壊死性髄膜脳炎をご存知でしょうか?昔は、パグ脳炎と呼ばれていました。
犬のてんかんは、脳に器質的な異常が見つからないのに発作を繰り返す「特発性てんかん」と、脳の病気に伴なって発作が生じる「症候性てんかん」の2つに分類されます。
犬の「症候性てんかん」を引き起こす原因の一つである、壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)について解説します。
壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)とは
脳炎とは脳に起きた炎症の総称であり、髄膜炎とは脳を包んでいる髄膜という膜に起きた炎症の総称です。そして、この2つは同時に起こることもあり、その場合を「脳髄膜炎」と呼びます。
脳炎と髄膜炎が同時に起きた状態
壊死性髄膜脳炎は、かつてパグ脳炎と呼ばれており、パグに代表される病気です。しかし、シーズー、マルチーズ、ポメラニアン、ペキニーズ、チワワなどでも発症します。
原因
髄膜脳炎には、感染が関与するもの(感染性)と、しないもの(非感染性)があります。
犬の感染性髄膜脳炎の代表として、犬ジステンパーウイルス(CDV)による髄膜脳炎がありますが、壊死性髄膜脳炎は非感染性髄膜脳炎に分類されています。
病態は明らかになていませんが、近年アストロサイトに存在するグリア線維性酸性タンパク(GFAP)に対する自己抗体が発見されたことから、おそらくは免疫介在性(自己免疫疾患)脳炎であると考えられています。
自己免疫疾患が疑われている
壊死性髄膜脳炎の症状
壊死性髄膜脳炎はの初期病変は、軟膜直下の大脳皮質あるいは皮髄境界部の血管周囲に炎症が生じます。そして、この炎症が拡大慢性化するに伴い、大脳皮質皮質下白質に軟化壊死巣が形成されていきます。
そのため臨床症状は、壊死巣が形成された脳の部位に一致した神経症状がみられますが、初期症状はてんかん発作のみであることも少なくないです。
初期症状はてんかん発作、その後は脳の障害部位による神経症状
末期になると脳幹や小脳にも病変が波及し、生存が困難になるか、あるいは発作重積により死亡してしまいます。
壊死性脳脊髄炎の診断と治療
診断
壊死性髄膜脳炎の確定診断には、病理学的検査が必要であるといわれています。
しかし、MRIと脳脊髄液検査そして脳脊髄液中の抗GFAP自己抗体の検出により高精度に診断することが可能となっています。
MRIと脳脊髄液検査そして脳脊髄液中の抗GFAP自己抗体の検出
治療
壊死性髄膜脳炎を治す治療は存在しません。症状の進行を抑える治療として、プレドニゾロンを中心とした免疫抑制療法を行います。
また臨床症状にてんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療も同時に行います。
プレドニゾロンを中心とした免疫抑制療法
予後
パグの壊死性髄膜脳炎の予後は良くないです。治療が効いたとしても生存期間は1〜3年であるといわれています。また、治療に反応せず6ヶ月以内に死亡する例もあります。
パグ以外の犬種での壊死性髄膜脳炎は予後がやや良いようで、3年以上の生存の可能性も多いとされています。
パグでは特に予後が悪い
まとめ
犬の壊死性髄膜脳炎について解説しました。パグだけの病気ではないですが、特にパグでてんかん発作がみられた時には、この病気のことを頭に入れておきましょう。
MRIと脳脊髄液検査そして脳脊髄液中の抗GFAP自己抗体の検出により、高精度に診断することが可能ですが、一般の動物病院で行うことは難しいため、大学病院等の二次診療施設の受診も検討するようにしましょう。