離乳期後の生後4~12週齢の移行抗体が低下する頃に、重度の胃腸症状を呈し、高い死亡率のウイルス感染症があります。
愛犬の混合ワクチンにコアワクチンとして必ず入っている、犬パルボウイルス感染症について解説します。
犬パルボウイルス感染症とは
パルボウイルスは、エンベロープを持たない直鎖一本鎖DNAウイルスです。特定の種間で感染し、細胞分裂が盛んな腸管、骨髄そしてリンパ系組織に感染します。
パルボウイルス感染症は100年以上も前に、猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス)として発見されました。その後に、犬のパルボウイルス(犬パルボウイルス1型)が、胃腸および呼吸器症状を示した犬の原因ウィルスとして発見されました。さらに、重度の胃腸症状を呈し高い死亡率を引き起こす犬パルボウイルス2型が発見されました。
重度の胃腸症状を呈し、死亡率の高いウイルス感染症
犬パルボウイルス1型と犬パルボウイルス2型は区別され、犬パルボウイルス1型の感染は通常無症状で臨床症状を示しません。犬パルボウイルス2型の潜伏期間は感染後3~7日であり、その後臨床症状が出現します。
子犬では、離乳期後の生後4~12週齢の移行抗体が低下する頃に、犬パルボウイルスの感染がピークを迎えるとされていますが、4ヶ月齢まではよく見られます。
原因
犬のパルボウイルス感染症は、犬パルボウイルスの感染によって起こります。犬パルボウイルスは、糞便や吐物内のウイルスを口や鼻から摂取することで感染します。
糞中へのウイルスの排出は、臨床症状が出るのよりも早く、感染後4~5日目に始まります。そして、ウイルスの排出は一般に7~10日で、通常感染から14日目までには終わるとされています。
犬パルボウイルスの経口もしく経鼻感染
32倍に希釈した漂白剤および四級アンモニア系消毒薬が有効
出典:「パルボウイルス性腸炎」クリニカルベテリナリーアドバイザー 2010. 監訳:長谷川篤彦 (株)インターズー 東京
犬パルボウイルス感染症の症状
一般的な臨床症状は、急性の嘔吐、下痢、元気消失、発熱であり、その結果として脱水症状を生じます。
急性の嘔吐、下痢、元気消失、発熱そして脱水症状
多くは、一過性であるが好中球の減少(総白血球数:500〜2000/μℓ程度)がみられます。また、同時に顕著なリンパ球減少もみられます。
そして、特に若齢犬においては、臨床症状の発現後24時間以内に死亡するケースもあります。
成犬のパルボウイルス感染症の場合には、無症状であることが多く、症状のあったとしても子犬ほど激しい症状を示すケースは少ないです。
犬パルボウイルス感染症の診断と治療
診断
犬パルボウイルス感染症2型は、問診、臨床症状、その他の下痢を起こす疾患の除外で診断されます。
抗原検査キットが、診断に有用であることが多く、感染して4~7日目に検出のピークを迎えます。
PCR検査による犬パルボウイルスの検出法は、抗原検査キットより感度が高いですが、検査結果が出るまでに時間がかかるデメリットがあります。また、生ワクチン接種後4~10日は、PCR検査による検出法では偽陽性を示すことがあり、さらに感染後10~12日目以降はウイルスの排出量が減少し、陰性となることがあるため注意が必要です。
精密検査として抗原検出キットやPCR検査、ただし検査のタイミングに注意
治療
犬パルボウイルス感染症は、無治療の場合の生存率は9.1%であり、積極的に治療を行った場合の生存率は80~95%とされています。
ほとんどのケースでは嘔吐を伴い、お薬の投与による治療が困難であり、点滴治療が必要なことが多いため、入院下による治療が必要となります。
治療は、低血糖、脱水の改善、電解質異常に対する輸液、抗菌薬、制吐剤、経腸栄養剤、コロイド輸液などの対症療法が中心となります。
入院による治療となることが多い
予後
無治療の場合の生存率は9.1%ですが、積極的に治療を行った場合の生存率は80~95%とされています。
無治療の場合の生存率は9.1%、積極的に治療を行った場合の生存率は80~95%
まとめ
犬のパルボウイルス感染症について解説しました。この病気は無治療の場合の生存率は9.1%ですが、積極的に治療を行った場合の生存率は80~95%と、治療の効果が期待できます。
この病気の厄介な点として、犬パルボウイルス1型そして2型は、極めて抵抗性の強いウイルスだという事です。そのため、同居犬などへの感染にも留意しなければなりません。