赤血球、白血球、血小板の全ての血中細胞成分が減少する「汎血球減少症」という病態があります。
その「汎血球減少症」を引き起こす原因の一つである、犬の再生不良性貧血について解説していきます。
再生不良性貧血とは
骨髄は骨の中に存在する組織で、あらゆる血球系細胞(赤血球、白血球、リンパ球、血小板のもとになる巨核球など)に分化できる造血幹細胞が存在します。
骨髄に存在し、あらゆる血球系細胞(赤血球、白血球、リンパ球、血小板のもとになる巨核球など)に分化できる細胞
再生不良性貧血では、骨髄の造血幹細胞が減少して造血能力が低下することで、血液中の赤血球、白血球、血小板の全ての血中細胞成分が減少する「汎血球減少症」がみられます。その他の、「汎血球減少症」を引き起こす病気として、骨髄異形成症候群(MDS)や悪性腫瘍の骨髄への転移などがあります。
血液中の赤血球、白血球、血小板の全ての血中細胞成分が減少する病気
原因
再生不良性貧血は、明確な原因が検出できないもの(特発性)と骨髄抑制を起こす明らかな原因が検出できるもの(二次性)に分類されます。
特発性再生不良性貧血の、造血幹細胞レベルの障害の原因としては、自己免疫疾患、遺伝子疾患、サイトカイン異常などが考えられています。しかし、犬での特発性再生不良性貧血は極めて稀であると考えられています。
二次性再生不良性貧血の原因として、パルボウイルス感染症、骨髄抑制薬物(抗がん剤)、放射線障害、エストロゲン過剰症(セルトリ細胞腫など)が挙げられます。
再生不良性貧血の症状
症状は、貧血、白血球減少症、血小板減少症に一致した症状がみられます。つまり、貧血による粘膜蒼白、白血球減少症による発熱などの感染症の症状、血小板減少症による皮下出血などの出血傾向です。
貧血、感染症、皮下出血など
再生不良性貧血の診断と治療
診断
血液検査では、血球計算で汎血球減少症がみられます。貧血は、中等度以上かつ進行性の非再生性貧血であり、同時に白血球減少症や血小板減少症がみられます。
医学では、貧血、白血球減少症、血小板減少症のうち2つを満たすことが診断基準とされているようです。
確定診断は、骨髄生検になります。コア生検材料での病理診断で、95%以上が脂肪に置換された骨髄、すなわち「脂肪髄」がみられた場合には、再生不良性貧血に一致した所見です。
汎血球減少症と骨髄生検での「脂肪髄」
治療
対症療法として、輸血が行われます。また、感染が存在する場合には、抗菌薬の投与を行います。
造血を促すための因子である、G-CSFやエリスロポエチンの投与は、一過性に血球数の増加をもたらす可能性があります。
造血能の回復を目指す治療として、ステロイドおよび免疫抑制剤の使用がありますが、有効性は不明のようです。
二次性再生不良性貧血では、その原因となっている疾患の治療を行いますが、骨髄の破壊が不可逆的で治療に反応しないことも多いです。
予後
予後の悪い疾患と考えられています。今後、幹細胞骨髄移植などの新しい治療法の開発が期待されています。
まとめ
犬の再生不良性貧血について解説しました。再生不良性貧血は、貧血、白血球減少症、血小板減少症が同時に発生する恐ろしい病気です。
犬の場合には、二次性再生不良性貧血が多いとされていますので、早期にその治療を開始していくことが重要となってきます。