犬の子宮蓄膿症を丁寧に解説

この記事では、犬の子宮蓄膿症について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で子宮蓄膿症と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 避妊手術を行っていない犬の飼い主
  • 犬の子宮蓄膿症について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、子宮蓄膿症について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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子宮蓄膿症とは

子宮蓄膿症は、子宮内腔に膿が貯留した病気です。

子宮とは

体内で子犬(胎子)を育てるときには胎子の入れ物になる器官

子宮蓄膿症では、①子宮内膜の嚢胞性増殖と、②細菌感染による炎症(子宮内膜炎)が起きた結果、子宮内腔に膿が貯留します。

子宮蓄膿症は、中年齢の未避妊雌にみられる一般的な病気で、発症の平均年齢は8〜10歳です。しかし、若い犬でも発症することがあります。

子宮蓄膿症は、発情出血開始後1〜2ヵ月頃に発症することが多いです。これは、病気の発症に黄体ホルモン(プロジェステロン)が関与しているためです。

症状が進行すると腎不全、敗血症、播種性血管内凝固(DIC)を起こし死に至る病気です。

原因

子宮蓄膿症の発症には黄体ホルモン(プロジェステロン)細菌感染の要因があります。

  • 黄体ホルモン(プロジェステロン)
    犬では排卵後、妊娠の有無に関わらず黄体ホルモンの分泌が約2ヶ月続きます。この作用により、子宮内膜が肥厚します。
    高齢になればなるほど、発情のたびに繰り返し子宮内膜が刺激され肥厚します。
  • 細菌感染
    最も多いのは大腸菌の感染です。

つまり、①子宮が黄体ホルモンに刺激されその内膜が肥厚し、②細菌感染が起こった結果、子宮蓄膿症が発症すると考えられています。

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子宮蓄膿症の症状

子宮蓄膿症では、飲水量が増えおしっこの回数と量が増加(多飲多尿)が典型的な症状です。また、元気消失嘔吐や食欲不振外陰部からの排膿お腹を触ると痛がるなどの症状がみられます。

子宮蓄膿症でよく見られる症状
  • お腹を触ると痛がる(76%)
  • 嘔吐や食欲不振(75%)
  • 多飲多尿(71%)
  • 元気消失(71%)
  • 外陰部からの排膿(52~85%)

症状が進行すると、体温上昇、頻脈、呼吸促迫がみられ、腎不全敗血症播種性血管内凝固(DIC)を起こし死に至ることもあります。

子宮蓄膿症では、外陰部から排膿するタイプ(開放性子宮蓄膿症)排膿しないで子宮内に貯留するタイプ(閉鎖性子宮蓄膿症)があります。なお、子宮内の膿の貯留量と臨床症状の重症度は比例しないとされています。

開放性子宮蓄膿症

発情に引き続いて外陰部が腫れ、血混じりの膿を排出し続けます。場合によっては、犬が陰部を舐めることにより、膿に気がつかないこともあるので、注意が必要です。

閉鎖性子宮蓄膿症

膿が外に排出されずに、子宮内に貯留するタイプです。そのため、時間とともにお腹が大きく膨らみ、場合によっては肥満と勘違いされることもあります。

このタイプでは膿が体外に排出されないため、短期間で重篤な症状に至ることがあります。

子宮蓄膿症の診断

子宮蓄膿症の診断は、問診、血液検査、レントゲンや超音波検査などの画像検査を行います。

問診では、避妊手術をしていない雌犬であり発情出血開始後1〜2ヵ月であることを確認します。

血液検査では、白血球数の増加炎症マーカー(CRP)の高値がみられます。また、血中尿素窒素(BUN)クレアチニン(Cre)ALPの上昇がみられることが多いです。特にBUNやCreの高値がみられた場合には、血中エンドトキシンの濃度上昇(敗血症)が示唆されるため、命の危険がある状態です。炎症マーカー(CRP)は、重症度の診断や治療の効果を示す指標となります。

レントゲンや超音波検査などの画像検査では、液体が貯留し腫大した子宮が確認できます。

子宮蓄膿症の治療

子宮蓄膿症の治療は、外科手術内科的治療があります。多くの場合には、外科手術卵巣子宮摘出術)が推奨されます。状況に応じて、内科的治療を選択します。

外科手術

ほとんどの場合に、卵巣子宮摘出術を行うことですみやかな術後の回復がみられ、再発のリスクを抑えることもできます。費用はおよそ10万〜30万円程度です。

内科的治療

内科的治療を行う場合は、以下の状況が想定されます。

  • 犬の状態が悪く麻酔が危険な場合
  • 飼い主が手術を望まない場合
  • 将来的に繁殖させたい場合

ただし、内科的治療は基本的に解放性子宮蓄膿症が対象となります。

内科的治療の欠点は、次のとおりです。

  • 効果の発現までに時間を要する
  • 再発リスクが加齢とともに高まる
  • 繁殖不可能な場合があること

近年は、安全性の高い治療薬としてプロジェステロン受容体拮抗薬であるアグレプリストン(商品名Alizine)が用いられています。抗菌薬を投与しながら、Alizine(アリジン)を、1、2、7、14日目(または1、3、6、9日目)に注射します。

この方法は、高い改善率(およそ100%)が報告されています。

予後

外科的治療の予後は、一般に良好です。死亡率は5%程度とされています。しかし、手術前に敗血症と診断された場合には、死亡率が上昇します。

内科的治療も予後は、一般に良好ですが、次回以降の発情で再発する可能性が高いです。そのため症状が落ち着いたら、避妊手術を実施することが推奨されます。

予防

子宮蓄膿症は予防可能な病気です。繁殖の目的がない場合は、避妊手術を実施することが最も有効です。

まとめ

犬の子宮蓄膿症について解説しました。近年は、早期に避妊手術が行われることが多く、昔に比べて診断することが少なくなった病気の一つです。避妊手術を実施していない雌犬の場合には、飲水量の増加や排尿の回数と量の増加そして陰部からの膿に気を付けましょう。

この病気は、避妊手術をすれば防げる病気なので、適切な時期に手術をしてしまうことをお勧めします。