「玉ねぎ中毒」をご存知でしょうか?犬や猫にあげてはいけない食べ物として、知っている方は多いと思います。では、どれくらいの量を食べると中毒症状が出るのでしょうか?玉ねぎ以外でも気をつけなければいけない植物は知ってるでしょうか?
愛犬に貧血を引き起こす、犬の玉ねぎ中毒について解説します。
玉ねぎ中毒とは
タマネギ(学名:Allium cepa)は、ネギ科の多年草です。ネギ科に属する植物は、臭いの程度に差はあるものの全体に強い「ネギ臭さ」を特徴としており、ネギ、ニラ、ニンニクなどが挙げられます。
犬が玉ねぎを大量に摂取した場合、そこに含まれるn-プロピルジスフィルドという化学物質により赤血球が破壊され、貧血がみられます。より専門的には、この貧血を「ハインツ小体性溶血性貧血」と呼びます。
玉ねぎを大量に摂取した場合、貧血が起きること
原因
玉ねぎの毒性は、季節や摂取した量によって違いがあるとされています。また、一気に食べた場合と、毎日少しずつ食べた場合で違いがあるようです。
しかし、調理(加熱)の有無や腐敗、乾燥・粉末(オニオンパウダー)などといった加工の有無により毒性が消失することは無いとされています。そのため、様々な形態での摂取による発症が報告されています。
犬では、体重1kgあたり犬では15~30g(猫では5g)といった、ごく少量の玉ねぎを摂取した場合にも、血液検査において異常が認められるとされています。
また、同様の病態は、玉ねぎのみに限らず、ニンニク、ネギ、ニラなどのネギ属の他の植物を、過剰に摂取した場合にも発生します。
玉ねぎのみに限らず、ニンニク、ネギ、ニラなどのネギ科の他の植物でも発生
体重の0.5%の玉ねぎを食べると中毒を起こす
玉ねぎ中毒は、主にn-プロピルジスフィルドが犬の体内で代謝される過程で、酸素フリーラジカルを生成し、赤血球の細胞膜およびヘモグロビンに酸化的障害を及ぼすことに起因します。
酸化的障害を受けた赤血球は溶血し、また変性したヘモグロビンは赤血球内に凝集沈殿し、最終的にハインツ小体を形成します。
その後、これらの赤血球は脾臓などで捕捉または溶血し、貧血に至ります。
犬は赤血球内の抗酸化作用が弱く、酸化的障害を受けやすいですが、秋田犬や柴などの日本犬は、酸化的障害の防御機能が弱く中毒を起こしやすいと言われています。
特に中毒になりやすい犬種を除き、一般的に犬では少なくとも体重の0.5%の玉ねぎを食べると中毒を起こすとされています。
玉ねぎ中毒の症状
玉ねぎ中毒では、元気消失、食欲不振、運動失調のほか、頻脈、頻呼吸、あるいは呼吸困難、粘膜蒼白あるいは黄疸などの症状がみられます。場合によっては、息の玉ねぎの匂いに気がつく場合もあります。
また、血尿もしくはコーヒー色の尿をするという症状で気がつく場合もあります。
貧血に伴う粘膜蒼白や黄疸、そして赤〜茶色の尿
玉ねぎ中毒の診断と治療
診断
玉ねぎ中毒は、玉ねぎ、ニンニク、ネギ、ニラなどの大量摂取が確認できた場合、あるいはその可能性がある場合に強く疑われます。
しかし、玉ねぎ中毒以外にも同様の症状(ハインツ小体性貧血)を示す物質が知られています。そのため、他の原因物質あるいは関連疾患を除外するためにも、問診が重要となります。
ハインツ小体性貧血を引き起こす原因物質
亜鉛、ベンゾカイン、アセトアミノフェン、殺虫剤
出典:「タマネギまたはニンニク中毒」クリニカルベテリナリーアドバイザー 2010. 監訳:長谷川篤彦 (株)インターズー 東京
血液検査では、貧血がみられます。血液塗抹検査においては、大球性低色素性の再生性貧血に加え、ハインツ小体含有赤血球の増加が認められることが特徴です。
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治療
玉ねぎ中毒に対する、解毒薬は存在しません。基本的には、消化管内容物(玉ねぎ)の除去と貧血の治療、そして支持療法が中心となります。
玉ねぎ摂取後2時間以内であれば、催吐処置が有効です。また、原因物質の吸収を抑制する目的で、催吐処置後に吸着剤である吸着炭を投与することも有効とされています。そして、すでに吸収されてしまった中毒物質については、輸液を実施することで排泄を促進させます。
重度の貧血が認められ場合には、輸血および酸素吸入を検討します。
最重度の貧血は、玉ねぎ摂取からおよそ1~5日後と遅れて認められる場合が多いです。そのため、玉ねぎ摂取後は数日間に渡り、貧血の様子をモニタリングすることが望ましいです。
予後
玉ねぎ中毒の予後は、貧血の重症度および支持療法の有無により異なります。重症例では死に至る場合もありますが、玉ねぎ摂取後早期に適切な治療を実施することができれば、予後は比較的良好である場合が多いです。
まとめ
犬の玉ねぎ中毒について解説しました。一般的にみられる症状としては貧血と血尿ですが、これに「玉ねぎを食べた」という問診が加わると、診断が容易になります。
すぐに診断して適切な処置をするために、玉ねぎのみに限らず、ニンニク、ネギ、ニラなどのネギ科の他の植物でも同様の症状が発生することを覚えておきましょう。また、当然のことながら、これらを食べさせることの無いように、気を付けるようにしましょう。