犬の尋常性天疱瘡

人の天疱瘡では、「尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう)」と「落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう)」という大きく2つの病型があり、割合として尋常性天疱瘡が60%、落葉状天疱瘡が30%、まれな型の天疱瘡が10%とされています。

人では最も多い病型ですが犬では稀な病気とされる、犬の尋常性天疱瘡について解説します。

レクタングル大

犬の尋常性天疱瘡について

天疱瘡とは、免疫が自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつであり、皮膚、口腔粘膜、食道などの粘膜の表面にある接着をつかさどる蛋白(接着因子)に対してIgG自己抗体が産生されてしまう病気です。

表皮細胞接着因子は、表皮細胞と表皮細胞がお互いにくっつく(接着する)のに重要な役割をしている蛋白なので、それが攻撃されると、結果として表皮細胞と表皮細胞がばらばらになり、表皮の中で水疱が生じてしまいます。

天疱瘡はヒトをはじめ犬、猫、馬、豚、羊など多くの哺乳動物に発生する自己免疫性皮膚疾患ですが、犬の天疱瘡が最も多くみられます。

そして天疱瘡は、落葉状天疱瘡紅斑性天疱瘡、尋常性天疱瘡、および増殖性天疱瘡に分類されています。犬における発生頻度は、落葉状天疱瘡が最も多く、紅斑性天疱瘡、尋常性天疱瘡、増殖性天疱瘡の順に発生が少なくなります。

近年新しい概念として、腫瘍随伴性天疱瘡が報告されています。

尋常性天疱瘡では、表皮の深層の細胞間に自己抗体が接着することにより細胞同士が遊離する現象が起き(これを専門用語で「棘融解」と呼びます)、水疱などの皮膚病変が形成されます。

尋常性天疱瘡は天疱瘡の中で最も重症で、品種や性別による好発性は認められないとされています。

尋常性天疱瘡
表皮深層の自己免疫性の皮膚疾患

原因

前述の通り尋常性天疱瘡は、表皮の角化細胞に発現している接着分子の成分を標的抗原とした自己抗体の産生を特徴としています。人ではデスモグレイン3(Dsg3)に対するIgG自己抗体が認められ、犬でも同様にデスモグレイン3(Dsg3)に対するIgG自己抗体が認められています。

(図)天疱瘡および類天疱瘡の病変形成部位の比較

尋常性天疱瘡の症状

びらん、潰瘍、そしてまれに小水疱と水疱が皮膚(特に脇の下や太ももの付け根)、皮膚粘膜境界部(爪床、口唇、外鼻孔、まぶた)、粘膜(口腔内、肛門、外陰部、包皮、粘膜)に形成されます。同時に発熱、元気や食欲の低下がみられます。

口腔内病変は、尋常性天疱瘡の犬の90%でみられるとされており、著しいヨダレや口臭を伴うことがあります。

病変が一ヶ所の尋常性天疱瘡も報告されており、限局型もしくは軽症型と考えられています。

症状のポイント
びらんや潰瘍が皮膚、皮膚粘膜境界部、粘膜にみられる

尋常性天疱瘡の診断

皮膚病変で水疱があればその内容物を顕微鏡で観察し、未変性の好中球と棘融解細胞を確認します。

確定診断には、皮膚の一部を切り取「皮膚生検」を行い、病理組織学的検査を行います。

病理組織学的所見では、棘融解および膿疱形成を伴う表皮内の裂溝がみられます。病変の表皮内における位置は、自己抗体沈着の部位に関係しています。尋常性天疱瘡では、基底層上部に病変がみられます。

似たような症状を示す皮膚病として、水疱性類天疱瘡、全身性エリテマトーデス、多型紅斑/中毒性表皮壊死症、薬疹、感染症(細菌、真菌)、脈管炎、上皮向性リンパ腫があります。

診断のポイント
水疱の細胞診と、確定診断は皮膚生検を行い病理組織学的検査を行う

尋常性天疱瘡の治療

治療は、グルココルチコイド(ステロイド)が中心となります。病変部が消失したら(治療開始後4~10週間)、数週間(8~10週間)かけて隔日投与で寛解が得られる最低維持用量まで、用量を徐々に減らします。

尋常性天疱瘡は重篤な皮膚疾患であるため、グルココルチコイド(ステロイド)とアザチオプリンやシクロスポリン(商品名:アトピカ)などの免疫抑制剤を併用することが推奨されています。

治療のポイント
グルココルチコイド(ステロイド)と免疫抑制剤の併用が推奨される

予後

尋常性天疱瘡の犬では、死亡または安楽死の報告があります。安楽死の理由として、症状が重篤であること、治療に反応が無い、高容量のグルココルチコイドにより重篤な有害作用が発生したことなどが挙げられます。

しかし、軽症例であれば予後は良いようです。

まとめ

犬の尋常性天疱瘡について解説しました。尋常性天疱瘡は、皮膚疾患の中でも数少ない致死的な疾患なので注意が必要です。

もし愛犬の皮膚や粘膜に水疱が形成された場合には、この病気に限らず似たような症状を示す病気が多数ありますので、獣医さんに早めに相談するようにしましょう。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
レクタングル大
レクタングル大