犬の多形紅斑/中毒性表皮壊死症を丁寧に解説

この記事では、犬の多形紅斑/中毒性表皮壊死症(たけいこうはん/ちゅうどくせいひょうひえししょう)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で多型紅斑/中毒性表皮壊死症と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 皮膚に”標的”または”雄牛の眼”を形成する紅斑や丘がみられる犬の飼い主
  • 犬の多型紅斑/中毒性表皮壊死症について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、多形紅斑/中毒性表皮壊死症について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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犬の多形紅斑(EM)/中毒性表皮壊死症(TEN)とは

多形紅斑と中毒性表皮壊死症は、共に皮膚の過敏症という似た特徴を持つ病気です。軽症タイプが多形紅斑、重症タイプが中毒性表皮壊死症と考えられています。

多形紅斑は、赤く盛り上がった斑状の病変を特徴とする炎症性皮膚病であり、中毒性表皮壊死症は、全身の皮膚が紅くなり、擦るだけでズルズルと剥離し、まるで火傷のようになる重篤な皮膚病です。

ただし実際に、多形紅斑と中毒性表皮壊死症がほぼ同じ病気で、症状の重症/軽症が主な違いなのか、病気そのものが違うのかについては医学領域、獣医学領域ともまだ結論は出ていません。

多形紅斑/中毒性表皮壊死症は、犬ではほとんど診断されることはない珍しい病気です。

原因

多型紅斑/中毒性表皮壊死症の正確な発生機序は不明ですが、様々な原因により皮膚(表皮)の角化細胞(ケラチノサイト)が変化することで、異常な免疫応答の標的になってしまう細胞介在性過敏症であると考えられています。その結果いずれの場合においても、表皮の角化細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)が引き起こされます。

犬の多形紅斑の原因として薬物、感染(ウイルスなど)が、中毒性表皮壊死症の原因として、ほとんどの場合薬物が関連しているとされています。

(参考)ヒトの多形紅斑/中毒性表皮壊死症
ヘルペスウイルスや肺炎マコプラズマとの関連や原因不明とされる場合もありますが、薬物が原因となることが圧倒的に多いとされます。

発生頻度

★☆☆☆☆ ほとんどみない病気

発生頻度を5段階で評価。5:日常的にみられる病気 4:よくみられる病気 3:時々みられる病気 2:めったにみない病気 1:ほとんどみない病気

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多形紅斑/中毒性表皮壊死症の症状

犬の多形紅斑/中毒性表皮壊死症の症状は、前述の通り多形紅斑は軽症タイプで、中毒性表皮壊死症が重症タイプです。

多形紅斑は、真ん中から周囲に広がる環状または蛇行性の”標的”または”雄牛の眼”を形成する紅斑や、やや盛り上がった丘疹や局面が特徴的です。まれに全身性の鱗屑(角質が肥厚して剥離したもの)、痂皮(かさぶた)、紅斑、脱毛がみられることがあります。

中毒性表皮壊死症は、痛みを示す小水疱、水疱、潰瘍および表皮壊死が特徴的です。元気や食欲の低下と発熱を伴うことがあります。

多形紅斑の皮膚病変の模式図

多形紅斑/中毒性表皮壊死症の診断

多形紅斑/中毒性表皮壊死症の診断は、切除生検を行います。

切除生検とは

組織の一部分を切除して顕微鏡で観察する検査

切除生検では、病理組織学的検査を行い確定診断を行います。皮膚生検は、熱傷による皮膚深部の損傷と区別するために、病気の初期に行うことが推奨されています。

病理組織学的所見では、個々の表皮角化細胞の壊死(アポトーシス)あるいは表皮全層細胞の壊死がみられるなど、損傷は表皮に限局しています。

鑑別疾患

多形紅斑/中毒性表皮壊死症と似たような症状を示すものとして、以下の病気があります。

多形紅斑/中毒性表皮壊死症の治療

多形紅斑/中毒性表皮壊死症の治療では、薬物(投薬)の中止や内科的治療を行います。

薬物(投薬)の中止

原因の多くが薬物(投薬)であることから、まず症状が現れる2~4週間前より使用していた疑いのある全ての薬物を中止します。薬物との関連が疑われない場合には、基礎疾患として感染症や腫瘍がないかを検査します。

内科的治療

内科的治療には、対症療法グルココルチコイド(ステロイド)による治療を行います。

対症療法

症状により対症療法として入浴、輸液、電解質補正、栄養摂取を必要に応じて行います。二時的な皮膚の細菌感染を防ぐために、疑われている薬物と関連のない抗生物質の投与を行います。

グルココルチコイド(ステロイド)による治療

軽症タイプである多形紅斑では、2~4週間で自然治癒することがありますが、重症タイプである中毒性表皮壊死症の場合には入院を検討します。中毒性表皮壊死症は、死亡する可能性もある病気です。

重症例の場合には、グルココルチコイド(ステロイド)による治療を行います。通常1~2週間で、大幅な改善がみられるとされています。病変が消失した後に、グルココルチコイド(ステロイド)を徐々に減量していきます。そして多くの場合に、投与を止めても再発しないとされています。

グルココルチコイド(ステロイド)を止めて再発する場合などで長期間の治療が必要な場合には、免疫抑制剤との併用が効果的であるとされています。

グルココルチコイド(ステロイド)に反応しない場合には、ヒト免疫グロブリン製剤(IVIG)が有効なことがあるとされています。

まとめ

犬の多形紅斑/中毒性表皮壊死症について解説しました。多形紅斑では、環状または蛇行性の”標的”または”雄牛の眼”を形成する紅斑や、やや盛り上がった丘疹や局面が特徴的です。

薬物(投薬)使用後に皮膚病変がみられた場合には、多形紅斑/中毒性表皮壊死症の可能性があり、特に重症タイプである中毒性表皮壊死症では命に関わることもあるので、早急に動物病院を受診するようにしましょう。