犬のリンパ性白血病を丁寧に解説

この記事では、犬のリンパ性白血病について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院でリンパ性白血病と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 血液検査で白血球数の増加がみられる犬の飼い主
  • 犬のリンパ性白血病について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、リンパ性白血病について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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リンパ性白血病とは

白血病は、血液のがんです。リンパ性白血病とは、骨髄のリンパ系の過程の細胞が腫瘍性増殖したものです。

骨髄は、骨の中に存在する組織です。その中に、あらゆる血球系細胞に分化できる造血幹細胞が存在します。造血幹細胞は各種の血球系細胞へ分化し、成熟した細胞として血液中に放出されます。

血球系細胞とは

赤血球白血球、血小板のもとになる巨核球

造血幹細胞の分化の過程は大きく分けて、白血球の一種であるリンパ球をつくるリンパ系と、それ以外の白血球、赤血球、血小板をつくる骨髄系の2つがあります。

造血幹細胞の分化

  • リンパ系 → リンパ球
  • 骨髄系  → リンパ球以外の白血球
         → 赤血球
         → 巨核球(血小板)

白血病は、骨髄中にある造血幹細胞が腫瘍性増殖し、正常な血液を作ることができなくなる病気です。腫瘍性増殖した造血幹細胞は、白血病細胞と呼ばれます。白血病は腫瘍細胞の種類により、以下の2種類に分類されます。

  • リンパ性白血病:リンパ系の過程の細胞が腫瘍化したもの
  • 骨髄性白血病:骨髄系の過程の細胞が腫瘍化したもの

腫瘍化した骨髄内の腫瘍細胞(白血病細胞)は、徐々に増殖し骨髄を占拠していきます。そうすると、正常な血球系細胞が減少し、貧血好中球減少血小板減少などがみられるようになります。

リンパ性白血病は、病気の進行のパターンから以下の2つに分類されます。

  • 急性リンパ芽急性白血病(ALL):リンパ芽球および前リンパ球の増殖がみられる
  • 慢性リンパ球性白血病(CLL):成熟リンパ球の増殖がみられる

原因

腫瘍は、遺伝子や染色体に傷がつくことで発症します。しかし、リンパ性白血病の詳細な原因は不明です。

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骨髄性白血病の症状

急性リンパ芽球性白血病と慢性リンパ性白血病で、症状が異なります。

急性リンパ芽球性白血病

急性リンパ性白血病では、元気消失、食欲不振、体重減少などがみられます。特有の症状は、少ないです。

腫瘍細胞が骨髄を占拠することにより、赤血球減少、好中球減少、血小板減少がみられます。それらに伴う、以下の症状がみられます。

  • 赤血球減少:貧血
  • 好中球減少:免疫力低下による感染症
  • 血小板減少:出血が抑制できない出血傾向

犬の急性白血病のうち、45%が急性リンパ芽球性白血病と報告されています。この 急性リンパ芽球性白血病は、B細胞大顆粒リンパ球由来の細胞が腫瘍化していることが多いです。その場合には、高カルシウム血症がみられることが多いです。

慢性リンパ性白血病

慢性リンパ性白血病では、リンパ節の腫大以外は無症状のことが多いです。しかし、病気の進行に伴い、最終的には急性リンパ芽球性白血病と同様の症状がみられます。

慢性リンパ性白血病は、T細胞由来が73%、B細胞由来が25%であったと報告されています。

腫瘍に伴う症状として、以下の病態がみられます。

  • 過粘稠症候群:血液の粘稠性が増加する
  • モノクローナルガンモパチー:高グロブリン血症の中でも1種類の免疫グロブリンを産生する

リンパ球性白血病の診断

リンパ球性白血病の血液検査では、白血球数の増加がみられます。

急性リンパ芽球性白血病と慢性リンパ性白血病では、それぞれ以下のリンパ球の増殖がみられます。

  • 急性リンパ芽球性白血病:リンパ芽球および前リンパ球
  • 慢性リンパ性白血病:成熟リンパ球

リンパ球性白血病の確定診断は、骨髄検査です。

骨髄検査

骨に針を刺して、骨の中にある骨髄組織を採取する検査​

急性リンパ芽球性白血病と慢性リンパ性白血病は、それぞれ次の病気との鑑別が重要です。

  • 急性リンパ芽球性白血病:リンパ腫のステージ5
  • 慢性リンパ性白血病:炎症性腸炎や胆管肝炎などの慢性的な炎症

リンパ球性白血病の治療

急性リンパ芽球性白血病と慢性リンパ性白血病で、治療が異なります。

急性リンパ芽球性白血病

急性リンパ芽球性白血病の治療は、化学療法を行います。

化学療法とは

化学療法剤(抗がん剤、化学物質)を使って、がん細胞の増殖を抑えたり破壊したりすることによる治療

慢性リンパ性白血病

慢性リンパ性白血病は、無治療で経過をみていきます。しかし、以下の場合には治療が推奨されます。

  • 何らかの臨床症状がある場合
  • 60,000/μℓを超えるリンパ球増加がみられる場合

予後

急性リンパ芽球性白血病は、予後に関して以下の報告があります。

  • 化学療法の効果がみられる割合は30~50%
  • 平均生存期間は2~4ヶ月

慢性リンパ性白血病は、ゆっくり進行する病気です。予後に関して以下の報告があります。

  • 平均生存期間は1~3年
  • リンパ腫や急性リンパ芽球性白血病に転換した場合には、予後は悪化する

まとめ

犬のリンパ性白血病について解説しました。急性リンパ芽球性白血病と慢性リンパ性白血病では、病気の進行のパターンが大きく異なるため、注意が必要です。  急性リンパ芽球性白血病で、抗がん剤による化学療法が選択肢とならない場合に、グルココルチコイド(ステロイド)により症状が緩和する可能性があるとされています。