犬の円板状エリテマーデス(DLE)を丁寧に解説

この記事では、犬の円板状エリテマーデス(DLE)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で円板状エリテマーデス(DLE)と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 鼻の部分に皮膚病変がある犬の飼い主
  • 犬の円板状エリテマーデス(DLE)について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、円板状エリテマーデス(DLE)について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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犬の円板状エリテマーデス(DLE)

犬の円板状エリテマーデスは、皮膚の基底膜を主体とした自己免疫疾患です。

基底膜とは

基底膜は、表皮と真皮の間にある薄い膜。皮膚の機能を維持する上で、大事な役割を果たしています。

自己免疫疾患とは

免疫系が正常に機能しなくなり、自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう病気です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。

エリテマトーデスは、英語で「lupus erythematosus」といいます。「lupus」とはラテン語で狼の意味で、皮膚の症状が狼に噛まれた痕のような赤い紅斑(皮膚表面の発赤)なので、こう名付けられています。

犬のエリテマトーデスは、全身性エリテマトーデス(SLE)皮膚型エリテマトーデス(CLE)に分類されます。

  • 全身性エリテマトーデス(SLE)
    皮膚を含む全身の臓器に症状が出ます。
    少なくとも2つの異なった器官系が冒された多発性全身性免疫疾患と定義されます
  • 皮膚型エリテマトーデス(CLE)
    剥奪性皮膚エリテマトーデス(ECEL):ジャーマン・ショートヘアード・ポインターなど
    水疱性皮膚エリテマトーデス(VCLE):コリーおよびシェットランド・シープドックなど
    円板状エリテマトーデス(DLE)

円板状エリテマーデスは、全身性エリテマトーデスの良性の亜型(本来の型から派生して出来たもの)です。犬でよくみられる病気で、コリーノーズ鼻日光皮膚炎とも呼ばれます。

好発年齢や性差はないとされており、好発犬種は以下の犬種です。

ラフコリー、ジャーマンシェパード、シェットランドシープドック、シベリアンハスキー、ブリタニースパニエル、ジャーマンショートヘアードポインター、オーストラリアの牧羊犬
(参考)ヒトの円板状エリテマトーデス
日光露出部である頭部、顔面、四肢などに好発する、原因不明の皮膚疾患です。鱗屑(角質が肥厚して剥離したもの)を伴う紅斑(皮膚表面の発赤)を特徴とする病気です。

原因

円板状エリテマトーデスの明確な原因は、不明です。夏や日差しの強い季節により多く発症することが知られており、紫外線が危険因子とされています。

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円板状エリテマーデスの症状

円板状エリテマトーデスでは、鼻平面に皮膚病変が局在するのが典型的です。頻度は少ないですが、口唇、口腔、眼周囲、耳介、生殖器、さらに頻度は少ないですが、足先の部分に皮膚病変がみられることがあります。

鼻平面とは

鼻の背側で最も先端の毛の無い部分

▲犬の鼻の模式図

円板状エリテマトーデスの鼻平面の皮膚病変では、以下の特徴的な所見がみられます。

  • 初期に色素脱失が起こり、通常黒色の皮膚が灰色や白色に変化する
  • 初期の色素脱失が現れると、鼻平面表面が正常の敷石状から滑らかな光沢のある外観に変化する
  • 鱗屑(角質が肥厚して剥離したもの)や痂皮(かさぶた)が鼻平面と毛のある場所との境界部にみられることがある

鼻平面以外の部位の皮膚病変では、痂皮、びらん、潰瘍といった所見がみられます。

皮膚病変の痒みや痛みは、程度によりさまざまです。

円板状エリテマトーデスでは、皮膚病変以外は、元気や食欲などの全身状態には異常はありません。

円板状エリテマーデスの診断

円板状エリテマーデスは、鼻平面に特徴的な皮膚病変があり、元気や食欲などの全身状態に問題がない場合に、疑われます。そして診断は、皮膚生検を行い病理組織学的検査を実施します。

皮膚生検とは

皮膚の一部分を切除して顕微鏡で観察する検査

病理組織学的検査では、蛍光抗体直接法で基底膜に免疫グロブリンの線状沈着が確認されるのが典型的です。この所見を、ループスバンドテスト陽性といいます。

似たような皮膚病変を作るものとして、以下の病気があります。

円板状エリテマトーデスの治療

円板状エリテマトーデスの治療は、内科的治療です。内科的治療は、外用療法投薬治療があります。紫外線が悪化要因なので、日光を避けることも重要です。

外用療法

グルココルチコイド(ステロイド)外用薬による治療が行われます。以下のとおり、治療を進めていきます。

  • 皮膚病変が消失するまで(約4~6週間)の間
    ベタメタゾンやフルオロシノロンなどの強力な作用を持つ外用薬を使用します
  • その後の維持療法
    使用回数を減らしたり作用の弱いものに変更します

強力な作用のグルココルチコイド(ステロイド)外用薬を使い続けると、塗布した部位の永久的な脱毛や皮膚の萎縮がみられるので注意が必要です。

グルココルチコイド(ステロイド)外用薬の代わりに、以下の外用薬を使用する方法もあります。

  • 0.1%タクロリムス軟膏
  • 1~2%シクロスポリン液を塗布

紫外線による鼻平面の皮膚病変の悪化を防ぐため、サンスクリーン(日焼け止め)を塗布します。二酸化チタン含有製品が有効性であると、報告されています。

投薬治療

投薬治療は、症状により以下のとおり行います。その他に、テトラサイクリンとニコチン酸アミドの組み合わせによる治療の有効性も報告されています。

  • 軽症例〜中症例
    脂肪酸やビタミンE
  • 中症例〜重症例
    グルココルチコイド(ステロイド)

予後

予後は良いものの、長期の治療が必要です。また、永久的な瘢痕(傷跡)や白斑といった後遺症の可能性があります。

まれに、扁平上皮癌となることに注意が必要です。

まとめ

犬の円板状エリテマーデスについて解説しました。この病気では、強い紫外線を避けることや、日焼け止めを使用するなどの日常生活に配慮することが大切です。

もし鼻の変形を伴うようであれば、鼻部アスペルギルス症などの鼻内部の異常の可能性があるので注意が必要です。