犬のファンコーニ症候群を丁寧に解説

この記事では、犬のファンコーニ症候群について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院でファンコーニ症候群と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 尿検査で尿糖が検出された犬の飼い主
  • 犬のファンコーニ症候群慢性について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、ファンコーニ症候群について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

スポンサーリンク

ファンコーニ症候群とは

ファンコーニ症候群は、腎臓の(近位)尿細管の機能が低下することで、ブドウ糖などが過剰に尿中に排泄される病気です。

腎臓の働き

腎臓は腰のあたりに左右に2個存在する臓器で、代表的な働きは体液のバランスを一定に保つため、血液をろ過して尿という形で老廃物や水分などを排泄することです。

腎腎臓は、ネフロンと呼ばれる特殊な構造が多数集まってできています。そのネフロンは、数本の毛細血管が球状に絡まった糸球体と、糸球体からつながる尿細管という管でできています。

糸球体は、血液をきれいにする濾過装置として働き、尿細管は、体に必要な成分や水分を再び吸収、不要な物質の分泌(排泄)をする働きがあります。

ファンコーニ症候群は、腎臓の(近位)尿細管の機能が低下する病気です。その結果、本来再吸収されるべき、ブドウ糖、アミノ酸、リン酸、炭酸水素塩などが再吸収されずに、尿中にそのまま排泄されてしまいます。

犬のファンコーニ症候群は、非常に稀な病気です。

原因

ファンコーニ症候群の原因は、遺伝性後天性があります。

遺伝性ファンコーニ症候群

遺伝性の代表犬種は、バセンジーです。アメリカでのバセンジーでの発症率は、10~30%であると報告されています。

その他に、ヨークシャーテリア、ラブラドールレトリバー、コッカースパニエル、ダックスフンド、ウィペット、シェットランドシープドッグ、シュナウザーが報告されています。

後天性ファンコーニ症候群

後天性の原因として報告があるものは以下の通りです。

  • 重金属(鉛、銅、水銀)
  • 薬物性(期限切れのテトラサイクリン、ゲンタマイシン、セファロスポリン、シスプラチン、ストレプトゾトシン、サリチル酸塩)
  • べトリントンテリアの銅蓄積症
  • ネフローゼ症候群
  • 上皮小体機能亢進症
  • ビタミンD欠乏症
  • 低カリウム血症
  • 糸球体基底膜抗体
  • 移植に関連した間質性腎炎
スポンサーリンク

ファンコーニ症候群の症状

ファンコーニ症候群は、尿細管の機能の低下の程度より症状が異なります。

そのため、多飲多尿、体重減少、脱水などの症状を認めることもあれば、症状がなく健康診断などで偶然見つかる場合もあります。

また、尿中に過剰に排泄される物質により、症状が異なります。

  • リン酸の過剰排泄:低リン血症となり、くる病(骨の石灰化障害)を発症
  • 炭酸水素塩の過剰排泄:アシドーシス
  • カリウムの過剰排泄:低カリウム血症

なお、ブドウ糖、アミノ酸、タンパク質が過剰に排泄されても、通常血液中の濃度の低下は伴わないとされています。

ファンコーニ症候群の犬では、尿細管の障害に加え、抗利尿ホルモンに抵抗を示し、尿崩症(腎性尿崩症)を併発します。

ファンコーニ症候群の診断

ファンコーニ症候群の診断は、電解質異常酸塩基平衡異常に加えて、高血糖を伴わない尿糖などの、尿細管の機能の低下を証明することです。

遺伝性の代表犬種であるバセンジーの場合には、尿糖と正常な血糖値のみでさらなる確定診断は不要といわれています。

ファンコーニ症候群の治療

ファンコーニ症候群の治療は、遺伝性と後天性で異なります。

  • 遺伝性の場合:原因療法が無いため対症療法を行います
  • 後天性の場合:治療可能な原因であればその治療と対症療法を行います

対症療法として、以下の治療があります。

  • アシドーシス:炭酸水素ナトリウムの投与
  • リンの喪失:活性化ビタミンDの投与
  • カリウムの喪失:カリウム製剤の投与
  • 水溶性ビタミンが不足:ビタミンの補給

予後

ファンコーニ症候群の犬の生存期間は、健常犬と比べて概ね変わらないとされています。

まとめ

犬のファンコーニ症候群について解説しました。バセンジーでは遺伝性であるとされているので注意が必要ですが、他の犬種では稀な病気であるとされています。

もし、尿検査で尿糖が検出されたにも関わらず、糖尿病では無い場合には、この病気を考える必要があるかもしれません。