犬の混合ワクチンについて丁寧に解説

犬の混合ワクチンに関しては、狂犬病予防法のような法律で定められた規則がないので、基本的には飼い主さんの任意となっています。そして規則がないため、初年度の接種回数や追加接種の間隔に関して様々な議論がなされています。

混合ワクチンに関する科学的知見や日本の混合ワクチン接種状況などを考慮して、犬の混合ワクチンについて解説していきます。

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そもそもワクチンって何?

まず、ワクチンの仕組みについて解説します。

ヒトや動物のからだでは、一度入ってきた病原体が再び体の中に入ってきても病気にならないようにする仕組みがあり、これを免疫と呼びます。免疫は記憶力があるので、再度同じ病原体が体の中に入っても病気にかからない、もしくは病気にかかっても重症化しないようになります。この仕組みを利用したのがワクチンです。
ワクチンは、病原体の毒性を弱めたり無毒化にしたりして、通常の感染(自然感染)以外で免疫を獲得させる方法で、いわば模擬試験のようなものです。このようにして、いざ病原体が入ってきたとしてもあらかじめ備わった免疫でその病気を予防することができます。

ワクチンは大きく生ワクチン不活化ワクチンの2種類に分類されます。

生ワクチン

生ワクチンは、病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱めて病原性を無くしたものを原材料として作られます。毒性を弱められたウイルスや細菌が体内で増殖して免疫を高めていくので、不活化ワクチンよりも免疫力が強く免疫持続時間も長いというメリットがあります。しかし、副作用を発症させるリスクが高いです。

なお、あらかじめ混合されていない2種類以上のワクチンを別々に接種する場合には、生ワクチン接種後にはおよそ1ヶ月空ける必要があります。

不活化ワクチン

不活化ワクチンは、病原体となるウイルスや細菌の感染する能力を失わせた(不活化、殺菌)ものを原材料として作られます。自然感染や生ワクチンに比べて生み出される免疫力が弱いため、生ワクチンよりも免疫持続時間が短いなどのデメリットがある一方、副作用が少ないというメリットがあります。

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犬の混合ワクチンとは

混合ワクチンは、それぞれのワクチンを別々に接種せずに、あらかじめ2種類以上のワクチンを混合させて接種する方法です。混合ワクチンは、5種〜11種まで幅があります。一応、単味のワクチン(パルボワクチン)や3種混合ワクチンも存在はしますが、ブリーダーで使用される事はあっても動物病院で使用される頻度は低いです。ただし、ワクチンの製造元が製造を中止したり、新たに製造を開始することにより、流通するワクチンには変動があります。

愛犬の為にしてあげる事の一つに、混合ワクチンの接種があります。特に抵抗力が弱い子犬が危険なウイルスに感染すると重症化しやすく、時に死を招いてしまうこともあります。子犬で致死率が高い感染症として、犬ジステンパー、犬伝染性肝炎そして犬パルボウイルス感染症があります。混合ワクチンは、愛犬をこのような恐ろしい感染症から守ってくれる大切な注射です。

混合ワクチンの種類

世界中全ての犬に接種すべきワクチンとして、犬ジステンパー犬伝染性肝炎犬パルボウイルス感染症があり、これらを「コアワクチン」と呼んでいます。

そしてコアワクチン3種に加えて、犬アデノウイルス2型感染症そして犬パラインフルエンザウイルス感染症の2種を加えた5種類は、基本的に全てのワクチンに含まれています。

レプトスピラ感染症には、同じ病原体ですがいくつかの型があり、いくつの型が予防できるかで2〜5型があります。

▲犬の混合ワクチンの種類と予防できる病気

混合ワクチンで予防できる病気と症状

混合ワクチンで予防できる病気と症状は、以下の通りです。特に子犬で致死率が高い病気である、犬ジステンパー、犬伝染性肝炎そして犬パルボウイルス感染症が重要です。

犬ジステンパー

高熱、目やに、鼻水が出て、元気や食欲がなくなり、嘔吐や下痢もします。死亡率の高い病気で、死亡神経症状が発症した時に死亡率が高くなる傾向があります。また、助かっても麻痺などの後遺症が残る場合があります。

