「愛犬が突然けいれん発作を起こした」「歩き方がぎこちなく、ふらついている」――そんな症状が小型犬に現れたとき、壊死性白質脳炎という脳の病気が隠れているかもしれません。
特にヨークシャーテリアやチワワ、しかも体重2kg以下の小型犬に発症が多いとされており、早期の見極めと適切な治療が求められます。
この記事では、まれな非感染性脳炎である壊死性白質脳炎(NLE: Necrotizing Leukoencephalitis)について、症状・診断・治療・予後までわかりやすく解説します。
この記事はこんな方におすすめです
- チワワやヨークシャーテリアなどの超小型犬を飼っている方
- てんかん発作やふらつきなどの神経症状が出て心配している方
- 犬の脳の病気や神経疾患について理解を深めたい飼い主
- MRIや脳脊髄液検査などの精密検査を検討している方
壊死性白質脳炎とは
犬のてんかんは、大きく2つに分けられます:
- 特発性てんかん:脳に異常が見つからず、原因不明ながら繰り返し起こる発作
- 症候性てんかん:脳に病変(腫瘍、炎症、奇形など)があり、それに伴って起こる発作
壊死性白質脳炎は、症候性てんかんの原因となる非感染性脳炎の一つです。ほかには以下の疾患が知られています:
- 壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)
- 肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)
これらはすべて、自己免疫性の脳炎であると考えられています。
その中でも壊死性白質脳炎は、ほぼヨークシャーテリアとチワワに限定的に発症し、体重2kg以下の個体での発症率が高いとされています。主に若齢〜中齢犬にみられます。

原因
壊死性白質脳炎の原因は現在も不明です。
壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)の関連疾患とされることもありますが、完全に別の疾患である可能性も示唆されており、病態解明は進行中です。
壊死性白質脳炎の症状

壊死性白質脳炎では、病変の主座が白質、特に深部白質、視床、脳幹などの深部灰白質に及ぶことが特徴的です。
これは、壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)が大脳皮質を主病巣とするのとは大きく異なります。
このため、壊死性髄膜脳炎でほぼ必発とされるてんかん発作は、壊死性白質脳炎では必ずしも見られるとは限らず、より多様な神経症状がみられる傾向があります。
代表的な症状:
- てんかん発作(起こらない場合もある)
- 姿勢の異常(頭の傾き、背中を丸めるなど)
- 四肢の不全麻痺(ふらつき、脱力、片麻痺)
- 運動失調(ぎこちない歩行、転倒しやすい)
- 視覚障害(ぶつかる、ものに反応しない)
- 中枢性前庭症状(捻転斜頸、眼振など)
💡 ポイント:
- 深部白質や視床、脳幹といった中枢の部位が障害されるため、多彩かつ重度の神経症状がみられます。
- 特に、運動制御や姿勢維持に関わる機能が影響を受けやすく、てんかん発作以外の症状が先に現れることもあります。
壊死性白質脳炎の診断
壊死性白質脳炎の確定診断は病理検査(脳の組織検査)によりますが、臨床現場では以下の検査が用いられます:
- MRI検査:白質の壊死病変や脳幹・視床の変化を検出
- 脳脊髄液検査:炎症の有無や細胞成分を評価
- 犬種、体重、症状の組み合わせも診断の重要な手がかりになります
実際には、MRIと脳脊髄液検査に基づき、臨床的に診断されることが多いです。
壊死性白質脳炎の治療
現時点で、壊死性白質脳炎を完全に治す治療法は存在しません。
そのため、治療は進行を抑えることを目的とした対症療法・免疫抑制療法になります。
🔹 免疫抑制療法(基本治療)
- プレドニゾロン(副腎皮質ステロイド)を中心に使用
- 必要に応じて他の免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロスポリンなど)を併用
🔹 発作がある場合の治療
- 抗てんかん薬を用いて発作の頻度や重症度をコントロールします
💡 発症年齢が若い犬では、長期にわたる投薬管理が必要になることが多く、継続的な経過観察と飼い主のサポートが不可欠です。
予後
壊死性白質脳炎は完治が難しい病気ですが、壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)に比べて進行がゆるやかで、長期的に維持できるケースも多いとされています。
- 症状の進行具合や治療への反応には個体差が大きく、数ヶ月〜数年以上の生存例も報告されています
- ただし、完全な回復は難しく、神経症状が徐々に進行していく傾向があります
🔍 予後に影響する因子:
- 早期発見・早期治療の有無
- 発作の有無と重症度
- 飼い主による服薬・通院管理の徹底
まとめ
壊死性白質脳炎は、ヨークシャーテリアやチワワといった超小型犬で発症が多い非感染性脳炎です。
「てんかん発作が起きた」「動きがおかしい」「首を傾けている」といった症状がみられたとき、特定犬種に当てはまる場合は特に注意が必要です。
診断にはMRI検査や脳脊髄液検査が重要となるため、早めに獣医師と相談し、専門的な検査と治療を進めることが予後改善につながります。