犬の皮膚血管炎

血管は、血液を身体の各所に送るための通路となる管で、全身へ酸素や栄養分、老廃物、体温、水分を運ぶ役割があり、全身に隈なく分布しています。その血管に炎症が起きる病気を血管炎と呼び、特に皮膚の血管を中心にみられるものを皮膚血管炎と呼びます。

日常の診察であまり診断されることのない犬のまれな病気である、皮膚血管炎について解説します。

犬の皮膚血管炎とは

血管炎では、血管に炎症が起きることで直接的に起きる損傷と、神経や臓器などへの血液が途絶えたり減少することによる、間接的な損傷が起きる場合があります。そのため症状は、侵された血管の太さや位置、侵された臓器の損傷の程度によって異なります。

また、多くの異なる臓器に血液を供給する血管に起こることもあれば、体の一部分に血液を供給する血管に起こることもあります。前者の場合を全身性血管炎と呼び、後者の特に皮膚に生じて他の臓器に症状がない場合に、皮膚血管炎と呼ばれます。

つまり犬の皮膚血管炎とは、皮膚(真皮または皮下組織)の血管(主に血管壁)に異常を認める病気です。

そして通常犬の皮膚血管炎は、血管壁に免疫複合体が沈着することによって二次的に生じる血管の炎症性疾患であると考えられています。これは主に3型アレルギーが関与していると考えられていますが、はっきりとした機序は不明とされています。

犬の皮膚血管炎を引き起こすものとして以下の原因が考えられていますが、原因不明の場合もあるとされています。

薬物有害反応(薬疹)狂犬病ワクチン、感染症(細菌、リケッチア、ウイルス、真菌)、悪性腫瘍、食物アレルギー、代謝性疾患(糖尿病、腎不全)、全身性エリテマトーデス(SLE)、低温環境(寒冷凝集疾患)
 

なお、犬の皮膚血管炎の発生率は少なく稀な病気であると考えられています。

 
皮膚血管炎
皮膚の血管(主に血管壁)に異常を認める疾患の総称

皮膚血管炎の症状

犬の皮膚血管炎の症状は、炎症が起きている血管の太さや位置そして血流の障害の程度によって異なります。

主な皮膚症状は紫斑(皮膚内の出血)、壊死および潰瘍であり、これらが耳、口唇、口腔内粘膜、四肢、尾および陰嚢などにみられます。また、四肢先端のチアノーゼ(血液中の酸素が欠乏して、皮膚や粘膜が青紫色である状態)がみられることもあります。

なかでも、犬の皮膚血管炎の耳の症状は特徴的で、虫食い状の潰瘍が特に耳の先端に多くみられます。また、耳の内側に辺縁明瞭な潰瘍を形成する場合もあります。

原因によりいくつかの皮膚症状のパターンが報告されています。

食物アレルギーが基礎疾患にある犬では、蕁麻疹様血管炎と呼ばれる症状がみられることがあるとされていおり、これは、圧迫しても白くならない赤い皮膚の膨らみを伴う、急性に発症する全身の皮膚が真っ赤に潮紅する症状とされています。

狂犬病ワクチンによる症状では、ワクチン接種部位に局所的に脱毛が生じるとされていますが、これらの症状が発症するのはワクチン接種後およそ1~5ヶ月後とされています。

皮膚血管炎の犬では皮膚症状のみならず全身症状として、食欲不振、元気消失、発熱、関節症、ミオパチー(筋肉の炎症)、四肢の浮腫(むくみ)がみられる場合があるとされています。

症状のポイント
紫斑(皮膚内の出血)、壊死、潰瘍などの症状が、耳、口唇、口腔内粘膜、四肢、尾および陰嚢などにみられる

皮膚血管炎の診断

犬の皮膚血管炎の診断は、他の類似の疾患を除外して、皮膚の一部を切除する「皮膚生検」により病理組織学的検査で確定診断を行います。

この病理組織学的検査で、血管に炎症がみられることで診断されるわけですが、全ての血管で炎症が起きているとは限らないので、切除した部位によっては血管に炎症がみられないこともあるので、判断を慎重に行う必要があります。

海外では血管炎が疑われる場合には、ダニが媒介するリケッチア感染症に対する検査を行うことが推奨されていますが、現在国内にこの病気は存在しないので、海外渡航歴が無ければ通常必要無いと考えられています。

皮膚血管炎が疑われた場合には、血管炎を引き起している原因を探す必要がありますが、前述の通り原因が不明の場合もあります。

なお、犬の皮膚血管炎と似たような皮膚病変を示す疾患として、以下の病気があります。

また同様に、犬の耳の皮膚血管炎は特徴的な症状を示しますが、耳介辺縁皮膚症という病気も類似の症状を示すので注意が必要です。

診断のポイント
類似の疾患の除外と病理組織学的検査

皮膚血管炎の治療

犬の皮膚血管炎の治療は、血管炎を引き起こす原因が特定された場合には、まずその治療を行います。

血管炎に対する一般的な治療としては、グルココルチコイド(ステロイド)を病変部が消失するまで(治療開始後2~4週間)投与し、その後数週間(8~10週間)かけて隔日投与で症状が落ち着くまで用量を徐々に減らし、最低限の用量で維持するようにします。

グルココルチコイド(ステロイド)に反応しない場合には、他の治療法に切り替えたり、免疫抑制剤と併用する場合があります。

診断のポイント
一般的な治療としてグルココルチコイド(ステロイド)。また、可能であれば血管炎を引き起こしている原因の治療。

予後

血管炎の原因、皮膚病変の範囲広、他の臓器の障害の有無などによります。

使用した薬に関わらず、4~6ヶ月後に治療が終了できる場合があるとされる一方で、症状が出ていない状態を維持するために長期間の維持治療が必要になる場合もあるとされています。

まとめ

犬の皮膚血管炎について解説しました。日常的な診療では、耳の先端にみられる虫食い状の潰瘍が、最も分かりやすいタイプの犬の皮膚血管炎だと思われます。

しかしそれ以外の場合には、ほとんど血管炎が診断されることはありません。これは、まず血管炎がまれにしか起こらないことと、血管炎は他の病気により引き起こされている場合が多いため、その原因となっている病気が診断名となることが多いからです。

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