ペットショップやブリーダーにおいて、子犬の集団発生がみられることがあり、3~6ヶ月齢の若い犬が最も発症しやすいといわれています。

犬パルボウイルス感染症

経口感染により、激しい嘔吐・下痢を起こし、食欲がなくなり、急激に衰弱します。重症になると脱水症状が進み、短時間で死亡することもあります。伝染力が強く、死亡率の高い病気です。

子犬では、離乳期後の生後4~12週齢の移行抗体が低下する頃に、犬パルボウイルスの感染がピークを迎えるとされていますが、4ヶ月齢まではよく見られます。

犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)

発熱、腹痛、嘔吐、下痢が見られ、目が白く濁ることもあります。子犬が感染すると、無症状のまま突然死することもあります。

犬アデノウイルス2型感染症

発熱、食欲不振、くしゃみ、鼻水の他、短く乾いた咳がみられ、肺炎を起こすこともあります。他のウイルスとの混合感染により症状が重くなり、死亡率が高くなる呼吸器疾患です。

犬パラインフルエンザウイルス感染症

風邪症状が見られ、混合感染や二次感染が起こると重症になり、死亡することも。伝染力が非常に強い病気です。

犬コロナウイルス感染症

成犬の場合は、軽度の胃腸炎で済むことが多いのですが、犬パルボウイルスとの混合感染で重症化することも。子犬の場合は、嘔吐と重度の水溶性下痢を引き起こします。

犬レプトスピラ感染症

レプトスピラ感染症はヒトにも感染する人獣共通感染症となっています。コペンハーゲニー型やカニコーラ型などいくつかの型が存在しますが、現在予防できる型は最大で5つあります。

なお、レプトスピラが入っているものは副作用が出やすく、ワクチンアレルギーなどの致死的な副作用を起こすことが多いので注意が必要です。

何種の混合ワクチンを接種するべきか

基本的に何種の混合ワクチンを接種するかは、犬レプトスピラ症を予防するかどうかで決まってきます。そして、犬レプトスピラ症は国内で発生が多い地域とそうでない地域の傾向がありますので、それを目安とすると良いでしょう。一般に犬レプトスピラ症は、都市部では少なく地方では多いです。

それでは念の為、全ての地域で人獣共通感染症であるレプトスピラ症を含んだ混合ワクチンを接種すれば良いのではないでしょうか?答えは、そう単純ではありません。実は、レプトスピラ症のワクチンは、ワクチンアレルギーなどの副作用が出やすいと言われています。特に、アレルギー体質の犬やミニチュアダックスでは、副作用が多いと言われているので注意が必要です。

そのため、飼育環境でのレプトスピラ症の発生率、犬種や体質などを考慮して判断する必要があります。

また過去にレプトスピラ症を含むワクチンでワクチンアレルギーが出た場合には、レプトスピラを含まない混合ワクチンに変更するのも一つの方法です。

混合ワクチン接種のタイミング

子犬の初年度ワクチンとその後の追加接種で、ワクチン接種のタイミングに対する考え方が変わってきます。

子犬の場合(初年度ワクチン)

母親由来の移行抗体があると、その時期に接種されたワクチンの効果を阻害してしまいます。しかし、犬によって移行抗体の無くなる時期に違いがあります。

そこで世界小動物獣医師学会ワクチネーション・ガイドライングループ(2015年)では、6〜8週齢でワクチン接種を開始し、その後2〜4週間隔でワクチン接種を行い、最終接種は16週齢またはそれ以降とすることが推奨されています。

日本の混合ワクチンの添付文書を調査した「犬用ワクチンの概説(日獣会誌 2010年)」によると、ワクチン接種回数は1 〜3 回であるが多くは2回接種であり、接種対象月齢は初回の接種が4週齢以上、1カ月齢以上から12週齢未満まで分かれており、ワクチン接種の間隔は3~4週間隔となっていと報告しています。また、妊娠している犬を除くという条件を付けているワクチンもあるので注意しなければならないと報告しています。このようにワクチンメーカーによって、添付文書の記載が異なっているのが混合ワクチン接種の実際です。

