲン過剰症とは

エストロゲンは、卵胞ホルモンまたは女性ホルモンとも呼ばれ、卵巣の顆粒膜細胞で作られますが、副腎皮質や精巣の間質細胞でも作られます。

エストロゲンとは
別名、卵胞ホルモンまたは女性ホルモン。卵巣の他、副腎や精巣でも作られる。

エストロゲン過剰症は、様々な原因により体内のエストロゲンが過剰となった状態で、別名高エストロゲン症とも呼ばれます。

エストロゲン過剰症とは
様々な原因により体内のエストロゲンが過剰となった状態
エストロゲン過剰症は、汎血球減少症を引き起こす再生不良性貧血の原因となることがあります。

原因

尿失禁などの治療としてエストロゲンを投与されている場合や、卵巣嚢腫あるいはエストロゲン産生性の卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫)や精巣腫瘍(セルトリ細胞腫)などの病気に伴って発生します。

エストロゲン過剰症の原因
エストロゲンを投与している場合、卵巣嚢腫、卵巣腫瘍、精巣腫瘍などの病気

精巣腫瘍は、特に高齢の潜在精巣の犬で好発します。ヨークシャーテリア、ポメラニアン、トイプードルなどの潜在精巣の好発犬種や、シェットランドシープドックで潜在精巣の発生率が高いといわれています。

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エストロゲン過剰症の症状

典型的なエストロジェン過剰症では、エストロゲンが被毛の発育を阻害することで脱毛症を引き起こします。この脱毛は、左右対称性の全身性脱毛であり、脂漏症や色素沈着がみられることもあります。

また、雌犬では持続的な発情の徴候、雄犬では雌性化症候群を引き起こすことがあります。雌性化症候群とは、エストロゲンの影響で雄にも関わらず乳房が腫脹してくることです。

症状のポイント
雌犬では持続的な発情の徴候、雄犬では雌性化症候群

しかし、初期あるいは軽度な場合には、明確な臨床症状を認めないこともあります。

またエストロゲン過剰症では、汎血球減少症が10~20%の犬に認められます。汎血球減少症とは、血液中の赤血球、白血球、血小板の全ての血中細胞成分が全体的に減少する現象で、エストロゲンの骨髄抑制の結果引き起こされます。

エストロゲン過剰症の診断と治療

診断

臨床症状として、皮膚に左右対称性全身性脱毛、脂漏症、色素沈着がみられ、さらに雌では持続する発情徴候、雄では乳房の腫脹などの雌性化症候群が認められた場合に、この病気を疑っていきます。

まずは、エストロゲン製剤の投与歴や去勢手術や避妊手術の履歴を確認します。

生殖器腫瘍の場合には、精巣や卵巣の腫大が触診や画像検査で認められます。汎血球減少症を起こしている場合には、血球計算で貧血、白血球減少症、血小板減少症がみられます。

追加検査で性ホルモンの測定を行うと、血清エストラジオールの上昇が認められます。

治療

エストロゲン製剤を投与している場合には、投与を中止します。

精巣や卵巣の異常が原因で、エストロゲンが過剰に産生されている場合には、避妊手術や去勢手術を行います。

治療のポイント
避妊手術や去勢手術

重度の骨髄抑制がみられる場合には、有効な治療法はなく、対症療法として輸血を必要に応じて繰り返し行います。白血球減少症を併発している場合には、感染のコントロールのために抗菌薬の全身投与も必要です。

予後

重度の骨髄抑制を併発していないエストロゲン過剰症では、原因が除去されれば予後は良好であるが、臨床症状(脱毛など)の改善には数ヶ月要することがあります。

転移を伴う卵巣あるいは精巣腫瘍、そして骨髄抑制が重度で汎血球減少症を呈した場合は、予後は悪いです。

予後のポイント
汎血球減少症を呈した場合は、予後は悪い

繁殖しない場合には、早期に去勢手術や避妊手術を行うことで、この病気は予防できます。潜在精巣は高率に腫瘍化するため、潜在精巣の場合には計画的な去勢手術を行うべきです。

まとめ

犬のエストロゲン過剰症について解説しました。去勢手術や避妊手術を行っていない場合で、全身の毛が薄くなってきた場合には、雌であれば持続的な発情徴候がないか、雄なら乳房の腫脹がないか確認するようにしましょう。特に潜在精巣の雄犬で発生率が高いので、要注意です。

この病気は、去勢手術避妊手術を行うことで予防できます。繁殖しない場合には、早期に去勢手術や避妊手術を行うのも一つの方法です。