犬の混合ワクチンに関しては、狂犬病予防法のような法律で定められた規則がないので、基本的には飼い主さんの任意となっています。そして規則がないため、初年度の接種回数や追加接種の間隔に関して様々な議論がなされています。
混合ワクチンに関する科学的知見や日本の混合ワクチン接種状況などを考慮して、犬の混合ワクチンについて解説していきます。
混合ワクチンとは
愛犬の為にしてあげる事の一つに、混合ワクチンの接種があります。これは、愛犬を怖い感染症から守ってくれる予防接種になります。特に抵抗力が弱い子犬が危険なウイルスに感染すると重症化しやすく、時に死を招いてしまうこともあります。
通常、1回の接種で複数の感染症が予防できるように、いくつかのワクチンが「混合」されています。
混合ワクチンの種類
混合ワクチンは、5種〜11種まで幅があります。ただし、ワクチンの製造元が製造を中止したり、新たに製造を開始することにより、流通するワクチンには変動があります。
※単味のワクチンや3種の混合ワクチンもありますが、使用される頻度は低いです。
世界中全ての犬に接種すべきワクチンとして、犬ジステンパー、犬伝染性肝炎、犬パルボウイルス感染症があり、これらを「コアワクチン」と呼んでいます。
また、犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス2型感染症そして犬パラインフルエンザウイルス感染症の5つは、基本的に全てのワクチンに含まれています。
また、子犬で特に致死率が高い病気は、犬ジステンパー、犬伝染性肝炎そして犬パルボウイルス感染症です。
ワクチンで予防できる病気とその症状は、以下の通りです。
ワクチンで予防できる病気と症状
犬ジステンパー
高熱、目やに、鼻水が出て、元気や食欲がなくなり、嘔吐や下痢もします。死亡率の高い病気で、助かっても麻痺などの後遺症が残る場合があります。
関連記事:犬ジステンパー
犬パルボウイルス感染症
経口感染により、激しい嘔吐・下痢を起こし、食欲がなくなり、急激に衰弱します。重症になると脱水症状が進み、短時間で死亡することもあります。伝染力が強く、死亡率の高い病気です。
関連記事:犬パルボウイルス感染症
犬伝染性肝炎
発熱、腹痛、嘔吐、下痢が見られ、目が白く濁ることもあります。子犬が感染すると、無症状のまま突然死することもあります。
犬アデノウイルス2型感染症
発熱、食欲不振、くしゃみ、鼻水の他、短く乾いた咳がみられ、肺炎を起こすこともあります。他のウイルスとの混合感染により症状が重くなり、死亡率が高くなる呼吸器疾患です。
犬パラインフルエンザウイルス感染症
風邪症状が見られ、混合感染や二次感染が起こると重症になり、死亡することも。伝染力が非常に強い病気です。
犬コロナウイルス感染症
成犬の場合は、軽度の胃腸炎で済むことが多いのですが、犬パルボウイルスとの混合感染で重症化することも。子犬の場合は、嘔吐と重度の水溶性下痢を引き起こします。
犬レプトスピラ感染症
ヒトにも感染する犬との共通感染症となっています。イクテロヘモラージ型やカニコーラ型などいくつかの型が存在します。
どのワクチンを打つべきか
ワクチンの種類は、「レプトスピラ無し」と「レプトスピラ有り」の大きく2つに分けることができます。
基本的に何種を打つかは、犬レプトスピラ症を予防するかどうかで決まってきます。そして、犬レプトスピラ症は国内で発生が多い地域とそうでない地域の傾向がありますので、それを目安とすると良いでしょう。一般に犬レプトスピラ症は、都市部では少なく地方では多いです。
「レプトスピラ無し」グループ
基本5種のみ=5種混合ワクチン
基本5種(5種)+犬コロナウイルス(1種)=6種混合ワクチン
「レプトスピラ有り」グループ
基本5種(5種)+犬コロナウイルス(1種)+犬レプトスピラ症(2〜5種)
=8〜11種混合ワクチン
※犬レプトスピラ症は、ワクチンにより予防できる型の数が異なります。
ワクチン接種のタイミング
子犬の初年度ワクチンとその後の追加接種で、考え方が変わってきます。
子犬の場合(初年度ワクチン)
母親由来の移行抗体があると、その時期に接種されたワクチンの効果を阻害してしまいます。しかし、犬によって移行抗体の無くなる時期に違いがあるため以下の通り接種することが推奨されています。
6〜8週齢でワクチン接種を開始し、その後2〜4週間隔でワクチン接種を行い、最終接種は16週齢またはそれ以降とする
出典元:世界小動物獣医師学会ワクチネーション・ガイドライングループ 2015年
また少し古い2010年のデータにはなりますが、日本で発売されている犬混合ワクチンの初年度接種についての添付文書をまとめた結果は、以下の通りでした。
②接種回数は、1 〜3 回であるが多くは2回接種である。③接種対象月齢は、初回の接種が4週齢以上、1カ月齢以上から12週齢未満まで分かれておりまた、妊娠している犬を除くという条件を付けているワクチンもあるので注意しなければならない。④注射間隔は、3~4週間隔となっている.
