愛犬の尿検査で糖尿病では無いのに、尿糖が検出されたらどんな病気を考えますか?
多飲多尿の原因ともなる、犬のファンコーニ症候群について解説します。
ファンコーニ症候群とは
腎臓は、血液からの老廃物や余分な水分の濾過および排出を行って尿を生成する臓器です。そして腎臓は、「ネフロン」と呼ばれる特殊な構造が多数集まってできています。
その「ネフロン」は、数本の毛細血管が球状に絡まった「糸球体」と、糸球体からつながる「尿細管」という管でできています。「糸球体」は、血液をきれいにする濾過装置として働き、「尿細管」は、体に必要な成分や水分を再び吸収、不要な物質の分泌(排泄)をする働きがあります。
血液からの老廃物や余分な水分の濾過および排出を行って尿を生成する
ファンコーニ症候群は、腎臓の近位尿細管の全般的な機能不全を特徴とする疾患群で、ブドウ糖、アミノ酸、低分子蛋白、炭酸水素塩、リン酸、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、尿酸およびその他の有機酸などが尿中に過度に失われる病気で、原因として遺伝性や重金属や薬剤性などの後天性のものがあります。
腎臓の近位尿細管の全般的な機能不全を特徴とする疾患群で、ブドウ糖、アミノ酸、リン酸、炭酸水素塩などが再吸収されずに尿中にそのまま排泄される病気
原因
ファンコーニ症候群には、遺伝性のものと後天性のものがあります。
遺伝的な犬種としてバセンジーが挙げられ、アメリカでは10~30%の発生率とされています。また、ヨークシャーテリア、ラブラドールレトリバー、コッカースパニエル、ダックスフンド、ウィペット、シェットランドシープドッグ、シュナウザーで、この病気が報告されています。
後天的なものとして、重金属(鉛、銅、水銀)、薬物性(期限切れのテトラサイクリン、ゲンタマイシン、セファロスポリン、シスプラチン、ストレプトゾトシン、サリチル酸塩)、べトリントンテリアの銅蓄積症、ネフローゼ症候群、上皮小体機能亢進症、ビタミンD欠乏症、低カリウム血症、糸球体基底膜抗体や移植に関連した間質性腎炎によって起こります。
ファンコーニ症候群の症状
多飲多尿、体重減少、脱水などの症状を認めることもあれば、臨床症状がなく健康診断などで偶然見つかる場合もあります。ファンコーニ症候群は、近位尿細管に及ぼす影響がそれぞれ異なるため、合併症も異なります。
リン酸が過剰排泄された場合には、低リン血症を引き起こし、リン酸が骨形成に必要な物質のため、ビタミンDやカルシウムが十分にある場合でも、「くる病(骨の石灰化障害)」を起こします。また、炭酸水素塩の過剰排泄された場合には、近位尿細管アシドーシスを起こし、カリウムが過剰排泄された場合には、低カリウム血症を起こします。
なお、ブドウ糖、アミノ酸、蛋白質が過剰に排泄されても、通常血液中の濃度の低下は伴わないとされています。
ファンコーニ症候群の犬は、近位尿細管の障害に加え、抗利尿ホルモンに抵抗を示し、尿崩症(腎性尿崩症)となります。
ファンコーニ症候群の診断と治療
診断
ファンコーニ症候群の診断は、電解質異常や酸塩基平衡異常に加えて、高血糖を伴わない尿糖などの、近位尿細管機能不全を証明することです。
バセンジーの場合には、尿糖と正常な血糖値のみでさらなる確定診断は不要とされています。
高血糖を伴わない尿糖
治療
遺伝性のファンコーニ症候群と診断された場合には、原因療法が無いため、対症療法を行います。後天性の場合には、原因疾患が治療可能なものであればその治療と対症療法を行います。
対症療法としては、アシドーシスに対しては炭酸水素ナトリウムの投与を、リンの喪失に対しては活性化ビタミンDの投与を、カリウムの喪失に対してはカリウム製剤の投与を、水溶性ビタミンが不足することが考えられるのでその補給も検討します。
遺伝性の場合には対症療法、後天性の場合には原因疾患の治療と対症療法
予後
生存期間は、健常動物と比べて概ね変わらないとされています。
まとめ
犬のファンコーニ症候群について解説しました。バセンジーでは遺伝性であるとされているので注意が必要ですが、他の犬種では稀な病気であるとされています。
もし、尿検査で尿糖が検出されたにも関わらず、糖尿病では無い場合には、この病気を考える必要があるかもしれません。