犬の全身性エリテマトーデス(SLE)

人の全身性エリテマトーデスは、免疫複合体(抗体と抗原が結合したもの)の組織沈着により起こる全身性炎症性病変を特徴とする自己免疫疾患とされ、症状は治療により軽快するものの、寛解と増悪を繰り返して慢性の経過を取ることが多いとされています。

確定するのがしばしば困難とされる、犬の全身性エリテマトーデスについて解説します。

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全身性エリテマトーデス(SLE)とは

エリテマトーデスは、英語で「lupus erythematosus」と言いますが、「lupus」とはラテン語で狼の意味であり、皮膚の症状が狼に噛まれた痕のような赤い紅斑(皮膚表面の発赤)であることから、こう名付けられています。エリテマトーデスは別名、紅斑性狼瘡とも呼ばれます。

エリテマトーデスは抗核抗体などの自己抗体が免疫複合体(抗体と抗原が結合したもの)を形成し、これが補体(抗体および貪食細胞を補助する免疫システム )を伴って皮膚、血管壁、腎臓の糸球体の基底膜、あるいは関節包膜に沈着することで炎症反応が引き起こされる疾患群と考えられています。

人や犬では皮膚を含む全身の臓器に症状が出る全身性エリテマトーデス(SLE)と皮膚に症状が限局する皮膚型エリテマトーデス(CLE)とに分類されます。

全身性エリテマトーデスは、「少なくとも2つの異なった器官系が冒された多発性全身性免疫疾患」と定義されています。また、皮膚型エリテマトーデスは、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターにおける剥奪性皮膚エリテマトーデス(ECEL)、コリーおよびシェットランド・シープドックにおける水疱性皮膚エリテマトーデス(VCLE)、円板状エリテマトーデス(DLE)に分類されます。

全身性エリテマトーデス
免疫複合体の組織沈着により起こる自己免疫疾患

原因

人では、一卵性双生児での全身性エリテマトーデスの一致率は25%程度とされ、何らかの遺伝的素因が背景として存在すると推察されています。

犬の場合には若齢〜中齢での発症が多く、同様に遺伝すると考えられており、ジャーマンシェパードが好発品種と考えられています。また、紫外線が皮膚病変悪化の誘因となると考えられています。

全身性エリテマトーデスは、ある刺激が犬の持っている感受性遺伝子を刺激した時に発症すると考えられています。そしてその刺激を誘発するものとして、ワクチン、薬物投与、ストレス、感染症、紫外線などがあります。

この病気では、自分の細胞の核、細胞質、細胞膜といった様々な分子に対して抗体を産生します。自分のDNAに対する抗体は、後述の抗核抗体(ANA)として測定されます。

全身性エリテマトーデスの症状

全身性エリテマトーデスにみられる主な症状は、免疫介在性溶血性貧血免疫介在性血小板減少症、免疫介在性好中球減少症、血液凝固異常、非びらん性多発性関節炎、糸球体腎炎、血管炎、皮膚の紅斑(皮膚表面の発赤)、発作、多発性筋炎、多発性神経炎、重症筋無力症などがあります。

皮膚の症状はみられることもありますが、犬の場合にはそれ程多くないとされています。

皮膚の症状は様々で、良くなったり悪くなったりを繰り返します。皮膚病変はびらん、潰瘍、鱗屑(角質が肥厚して剥離したもの)、紅斑、脱毛、痂皮(かさぶた)、瘢痕(傷跡)などがみられます。そしてこれらの病変は、多発性または散在性に体のどこの部分にでも発現しますが、特に顔面、耳および四肢の遠位部が好発部位です。粘膜皮膚や粘膜では、びらんや潰瘍がみられます。

さらに発熱、リンパ節の腫脹、脾臓の腫大、多クローン性高ガンマグロブリン血症を伴うこともあります。

症状のポイント
免疫介在性溶血性貧血免疫介在性血小板減少症、免疫介在性好中球減少症、血液凝固異常、非びらん性多発性関節炎、糸球体腎炎、血管炎、皮膚の紅斑、発作、多発性筋炎、多発性神経炎、重症筋無力症など

全身性エリテマトーデスの診断

1種類の検査結果だけを基にせず、臨床徴候やその他の可能性のある原因を除外して行うのが、診断の基本的な考え方となります。

①末梢血における血球減少症、②限局性あるいは多発性関節炎、③糸球体腎炎、④神経症状、⑤多発性筋炎、⑥重症筋無力症、⑦血管炎、⑧血清抗核抗体(ANA)陽性のうち2項目を満たせば全身性エリテマトーデスと考えて治療を開始していきます。

