犬の流涙症

涙は眼の涙腺から分泌される体液で、眼球の保護が主要な役割です。涙は、眼の表面を通過したあと涙点に入り、涙小管・涙嚢・鼻を経て、喉から再吸収されます。

代表的な症状として”涙やけ”を起こす、犬の流涙症について解説します。

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犬の流涙症とは

犬の正常な涙の排出は、まず涙が眼を横断し、瞬きによって涙を排泄する鼻涙管のある内眼角へと移動します。次いで、眼瞼腔から鼻孔の粘膜結合部に開口する鼻涙管につながる涙湖へと流れます。

涙は、数個の腺からの分泌液で構成されています。犬では上方外側眼窩に存在する眼窩涙腺と、第三眼瞼軟骨に密接している第三眼瞼腺などから分泌されており、どちらかを切除しても著名な涙の欠乏による疾患を起こしませんが、両方を切除すると乾性角結膜炎を起こすことが知られています。

流涙症は、涙が正常な排出路である涙点から鼻腔に排出されず、眼瞼縁から眼周囲へ溢れ出た状態をいいます。流涙症により被毛の着色とその領域の皮膚炎が起こることを、”涙やけ”と呼びます。

犬の流涙症
涙が正常な排出路である涙点から鼻腔に排出されず、眼瞼縁から眼周囲へ溢れ出た状態

原因

流涙症の原因は、先天性と後天性とに大別されます。

先天性疾患

先天性疾患として、涙の排出路の形成異常があります。その先天性の形成異常には、涙点閉塞/小涙点、涙管閉塞/涙管過少、涙囊および鼻涙管奇形、外鼻孔閉塞などがあります。また、内眼角の靭帯、眼瞼内反、睫毛の異常なども原因となります。

後天性疾患

後天性疾患として、涙の排出路の外傷、炎症、異物、腫瘍等による閉塞の他に、マイボーム腺分泌障害による涙の油成分分泌不全、アレルギー性疾患の一症状である結膜炎や眼瞼炎などの基礎疾患が流涙症の原因となります。

また、角膜潰瘍などの角膜疾患、ぶどう膜炎緑内障などの眼の痛みを伴う眼疾患が原因となる場合もあります。

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流涙症の症状

流涙症の代表的な症状は、”涙やけ”です。涙やけとは、溢れた涙により被毛が着色され、その領域の皮膚に炎症が起こることです。流涙症はトイ種、特にトイプードルでの発生が多く、特に被毛色が薄い犬で、涙やけが気になることが来院のきっかけとして多いです。一般に犬自身より飼い主が気にすることが多く、涙が光に反応する物質(ポルフィリンやカテコラミンなど)を含み、内眼角被毛に付着させる色素を産生します。黒や褐色の変色が目立ちます。

なお、涙に含まれているこれらの物質は、唾液や汗にも含まれているため、口唇部や足に色やけを起こしてしまいます。例えば犬が足を噛んだり舐めたりすることで、被毛の変色が生じます。

症状のポイント
溢れた涙により被毛が着色され、その領域の皮膚に炎症が起こる”涙やけ”

流涙症の診断

流涙症の発症時期により、先天性と後天性かを判断します。

診断には、視診、眼圧測定、シルマー試験、スリットランプ(眼科用の顕微鏡)ならびにフルオレセイン染色検査などの眼科検査を行い、角膜疾患、ぶどう膜炎、緑内障などの流涙症以外の眼科疾患を除外します。

視診では特に、流涙による被毛の着色と眼周囲皮膚の炎症、眼球と眼瞼の位置関係、マイボーム腺開口部を含む眼瞼縁、内眼角の眼瞼内販の程度と涙丘や乱性睫毛の関係、涙点の状態を評価します。フルオレセイン染色検査は、角膜上皮障害部を染色する検査ですが、涙液が染色されることを利用して、涙液の眼周囲への流出状態も観察できます。

涙の排出路である涙点のつまりの有無は、涙点へ細い管を入れて液体が流れるかどうかを確認(鼻涙管通過試験)します。さらに涙の排出路の閉塞部位を確認するために、造影剤を用いてレントゲン検査を行う場合もあります。

その他に、角膜と瞼の間にたまった涙の高さ(メニスカス)、涙液膜破壊時間、角膜上皮の状態を観察し、涙の角膜表面における貯留状態を評価します。

診断のポイント
発症時期、眼科検査、鼻涙管通過試験、涙の貯留状態の評価など

流涙症の治療

流涙症は、原因により治療法が異なります。先天性の形成異常が原因の場合には、内科的治療で多少の改善を認めることは可能ですが完治は難しく、後天性疾患による流涙症の場合には基礎疾患を治療することにより改善します。

治療のポイント
内科的治療と外科的治療があり、原因により治療法が異なる

内科的治療

鼻涙管通過試験により涙の排出路の異常を認めた場合には、鼻涙管洗浄を実施します。内眼角における睫毛の異常が問題となる場合には、涙丘の毛や睫毛乱生を抜毛します。

マイボーム腺分泌障害による涙液の油成分分泌不全は、油成分の分泌を促進するために眼瞼温罨法と人為的瞬き運動を行います。眼瞼温罨法とは、約38℃に加温した蒸しタオルで数分間眼瞼を加温しながらマッサージを行う方法で、人為的瞬き運動とは、飼い主が犬の眼瞼をパチパチさせ瞬きをさせる運動です。さらに、マイボーム腺の炎症の程度により、眼軟膏(商品名;リンデロンA軟膏など)を塗布します。

涙液の水分流出による軽度の乾燥性角結膜炎や表層性点状角膜炎に対しては、精製ヒアルロン酸ナトリウム(商品名:ヒアレインミニ点眼液など)の点眼で角膜上皮障害の治療を行います。

痛みを伴う眼疾患(角膜疾患、ぶどう膜炎緑内障)やアレルギーが原因で起こる流涙症では、基礎疾患の治療を行います。

涙やけに対しては、ペニシラミンという涙やけの原因とされているラクトフェリン様色素中の鉄をキレートさせる働きのあるの点眼薬を使用する方法があるそうです。

外科的治療

内科的治療で満足のいく改善が認められない場合には、外科的治療が選択されます。外科的治療には、状況に応じて眼瞼形成術、毛根破壊術、涙点開口/涙管拡張術、瞬膜腺の部分切除術などが適応となります。

予後

先天性の形成異常が原因となる流涙症は、内科的治療による完治が難しいため、定期的な治療が必要となることが多いです。

まとめ

犬の流涙症について解説しました。流涙症の原因は多岐に渡るため、しっかりとした診断を行った上で治療を開始することが推奨されています。

涙やけの色素を落とすことよりも、流涙症の原因となる基礎疾患の治療を行うことが重要です。