犬の乳腺腫瘍

愛犬が避妊手術をしていなくて、お腹の乳腺領域に「しこり」ができたら、どんな病気を考えますか?

乳腺に発生する腫瘍である、犬の乳腺腫瘍について解説します。

犬の乳腺腫瘍とは

乳腺とは、哺乳類の乳汁を分泌する組織です。そして乳腺に発生する腫瘍を乳腺腫瘍と呼び、良性と悪性に分けられ、悪性と判明すると「乳腺癌」と呼びます。

雌犬で一般的にみられ、発生年齢の中央値は10~11歳であり、良性と悪性の比率は概ね1:1であると言われています。ただし、小型犬の方が大型犬に比べて良性の比率が高いことが報告されています。

乳腺腫瘍
乳腺に発生する腫瘍で、悪性と判明すると乳腺癌と呼ばれる

原因

乳腺組織は、エストロジェン受容体とプロジェステロン受容体を発現しており、これらの受容体を介したホルモンの継続的な暴露が、腫瘍の発生に関与していると考えられており、乳腺腫瘍の発生はホルモン依存性であるとされています。

ホルモン依存とは、卵巣ホルモンの分泌と腫瘍の発生が関連していることを意味し、卵巣摘出(避妊手術)によって乳腺腫瘍の発生を抑えられることができます。

統計的には、未避妊犬は避妊犬に比べて7倍乳腺腫瘍の発生率が高いと報告されています。また、避妊手術の時期によって乳腺腫瘍の発生率は異なり、初回発情前で0.05%、初回発情後で8%、2回目発情後で26%と報告されています。

また、若齢期の肥満は血清エストロジェン濃度を上昇させ、これが乳腺の腫瘍発生リスクを高めると考えられています。

人の乳がんでは、HER-2(human epidermal factor-2)というがん遺伝子が知られており、この遺伝子が活性化している乳がん組織では、悪性度が高くなるとされています。人医療では、このHER-2により産生されるタンパク質の働きを抑える薬(商品名:ハーセプチン)が、治療として使用されることがあるそうです。

そして犬の悪性乳腺腫瘍においても、17~29%でHER-2遺伝子の発現がみられるそうです。

乳腺腫瘍の原因
卵巣ホルモンの分泌と腫瘍の発生が関連しているとされている

乳腺腫瘍の症状

乳腺腫瘍の症状として、乳腺内に単一または多発性の結節(しこり)がみられます。犬の乳腺腫瘍の約65~70%が第4・第5乳腺に発生すると報告されています。また、悪性(乳腺癌)の遠隔転移部位として、肺と内腸骨リンパ節、胸骨リンパ節、肝臓まれに骨に転移をします。

まれに、乳腺癌の中でも特に悪性度の高い「炎症性乳癌」と呼ばれる、急速増大し複数の乳腺に浸潤し、硬く、熱感があり、むくみや皮膚の赤みそして痛みを特徴とするタイプのものが発生することがあります。

この炎症性乳癌は、真皮のリンパ管に腫瘍塞栓を形成している悪性の乳腺腫瘍と考えられています。

症状のポイント
乳腺領域での「しこり」で、特に第4・第5乳腺での発生が多い

乳腺腫瘍の診断と治療

診断

乳腺領域にしこりを見つけた場合に、乳腺腫瘍を疑っていきます。

悪性腫瘍である可能性を考え、腋窩リンパ節や胸骨リンパ節、そして鼠径リンパ節や腰下リンパ節群の腫大の有無について確認します。

手術の前に、針生検(細い針で細胞を取って顕微鏡で観察する検査)を行うことがあります。犬の乳腺腫瘍では、この検査で乳腺腫瘍が良性か悪性かの判断は難しいとされているのですが、乳腺領域に発生した他の腫瘍(肥満細胞腫やリンパ腫など)の可能性を除外する目的があります。

なお、腫瘍の大きさと悪性腫瘍の発生率には相関があるとされ、1cm未満で1%、1~2cmで7%、2~3cmで18%、3~5cmで45%、5cm以上で57%で悪性腫瘍であるとされています。

このことは、良性腫瘍が時間経過とともに悪性腫瘍に転化しうる可能性を示唆するとされています。

診断のポイント
乳腺領域での「しこり」で、特に第4・第5乳腺での発生が多い

治療

前述のとおり乳腺腫瘍が良性であるか悪性であるかは、乳腺腫瘍を切除して病理組織検査をしなければ分からないと言われています。そのため、基本的には乳腺腫瘍の外科的な切除(手術)が適応になりますが、炎症性乳癌は救命が難しいため適応にはなりません。

手術の方法には、腫瘍のみを切除するものから左右の全ての乳腺を切除するものまであります。腫瘍が完全に切除されれば、治療成績に影響しないのではないかとも考えられていますが、手術の方法については動物病院により違いがあると思われます。

抗がん剤による化学療法についての有効性は、確立されていないとされています。

治療のポイント
炎症性乳癌を除いて、治療の第一選択は腫瘍の切除

予後

乳腺腫瘍の大きさは、重要な予後の指標であると言われています。例えば腫瘍の直径が3cm以下と直径3cm以上の術後の生存期間を比べると、前者で22ヶ月で後者で14ヶ月と有意差があったことが示されています。

また、リンパ節転移のある犬の80%以上が6ヶ月以内に再発し、対照的にリンパ節転移のない乳腺癌の手術後再発率は30%以下であったとの報告があります。

まとめ

犬の乳腺腫瘍について解説しました。犬の乳腺腫瘍は2回目発情前の避妊手術により発生率を大幅に下げることができるので、早期の避妊手術を推奨します。

また、乳腺腫瘍は大きさやリンパ節転移の有無で生存期間が左右されますので、日頃からスキンシップでお腹のあたりを触り、しこりがないかチェックしてあげると良いでしょう。

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