愛犬に、水をたくさん飲んでたくさんおしっこをする症状が見られた時に、どんな病気を考えますか?血液検査でその原因が判明することが多いですが、中には血液検査だけでは分からない場合もあります。
多飲多尿を起こす原因の一つとなる、犬の尿崩症について解説します。
尿崩症とは
腎臓は、尿素や尿酸などの老廃物や有害物質の排出、酸やアルカリを排出することによる体内のpHの調節、そして体内の過剰の水分と電解質の排出する働きがあります。
腎臓でのナトリウムの再吸収は、副腎皮質から分泌されるホルモンであるアルドステロンの働きにより促進され、腎臓での水の再吸収は、脳下垂体後葉から分泌されるバソプレッシン(抗利尿ホルモン)の働きにより増加します。
バソプレッシン(抗利尿ホルモン)には、腎臓の尿細管に作用して水の再吸収を増加させる作用と、血管を収縮させて血圧をあげる作用があります。
腎尿細管に作用して尿の再吸収促進、すなわち尿量を減少させる働きがある
尿崩症は、バソプレッシンの合成または作用が低下し、水の再吸収が低下することで多尿となる病気です。
バソプレッシンの合成または作用が低下し、多尿となる病気
原因
尿崩症は、下垂体から分泌されるバソプレッシンの分泌障害に起因する「中枢性尿崩症」と、腎尿細管のバソプレッシンに対する受容体の反応性低下に起因する「腎性尿崩症」に大別されます。
バソプレッシンが、脳の視床下部で合成され、下垂体後葉から分泌されます。脳の視床下部や下垂体後葉の先天的な異常による中枢性尿崩症は、犬でも報告がありますが非常に稀であり、下垂体腫瘍やそれに対する治療(放射線治療や摘出術)、もしくは外傷によって発症する後天的な尿崩症の例も報告があります。
バソプレッシン受容体の変異による家族性の腎性尿崩症は非常に稀であり、多くの場合は種々の腎疾患によってバソプレッシンの反応性が低下することによって起こる「続発性尿崩症」です。
脳に異常のある中枢性尿崩症と腎臓に異常のある腎性尿崩症がある
尿崩症の症状
中枢性尿崩症と腎性尿崩症の症状に違いは無く、多飲多尿を引き起こします。
多飲多尿
同様の多飲多尿を起こす病気として、以下のような病気が知られています。
尿崩症の診断と治療
診断
尿崩症は、ほとんど場合多飲多尿を主訴として来院するため、まず最初に行うべきことは、正確な飲水量を把握することです。犬が1日に100ml/kg以上飲水しているようであれば、明らかに多飲と言えます。例えば、5kgの犬であれば1日で500ml以上、10kgの犬であれば1日1,000ml以上の飲水量であれば、明らかな多飲と言えます。
1日に100ml/kg以上の飲水量(例、5kgの犬であれば1日で500ml以上)
次に尿検査を複数回実施し、尿比重が1.008~1.015もしくはそれ以下の低張尿であることを確認します。
そして、前述の多飲多尿を起こす病気との鑑別が重要となります。そのために、まず血液検査を行います。特に腎不全がある場合に、水制限試験を実施すると状態が悪化するリスクがあるため注意が必要です。
尿比重が常に<1.006で、腎不全が否定された場合は尿崩症が強く疑われ、その場合には水制限試験を実施し、バソプレッシンに対する反応を評価します。これによって、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、原発性(心因性)多飲を区別することができます。水制限試験とは、その名の通り犬の飲水を制限する試験です。
多飲多尿を起こす他の病気を除外し、最終的には水制限試験
治療
尿崩症の治療考えた場合、多尿が問題にならない環境であれば自由に水分を摂取できるようにすることで十分です。
その際、短期間の水分摂取不足で致命的な症状(高ナトリウム血症や高張性脱水による神経症状の発現など)が起こる可能性があるため、常に水を飲めるようにすることが重要です。
中枢性尿崩症の場合、デスモプレシン点鼻薬を用いることがありますが、腎性尿崩症の場合には無効です。部分的な中枢性尿崩症や腎性尿崩症の場合に、サイアザイド系の利尿剤を用いる場合もあるようですが、効果は様々なようです。
自由に水分を摂取させる(常に水を飲めるようにする)
予後
水分が摂取できないことによる、高ナトリウム血症や高張性脱水による神経症状の発現などの致命的な症状に注意が必要です。
水が摂取できないと致死的となることがある
まとめ
犬の尿崩症について解説しました。多飲多尿を起こす病気は、血液検査で原因が判明することが多いですが、この病気は最終的に水制限試験を行います。
尿崩症では、水分が摂取できないことで致命的な状況になるので、常に水を飲めるようにすることが重要です。