この記事では、犬の良性前立腺肥大症について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、良性前立腺肥大症について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
良性前立腺肥大症とは
良性前立腺肥大症は、前立腺容積が顕著に増大し、排便困難や排尿困難などを引き起こす病気です。
中〜高齢犬になると、前立腺が肥大することが知られています。著しく前立腺が肥大した場合、骨盤腔内での直腸の圧迫や前立腺尿道部の狭窄により、排便困難や排尿困難などを引き起こします。
良性前立腺肥大症は、未去勢犬では5才以上で60%、9歳以上で95%で発生します。
余談ですが、ヒトの前立腺肥大症の頻度は、年齢とともに高くなり、50歳から増加することが報告されています。
原因
前立腺の容積および分泌機能は、精巣から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の作用によって維持されています。また、同じく精巣から分泌されているエストロゲン(女性ホルモン)も、前立腺の機能に大きく関与しています。
犬が高齢化すると、精巣の精子形成能が低下します。また、性ホルモン分泌能も低下あるいは異常となります。
精巣から分泌されるアンドロゲンとエストロゲンの分泌量の正常なバランスが崩れ、時にエストロゲンの分泌がわずかに増える場合があります。
エストロゲンは、前立腺の上皮細胞および間質細胞のアンドロゲン取り込みを促進する作用があります。そのため、精巣からのエストロゲン分泌量の増加により、上皮細胞と間質細胞の異常増殖が起こります。その結果、前立腺が肥大するとされています。
良性前立腺肥大症の症状
良性前立腺肥大症では、尿道からの血性の分泌物、排尿困難、しぶり(便意が頻回に起こる)、平坦な糞便が典型的な症状です。
良性前立腺肥大症は、前立腺炎、嚢胞形成、膿瘍形成などさらなる前立腺疾患の初期状態と考えられています。
良性前立腺肥大症が、細菌感染を起こすと前立腺炎となります。前立腺炎では、膿尿がみられ、重症の場合では、後肢の硬直や背中を痛がる症状がみられます。
前立腺炎や前立腺嚢胞が重症化することで、前立腺膿瘍となります。
良性前立腺肥大症の診断
良性前立腺肥大症では、触診、血液検査、レントゲン検査や超音波検査などの画像検査を行います。
触診では、直腸検査を行います。直腸検査では、前立腺の左右対称性の肥大が触れます。
良性前立腺肥大症では痛みはありません。しかし、前立腺炎や前立腺膿瘍の場合には、痛みや発熱を伴います。
血液検査では、細菌感染がある場合には白血球増加がみられます。
レントゲン検査や超音波検査などの画像検査では、前立腺の大きさや嚢胞/膿瘍の有無を確認します。前立腺炎や前立腺膿瘍が疑われる場合には、尿の細菌培養と感受性試験を行います。
良性前立腺肥大症の治療
良性前立腺肥大の治療は、精巣の摘出(去勢手術)です。
前立腺は去勢手術後3週間で、手術前の半分の大きさになります。もし、去勢手術後に大きさの変化がなかった場合には、以下の病気を疑います。
- 前立腺嚢胞
- 前立腺膿瘍
- 前立腺腫瘍
去勢手術ができない場合には、内科的治療を行います。内科的治療は、抗アンドロゲン製剤の投与を行います。
抗アンドロゲン製剤として、酢酸オサテロン(商品名:ウロエース)が使用されます。酢酸オサテロンは、1日1回で連続7日間投与します。その治療効果は、以下のとおりです。
- 投与後1週間で前立腺の大きさが約30%減少
- 投与後2週間で前立腺の大きさが約40%減少
前立腺に細菌の感染がみられる場合は、抗アンドロゲン製剤を使用しないことに注意が必要です。
酢酸オサテロンでの治療後に、前立腺の肥大が再発する場合もあります。その場合には、再び酢酸オサテロンを投与することで十分な効果が期待できます。
予後
良性前立腺肥大症は、治療すれば予後は良好です。
まとめ
犬の良性前立腺肥大症について解説しました。良性前立腺肥大症では、前立腺腫瘍を除きその他の前立腺疾患の発生率を下げることが可能なので、選択できれば去勢手術が推奨されております。
去勢手術は、腫瘍以外の前立腺疾患の予防となります。