診断のポイント
臨床徴候やその他の可能性のある原因を除外して行う

全身性エリテマトーデスと関連する検査には、以下のようなものがあります。

抗核抗体(ANA)検査

抗核抗体とは、自己の細胞中にある細胞核を構成する成分を抗原とする自己抗体の総称です。人医療において抗核抗体検査は、膠原病(自己免疫疾患やリウマチ疾患)が疑われた場合のスクリーニング検査(ふるい分け検査)として利用されています。

犬の全身性エリテマトーデスでも大部分が陽性となるため、スクリーニング検査として適しています。陽性の結果は診断の補助にはなりますが、バルトネラ症、エールリヒア症、リーシュマニア症など他の様々な慢性疾患や感染症でも陽性となることがあるため、確定診断にはなりません。また、10%で偽陰性(実際には陽性だが検査では陰性)がみられることに注意が必要です。

クームス試験

赤血球の細胞膜に結合している免疫グロブリン(抗体)が存在しているか否かを調べる試験です。免疫グロブリンが赤血球に結合している場合、これに抗免疫グロブリン抗体を加えると、免疫グロブリンと抗免疫グロブリン抗体が結合し、抗原抗体反応が起き赤血球が凝集します。

貧血の際に行う検査で、一般に免疫介在性溶血性貧血では陽性になります。全身性エリテマトーデスではクームス試験は陽性の時も陰性の時もありますが、通常は陰性とされています。

犬リウマチ因子(RF)

関節リウマチ等で見られる自己抗体で、変性したIgGのFc領域に対する自己抗体であり(抗IgG抗体)、主にIgMに属します。

人では、関節リウマチで最も陽性となりやすいが(約70~80%)、他の自己免疫疾患、慢性肝炎などでも陽性になることもあり、疾患特異性は低い検査であると考えられています。

関節の腫れがみられる際に行う検査で、関節リウマチのスクリーニング検査(ふるい分け検査)として用いられます。全身性エリテマトーデスの場合には陽性の時も陰性の時もありますが、通常は陰性とされています。

皮膚生検

皮膚病変から皮膚の一部を切り取る「皮膚生検」を行い、病理組織学的検査を行います。なお、採取部位には表皮が含まれていなければならないので、潰瘍に隣接した紅斑領域からの採取が推奨せれています。

全身性エリテマトーデスでは、表皮基底層の液状変性や真皮上層および付属器周囲における層状〜帯状の単核球浸潤、基底膜の肥厚といった所見がみられます。しかしこれらの変化は必ずしもみられるわけではなく、また全身性エリテマトーデスだけにみられる変化ではないことに注意が必要です。

全身性エリテマトーデスの治療

犬の臨床症状と検査上の異常が消失するまで治療し、それから薬に減量を試みます。薬の減量期間に症状が再発したら、以前の用量まで増量し、さらに徐々に減量することを試みます。

治療は、グルココルチコイド(ステロイド)が中心となります。病変部が消失したら(治療開始後4~10週間)、数週間(8~10週間)かけて隔日投与で寛解が得られる最低維持用量まで、用量を徐々に減らします。

寛解を維持するために、グルココルチコイド(ステロイド)単独の投与で効果が得られることもありますが、結果として副作用が発現する可能性があります。そこで、免疫抑制剤の併用や単独での治療を行うことが、長期維持を行う場合に推奨されます。

また、有効な免疫抑制剤としてアザチオプリン、クロラムブシル、シクロフォスファドおよびシクロスポリン(商品名:アトピカなど)があります。

臨床症状や血液検査等を定期的に観察し、必要なら治療を見直すことが大切です。

治療のポイント
グルココルチコイド(ステロイド)を中心とした治療

予後

溶血性貧血、血小板減少症や糸球体腎炎があるときは、予後に警戒を要します。このような犬の40%は、治療を開始してから1年の間に腎不全。治療への不応、薬剤による合併症や全身性の二次感染(肺炎、敗血症)によって死亡します。

グルココルチコイド(ステロイド)単独での治療に反応する動物の予後はやや良好で、そのうち50%は長期生存するとされています。

まとめ

犬の全身性エリテマトーデスについて解説しました。この病気の予後については、まだあまり良く知られていない点もありますが、多くの症例で予後は良好です。

ただし海外では、多くの犬では病気の悪化でよりもグルココルチコイド(ステロイド)の副作用ために安楽死されています。そのために肥満を避け、皮膚や尿路の感染などを監視することが重要です。

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