このように、ワクチン接種に対する国内での統一見解はないものの、最も権威のある世界小動物獣医師学会ワクチネーション・ガイドラインを参考に接種することが多いです。

成犬の場合(追加接種)

現在、日本では年1回の追加接種が行われています。しかし、ワクチンの免疫持続期間はもっと長いので、3年に1回でもいいのではないかという議論がなされています。

それについては確かに、「コアワクチン」の3種類(犬ジステンパー、犬伝染性肝炎、犬パルボウイルス感染症)とそれ以外の「ノンコアワクチン」(犬アデノウイルス2型感染症、犬パラインフルエンザウイルス感染症、犬コロナウイルスそして犬レプトスピラ症)で免疫持続期間に違いがあると考えられています。

コアワクチンとノンコアワクチンの追加接種に関する考え方として、世界小動物獣医師学会ワクチネーション・ガイドライン(2015年)では、コアワクチンについては原則として初年度接種後は、3年ごとより短い間隔で接種すべきでないと記載されており、ノンコアワクチンについては免疫持続期間は一般的に1年またはそれよりも短いため、特定のノンコアワクチンが必要な場合には毎年ワクチンを接種すると記載されています。

また別の問題として、トリミングショップやペットホテルで、混合ワクチンの1年以内の証明書が必要となることが多いので、現状3年に一度の混合ワクチン接種の普及はまだ先になりそうです。

混合ワクチンの抗体測定について

混合ワクチンの抗体価検査として、犬ジステンパーウイルス感染症、犬パルボウイルス2型感染症、犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)に対する血液中の抗体価を測定し、各感染症に対する発症防御能を数値化して評価する検査が利用可能です。

追加接種の時期に採血を行い、この抗体価検査の数値が高ければ混合ワクチンの効果が十分あると判断して、混合ワクチン接種を一年スキップするという方法もあります。

混合ワクチン接種後の注意事項

混合ワクチン接種後、2〜3日の間は激しい運動やシャンプーを等を避けて安静にする必要があります。そのため、激しい運動をさせない軽いお散歩程度であれば、混合ワクチン接種当日でも問題ないです。

またワクチン接種後、免疫が得られるまで2〜3週間かかるので、それまでは犬同士の接触を避ける必要があります。すぐにはワクチンの効果が得られない点に、注意をしましょう。

さらに副作用が出てないか、帰宅してからもよく観察をしましょう。

混合ワクチン接種後の副作用

顔面浮腫(ムーンフェイス)、掻痒、蕁麻疹などのアレルギー反応ショック症状(血圧、体温の低下、可視粘膜蒼白など)、意識障害そして呼吸困難などのアナフィラキシーショックに注意する必要があります。

日本で行われた、犬におけるワクチン接種後の副反応について調べた調査では、顔面浮腫などの皮膚症状が10,000頭あたり42.6頭虚脱などのアナフィラキシーが10,000頭あたり7.2頭と報告(Miyaji K, et al., 2012. Vet Immunol Imunopathol 145:447-452)されています。

可能であれば、アレルギー症状やアネフィラキシーショックなどの副反応が出ても動物病院にすぐに連れて行けるように、混合ワクチンは午前中に接種することをお薦めします。混合ワクチン接種後は安静にして、ゆっくりと愛犬の様子を見てあげましょう。

まとめ

犬の混合ワクチンについて解説しました。混合ワクチンの種類や接種プログラムについては、動物病院で獣医さんとよく相談し、納得のいくワクチン接種を行いましょう。

ワクチン接種後は、副作用が出ることも予想されます。アレルギー症状やアネフィラキシーショックなどの副作用が出ても動物病院にすぐに連れて行けるように、午前中にワクチン接種を行うことを推奨します。