動物病院で血液検査を受けた際、「葉酸」や「ビタミンB12(コバラミン)」の数値を見て戸惑ったことはありませんか?
この記事では、犬の健康に欠かせない葉酸とコバラミン(ビタミンB12)について、基準値や異常値が示す意味、考えられる原因をわかりやすく解説します。
愛犬の血液検査結果をお手元に置きながら、ぜひ最後までご覧ください。
・正常値は使用する検査機器や検査会社によって異なります。必ず検査結果用紙に記載された基準値を参照してください。
・検査結果が基準値を外れていても、必ずしも病気を意味するわけではありません。必ず担当獣医師の説明を受けましょう。
葉酸とコバラミン(ビタミンB12)の共通点とは
葉酸とコバラミン(ビタミンB12)は、どちらも核酸代謝や細胞分裂、造血に不可欠な水溶性ビタミンです。これらは共に赤血球の前駆細胞である赤芽球の正常な成熟を助け、不足すると貧血(巨赤芽球性貧血など)を引き起こす恐れがあります。
基本的には体内に十分な貯蔵があるため、血中濃度が低下している場合は長期的な栄養吸収不良や消化管障害を示唆します。
また、葉酸は小腸の空腸で、コバラミンは回腸で吸収されるという異なる吸収経路を持つため、小腸全体の疾患や吸収不良がある場合、どちらも不足する可能性が高まります。
このような背景から、臨床では葉酸とコバラミンはセットで測定され、消化管障害や膵外分泌不全などの診断に役立てられています。
葉酸(Folic acid)とは
葉酸は空腸で吸収されます。そのため、空腸に障害があると吸収が妨げられ、血中濃度が低下します。
ただし、小腸内の細菌が異常増殖する場合には例外があります。
細菌が葉酸を過剰に産生するため、葉酸濃度が上昇することがあるのです。
検査会社 | 基準値 |
---|---|
富士フィルムモノリス | 3.0~12.0 ng/ml |
アイデックス | 7.7〜24.4 ng/ml |
葉酸高値および低値の原因 |
葉酸高値の原因 近位小腸での細菌の過剰増殖 溶血 葉酸低値の原因 空腸の障害による吸収不良 |
コバラミン(ビタミンB12:Cobalamin)について
コバラミン(ビタミンB12)は回腸で吸収されるビタミンであり、血中濃度は小腸が障害を受けている場合、吸収不良によって低下することがあります。
この吸収過程には内因子(Intrinsic factor)という物質が必要で、犬では主に膵臓で産生されます。そのため、膵外分泌不全では内因子の不足によってコバラミンの吸収障害が起こりやすくなります。特に猫では内因子が膵臓のみで合成されるため、膵外分泌不全によるコバラミン欠乏が犬以上に頻繁に認められます。
また、前述のように小腸内細菌が異常に増殖している場合、細菌がコバラミンと結合してしまうことで吸収が妨げられ、血中濃度が低下することもあります。
これらの特性を利用し、葉酸とコバラミンの血中濃度は膵外分泌不全の診断の一助として活用されます。
たとえば、両方が低値を示す場合は小腸全体の障害を、葉酸が高値かつコバラミンが低値の場合は抗菌薬反応性腸症(抗生物質反応性腸症)などの細菌異常増殖を疑うことができます。このように、治療反応不良時の鑑別診断にも役立ちます。
なお、膵外分泌不全でコバラミンの吸収不良が起こっている場合には、経口投与では十分な吸収が期待できないため、非経口(注射など)でのコバラミン補充が必要になります。
検査会社 | 基準値 |
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富士フィルムモノリス | 230~900 pg/ml |
アイデックス | 252~908 pg/ml |
葉酸高値および低値の原因 |
葉酸高値の原因 近位小腸での細菌の過剰増殖 溶血 葉酸低値の原因 空腸の障害による吸収不良 |
まとめ
犬の葉酸とコバラミン(ビタミンB12)は、核酸代謝や細胞分裂に重要な水溶性ビタミンであり、主に小腸で吸収されるため、血中濃度の異常は消化管や膵臓の疾患を示唆することがあります。
特にコバラミンは膵臓で産生される内因子が吸収に不可欠であるため、膵外分泌不全では欠乏が生じやすく、非経口投与が必要になるケースもあります。
また、小腸内の細菌異常増殖によって葉酸とコバラミンの濃度パターンが逆転することがあり、これらの評価は膵外分泌不全や小腸疾患の鑑別に役立ちます。
さらに診断を確実にするためには、血中トリプシン様活性物質(TLI)の測定、超音波検査、内視鏡検査などの追加検査も重要です。
検査結果が基準値を外れていても、必ずしも病気とは限りません。
不安な場合は、かかりつけの獣医師と十分に相談し、必要に応じて適切な追加検査を受けるようにしましょう。