犬の膿皮症

人で俗に「とびひ」と呼ばれる皮膚病があります。これは正式には伝染性膿痂疹と言い、細菌による皮膚の感染症であり、ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌などが原因菌となります。

同じ皮膚の細菌感染である、犬の膿皮症について解説します。

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犬の膿皮症とは

膿皮症(のうひしょう)は、皮膚において細菌が増殖することによって起こる病気です。そして、犬の皮膚病の中に占める膿皮症の割合は、非常に高いとされています。しかし、その他の動物種、例えば人、猫、げっ歯類では膿皮症の起こる比率は犬に比較すると低いとされ、犬に膿皮症が多い理由は未だ不明です。

膿皮症は、細菌の感染する部位によって表在性膿皮症と深在性膿皮症に分類されます。なお表面性膿皮症、表在性膿皮症、深在性膿皮症の3つに分類する場合もあります。

犬の皮膚を断面で観察すると、一番外側の外界と接する方から表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっており、細菌が毛穴や皮膚表面に感染したものを表在性膿皮症、真皮や皮下組織で感染したものを深在性膿皮症と呼びます。一般に、表在性膿皮症が進行して深在性膿皮症となることが多いです。

膿皮症
皮膚において細菌が増殖することによって起こる病気
(図)部位による犬の膿皮症の分類
※人の皮膚の模式図なので、細部では犬の皮膚とは異なることに注意が必要

原因

表在性膿皮症は、皮膚あるいは皮膚のバリア機能に異常が起きて、細菌の感染が成立することで発生すると考えられています。そして、表在性膿皮症で最もよく分離されるのは、「Staphylococcus pseudintermedius」という皮膚に常在してる細菌です。また、犬の膿皮症全体で発生頻度が最も高いのが、毛包に細菌が感染した表在性細菌性毛包炎と呼ばれるタイプです。

犬が皮膚あるいは皮膚バリア機能に異常を起こす原因として、アレルギーや内分泌疾患などが挙げられます。内分泌疾患として代表的なものは、甲状腺機能低下症副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)などがあります。また、膿皮症は皮膚バリア機能が未熟な若齢犬での発症も多いです。

深在性膿皮症では前述の「Staphylococcus pseudintermedius」に加え、「Proteus spp」「Pseudomonas spp」「E. coli.」などの感染が報告されています。

膿皮症の症状

表在性膿皮症の主な症状は、初期には皮膚に膿疱(膿汁の入った水疱)や丘疹(赤いブツブツ)がみられます。そして膿疱が破裂するとリング状に剥がれた痂皮(かさぶた)が見られ、これを表皮小環と呼び、膿皮症に特徴的な症状とされます。通常、表在性膿皮症は痒みを伴います。

また、深在性膿皮症では皮膚に潰瘍や瘻孔(管状の穴)がみられ、血液、滲出液、膿汁などを排出します。特に、単一の毛穴に限定される場合を「フルンケル(別名:せつ)」、皮下組織まで広がったものを「フレグモーネ」、または「蜂窩織炎」と呼ぶことがあります。深在性膿皮症では、時に強い炎症を伴い発熱や痛みを認め、元気・食欲の低下を伴うこともあります。

症状のポイント
表在性膿皮症では膿疱、丘疹そして表皮小環が、深在性膿皮症では潰瘍や瘻孔がみられる

▲犬の腹部にみられた表在性膿皮症

膿皮症の診断

毛穴に一致した丘疹や膿疱および表皮小環などの臨床症状で、膿皮症を強く疑うことができ、他の膿疱を形成する皮膚疾患の除外を行うことで診断します。膿皮症以外で膿疱を形成する代表的な病気として、落葉状天疱瘡があります。

膿皮症の検査には、細胞診や細菌培養検査および感受性試験などがあります。

細胞診は、膿疱の内容物や痂皮を剥がしてサンプルを採取します。「Staphylococcus pseudintermedius」であれば顕微鏡で球形の菌の集まりが観察され、炎症細胞による細菌の貪食像を確認することができます。

細菌培養検査および感受性試験とは、どのような細菌が存在し(細菌培養検査)、それに対しどのような抗菌薬が有効か(感受性試験)を調べる検査です。特に、抗菌薬での全身療法への反応が悪い場合には実施が推奨されています。

犬の膿皮症における多剤耐性ブドウ球菌の報告が増加しており、アメリカの皮膚科専門施設で行われた細菌培養検査の50%以上で、メチシリン耐性ブドウ球菌が検出されたとの報告もあるので注意が必要です。

診断のポイント
臨床症状と細胞診や細菌培養検査および感受性試験

膿皮症の治療

膿皮症の治療には、外用療法と抗菌薬による全身療法があります。

外用療法

外用療法は、膿皮症の範囲が限局性している場合や、全身性だが早期で軽症な場合に適応となります。抗菌性シャンプーおよび抗菌性外用剤を使用します。特に抗菌性シャンプーでは、細菌、皮脂、汚れを皮膚表面から物理的に除去し、細菌の増殖を抑制する効果も期待できます。

抗菌性シャンプーや外用剤は、クロルヘキシジン、過酸化ベンゾイル、乳酸エチルなどを成分として含有するものが推奨されています。

全身療法

抗菌薬による全身療法は、外用療法を実施しても良くならない場合や、膿皮症が全身性にみられる場合、そして深在性膿皮症の場合に使用されます。

第一選択薬として、第一世代セファム系抗生物質やクラブラン酸・アモキシシリン水和物などの投与が推奨されています。

治療のポイント
外用療法と全身療法を適切に選択して治療する

予後

表在性膿皮症は診断が適切であれば、治療に反応することが多いです。しかし、なかなか治らない場合や頑固に繰り返す場合は、抗菌薬が効かない多剤耐性菌やアレルギーや内分泌疾患などの基礎疾患を考慮する必要があります。

深在性膿皮症は治りにくい場合に、外科的に切除することもあります。

まとめ

犬の膿皮症について解説しました。近年は、医療でも多剤耐性菌が問題となっています。獣医療では比較的安易に抗菌薬を投与する傾向があります。

前述の通り軽度な膿皮症であれば、外用療法でも治療が十分可能なので抗菌薬に頼らない治療を行うべきです。何故ならば、抗菌薬の乱用で耐性菌を作り、それにより膿皮症が治らないという悪循環に陥るからです。

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