出典元:犬用ワクチンの概説 日獣会誌 2010年
このように添付文書の指示には、ワクチンごとにばらつきがあります。
日本では、2ヶ月齢前後に初回ワクチンを接種し、以後3〜4週間隔で1〜2回接種(合計2~3回接種)することが多いと思います。
国内で統一見解はなく、使用するワクチンの添付文書や動物病院の方針で決定されているのが実情だと思います。
成犬の場合(追加接種)
現在、日本では年1回の追加接種が多いと思われます。しかし、ワクチンの免疫持続期間はもっと長いので、3年に1回でもいいのではないかという議論がなされています。
それについては確かに、「コアワクチン」の3種類(犬ジステンパー、犬伝染性肝炎、犬パルボウイルス感染症)とそれ以外の「ノンコアワクチン」(犬アデノウイルス2型感染症、犬パラインフルエンザウイルス感染症、犬コロナウイルスそして犬レプトスピラ症)で免疫持続期間に違いがあります。
そして、免疫持続期間が切れる前に、追加接種を行えば良いので「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」での追加接種の間隔に違いが生じることになります。
しかし、日本では混合ワクチンに通常「コアワクチン」のみならず、「ノンコアワクチン」である犬パラインフルエンザ等も含まれているため、その事を考慮すると単純に追加接種は3年に1回でいいとはならなそうです。
現在考えられている、「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」の追加接種についての考え方は、以下の通りです。
コアワクチンの場合
コアワクチンの追加接種については、以下のように考えられています。
原則として初年度接種後は、3年ごとより短い間隔で接種すべきでない
出典元:世界小動物獣医師学会ワクチネーション・ガイドライングループ 2015年
ノンコアワクチンの場合
ノンコアワクチンの接種については、以下のように考えられています。
ノンコアワクチンの免疫持続期間は一般的に1年またはそれよりも短いため、特定のノンコアワクチンが必要な場合には毎年ワクチンを接種する
出典元:世界小動物獣医師学会ワクチネーション・ガイドライングループ 2015年
ワクチン接種後の注意事項
どの添付文書にも2〜3日の間、激しい運動やシャンプーを等を避けて安静にする旨の記載があります。なので、激しい運動をさせない軽いお散歩程度であれば、ワクチン接種当日でも問題ないと思われます。
またワクチン接種後、免疫が得られるまで2〜3週間かかるので、犬同士の接触を避ける旨の記載がありますので、すぐにはワクチンの効果が得られない点にも注意をしておきましょう。
そして副反応(副作用)が無いか、帰宅してからもよく観察してあげましょう。
ワクチン接種後の副反応(副作用)
顔面浮腫(ムーンフェイス)、掻痒、蕁麻疹などのアレルギー反応やショック症状(血圧、体温の低下、可視粘膜蒼白など)、意識障害そして呼吸困難などのアナフィラキシーショックに注意する必要があります。
日本で行われた、犬におけるワクチン接種後の副反応について調べた調査では、以下のように報告されています。
顔面浮腫などの皮膚症状が10,000頭あたり42.6頭
虚脱などのアナフィラキシーが10,000頭あたり7.2頭
出典元:Miyaji K, et al., 2012. Vet Immunol Imunopathol 145:447-452
ワクチン接種後は安静にして、ゆっくりと愛犬の様子を見てあげると良いでしょう。
まとめ
犬の混合ワクチンについて解説しました。接種するワクチンの種類や初年度接種回数および追加接種時期については、動物病院で獣医さんとよく相談されると良いでしょう。
愛犬にとって大切な混合ワクチン。しかしワクチン接種後は、副作用が出ることも予想されますので、なるべく安静にして様子を見てあげるようにしてあげましょう。
可能であれば、アレルギー症状やアネフィラキシーショックなどの副反応が出ても動物病院にすぐに連れて行けるように、午前中にワクチン接種することをお薦めします。