犬の中耳炎

人では、5歳以下の子供に多いとされる中耳炎。犬にも中耳炎が存在しますが、いくつかの点で人と異なります。

場合によっては治療で鼓膜を切開することもある、犬の中耳炎について解説します。

レクタングル大

犬の中耳炎

犬の耳は耳介・外耳道・鼓膜で構成されており、鼓膜の奥に中耳と内耳が存在します。

耳介は音波を集め、外耳道は音波を中耳に伝える働きをします。そして音波は鼓膜を振動させ、その鼓膜の振動が中耳に伝わります。

中耳には鼓室や耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)があり、鼓膜が振動すると、鼓膜に付着している耳小骨を経由して内耳に音が伝わります。耳小骨は、てこの原理で鼓膜の振動を増幅させる増幅器の働きをしています。中耳の内腔は粘膜で裏打ちされており、耳管で咽頭と繫がっています。

内耳は、聴覚をつかさどる蝸牛と平衡感覚をつかさどる前庭(卵形嚢・球形嚢・三半規管)から構成されています。

中耳炎とは、中耳に炎症が起こる病気です。そして犬の中耳炎は、外耳炎の悪化により鼓膜を通して発生することが最も一般的な原因であり、また中耳炎は再発性外耳炎の素因的要因となります。

中耳炎
中耳に炎症が起きる病気

原因

人の中耳炎の場合には、耳管経由の細菌感染が多いとされています。いくつかの病態に分類されており、急性中耳炎、慢性中耳炎、滲出性中耳炎、そして真珠腫性中耳炎などがあります。

急性中耳炎では、耳の痛み、発熱、聴力低下を伴い、鼓膜が穿孔すると慢性中耳炎と呼ばれ耳垂れ(耳漏)が見られます。滲出性中耳炎は中耳内に浸出液が溜まっている状態で、通常急性中耳炎に続発し、耳の閉塞感があるものの痛みは無いとされています。そして真珠腫性中耳炎とは、真珠腫と呼ばれる上皮が存在しないはずの鼓室内に、何らかの原因で上皮細胞が侵入して増殖したものが原因で、炎症が起きている状態です。ちなみに真珠腫は、「腫」という字が付きますが、腫瘍ではありません。

犬の場合には前述の通り、中耳炎は外耳炎の悪化により鼓膜を通して発生することが最も一般的な原因とされています。しかし中耳から発生する、原発性の中耳炎も存在します。

キャバリアは、原発性滲出性中耳炎(PSOM)の好発犬種として知られています。

また犬においても真珠腫が存在し、慢性の中耳炎で外科手術を行った犬の11%で発生していたと報告されています。犬の真珠腫の発生原因として外耳道の閉塞や上皮細胞の侵入と増殖が考えられています。

中耳炎の症状

頭を振るなどの違和感、頚部の痛み、捻転斜頸、ホルネル症候群、顔面神経麻痺などの神経症状や聴覚障害が中耳炎の症状としてみられます。

外耳炎を伴う場合には、頭を擦る、耳を掻くあるいは頭を振る、さらに耳垂れ(耳漏)といった外耳炎の症状もみられます。

ある報告では、中耳炎の犬の約16%が急性の外耳炎を、そして52%の犬で慢性の外耳炎を伴ってたと報告されています。

また別の報告では、慢性外耳炎の犬の82.6%が中耳炎を発症しており、中耳炎の犬の71%で鼓膜が正常であったとしています。そして両側性の中耳炎は、72.7%の犬でみられたとしています。

症状のポイント
神経症状や聴覚障害、外耳炎を伴う場合にはその症状

中耳炎の診断

神経症状や聴覚障害で中耳炎の存在を疑っていきます。しかし、これらの症状がみられない場合もあるので注意が必要です。外耳炎に続発した外耳炎、または中耳炎に続発した外耳炎の場合には、外耳炎の検査の過程で中耳炎の存在に気がつくことがあります。

耳道の狭窄が無く、鼓膜までアプローチできる場合は、ビデオオトスコープで鼓膜の膨隆や破裂、中耳内の貯留物、中耳から外耳道に向かって伸びている「できもの」などを確認することで中耳炎と診断します。

注意が必要な点として、必ずしも中耳炎で鼓膜の異常を伴わないということです。ある報告では、中耳炎と診断された犬38頭の耳で、71%の犬で鼓膜は正常であったとされています。

また、レントゲン検査で耳道および鼓室胞付近の骨融解や石灰化の確認が可能です。CT検査ではさらに詳細な評価が可能であり、またMRI検査はCTに比べて軟部組織の変化が詳細に確認できる点が優れています。

診断のポイント
ビデオオトスコープでの鼓膜の評価や、画像検査での耳道や鼓室胞の確認

中耳炎の治療

中耳炎の治療として、外耳と中耳を洗浄し、感染や炎症性の残渣を除去します。この治療は全身麻酔下でビデオオトスコープを用いて実施します。ただしこの治療により、ホルネル症候群や顔面神経麻痺、前庭障害といった神経症状を引き起こす可能性があるので注意が必要です。通常、これらの障害は一過性であることが多いです。

まず外耳道を洗浄し、鼓膜を評価します。鼓膜が破れていなければ、鼓膜を切開します。中耳内に入れるようになったら、検査のために中耳の内容物を吸引しますが、鼓膜を切開した場合にはその切開を行ったカテーテルや針からサンプルを吸引します。その後、中耳内を繰り返し洗浄し、中耳内の残渣を全て除去し、可能な限り洗浄液を吸引し処置を終了します。

切開した鼓膜は、通常1ヶ月程度で再生します。

中耳炎の場合には、抗菌薬の投与が推奨されており、前述の処置の際に採取したサンプルでの感受性試験の結果に基づき選択すると良いでしょう。なお、局所投与の点耳薬などの中耳に対する安全性は、現在聴覚毒性の有無に関する確認がされていないため、リスクを伴うと考えられています。

外耳炎は中耳炎の持続的要因となるため、その管理の目的でグルココルチコイド(ステロイド)を使用する場合があります。

また、腫瘍や外耳道からのアプローチが困難な場合には、耳道切開術、鼓室胞切開術、耳道切除術を検討します。骨髄炎を起こした場合には内科的な管理は困難であるとされているので、外科手術を考慮し、真珠腫も進行すると予後に影響を与えるため、早期に手術することを考慮する必要があります。

予後

細菌性の中耳炎の合併症として、致命的な髄膜脳炎が起こる場合もありますが、外科手術と適切な長期治療により、予後は概ね良好とされています。

まとめ

犬の中耳炎について解説しました。中耳炎に診断や治療に関しては、ビデオオトスコープやCTそしてMRIなどの機材が必要となる事が多く、実施できる施設が限られているのが現状です。

中耳炎が疑われた場合には、これらの施設がある病院へ紹介して貰うことも担当の獣医さんと相談するのも一つの方法かもしれません。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
レクタングル大
レクタングル大