犬の結膜炎

人の結膜炎で急性結膜炎に分類されるものとして、アデノウイルスが原因で短期間に集団的に発生する“はやり目”というものが、日常的に見られるものとして有名です。

犬でも日常的に遭遇することの多い、結膜炎について解説します。

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犬の結膜炎とは

結膜は、白目表面からまぶたの裏側までをおおっている粘膜で、白目の表面のところは眼球結膜、まぶたの裏側のところは眼瞼結膜と呼ばれます。結膜は、眼球とまぶたをつなぎあわせてそれらがうまく動くようにする働きがあります。

結膜炎は、結膜が赤く充血して炎症を起こす病気で、犬と猫で日常の診察でよく見られる病気です。結膜は外界と接しているため、常に細菌、クラミジア、ウイルス、真菌等の微生物の侵入を受けています。そしてこれらにより炎症を起こした結膜は、微細な血管が充血し浮腫を起こします。結膜は炎症により浮腫や眼ヤニを分泌し、羞明(しゅうめい)等の不快感を与えます。羞明とは、光を過度にまぶしく感じてしまうことです。また、多量もしくは持続する目ヤニの分泌により、眼瞼表面皮膚の炎症を続発し眼瞼の炎症を伴うこともあります。

犬の結膜炎
結膜が赤く充血して炎症を起こす病気

原因

結膜炎はその原因により、感染性と非感染性に分かれます。感染性結膜炎の原因は、細菌、ウイルス、真菌、リケッチア、寄生虫などがあります。非感染性結膜炎の原因は、アレルギー性、濾胞性、接触性、涙液減少などがあります。犬では非感染性結膜炎が多いと考えられ、猫では感染性結膜炎が多いと考えられています。

犬では感染性結膜炎の主な原因は、グラム陽性好気性菌、ジステンパーウイルス、涙液減少による細菌の二次感染が多いとされています。

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結膜炎の症状

結膜炎は、急性結膜炎と慢性結膜炎に分類されます。急性結膜炎では、結膜浮腫、充血、炎症細胞の浸潤がみられ、外傷、アレルゲン、毒素が原因となり発症することが多いです。慢性結膜炎では、粘膜上皮細胞の角質化がみられ、持続することによりまぶたが外反する眼瞼外反症を起こしたり、まぶたが機能障害を起こし”兎眼”がみられるようになります。兎眼とは、まぶたが完全に閉じることができない状態を指します。

また、乾燥性角結膜炎(KCS)などの慢性疾患では結膜の杯細胞の増殖や、細菌やマラセチアなどの酵母が増殖するなどの結膜表面の微生物叢の変化が報告されており、眼表面の防御機能がさらに低下します。

濾胞性結膜炎とは、結膜の表面にあるリンパ組織が慢性の抗原刺激によって腫れ、結膜上に小さい隆起(濾胞)ができるもので、若齢(18ヶ月未満)の犬で発症することが多い結膜炎です。濾胞の形成は、瞬膜表面にみられることも多いです。

症状のポイント
急性結膜炎では、結膜浮腫、充血、炎症細胞の浸潤が、慢性結膜炎では眼瞼外反症や兎眼がみられる

結膜炎の診断

視診により、結膜の充血や浮腫を評価します。結膜は、眼瞼結膜、結膜円蓋、眼球結膜と連続するため、白目の部分のみでなくまぶたの裏側も観察することが重要です。また、瞬膜の裏側も結膜で覆われていることに注意が必要です。

犬の濾胞性結膜炎では、結膜に多数の濾胞が形成されます。そのため、視診で結膜表面を観察することが大切です。また、その他の臨床症状で結膜の充血、粘液性の目ヤニがみられます。

細菌および真菌感染が疑われる場合には、目ヤニや結膜表面の培養検査を行います。結膜炎や目ヤニの分泌がみられるときは、結膜と目ヤニの細胞診を行います。これは点眼麻酔を行い、マイクロブラシと呼ばれる専用の器具で結膜を擦ることで細胞を採取します。

正常な結膜の細胞診では、球形の核を持つ大型結膜上皮細胞が検出され、細菌はまれにみられる程度です。化膿性炎症では、好中球が多数検出され、細菌性可能性炎症では、多数の好中球と細菌が検出され、好中球が細菌を貪食している所見があれば、細菌感染と判断します。好中球の出現は、アレルギー性結膜炎の診断の一助となります。

涙液減少は、結膜炎の原因として犬で多く、治療が対症療法(抗菌薬、抗炎症薬)のみでは改善しないため、涙液の定量検査を行います。涙液量の測定はシルマーティアーテストで行い、基礎分泌と反射性分泌の合算である第1法と、点眼麻酔を用いて基礎分泌のみを測定する第2法が存在します。犬および猫では通常第1法を行い、≧15mm/分で正常、11~14mm/分で軽度低下、6~10mm/分で中等度低下、≦5mm/分は重度低下と判断します。

診断のポイント
視診に加え、細菌培養検査と感受性試験、細胞診、シルマーティアーテストなどを必要より行う

結膜炎の治療

濾胞性結膜炎の治療は、生理食塩水による洗眼を行い、グルココルチコイド(ステロイド)点眼薬を投与します。グルココルチコイド(ステロイド)点眼薬を使用する時には、角膜に潰瘍が存在すると潰瘍が融解したり治癒遅延を起こすことから、角膜に潰瘍がないか注意して使用する必要があります。

細菌性結膜炎では、抗菌薬に治療を行います。抗菌薬を投与し、細菌培養検査と感受性試験を実施した場合には、結果により抗菌薬の変更を検討します。抗菌薬は点眼の他に内服での投与も行う場合があります。細菌感染が重度の場合には、ヨード剤による洗眼消毒を行うこともあります。また、炎症が激しい場合には、非ステロイド性消炎鎮痛剤の投与を行うこともあります。

治療のポイント
濾胞性結膜炎ではグルココルチコイド(ステロイド)点眼薬の治療を、細菌性結膜炎では抗菌薬の点眼や内服を行います

予後

濾胞性結膜炎は、グルココルチコイド(ステロイド)点眼薬に比較的良好に反応することが多いですが、濾胞の完全な消失には時間がかかることがありますが、目ヤニや痛みなど症状の改善は早期にみられます。

細菌性結膜炎では、感染した細菌に投与した薬剤の感受性があれば数日で症状は緩和します。結膜の細菌感染の原因として、涙液減少が存在する場合には、一旦治癒しても再発することがあるので、その場合には涙液減少に対する治療を行います。

まとめ

犬の結膜炎について解説しました。犬の結膜炎の場合には、非感染性結膜炎の原因が多いとされていますが、グラム陽性好気性菌、ジステンパーウイルス、涙液減少による細菌の二次感染などのによる感染性結膜炎の場合もあります。

愛犬の結膜が赤く充血した場合には、動物病院で獣医さんに診察をしてもらいましょう。