犬の赤血球系(RBC,Hb,HCT)の異常(多血症/貧血)を獣医師が丁寧に解説

動物病院で血液検査を受けた際に、検査結果をより深く理解するためのサポートとしてこの記事を作成しました。
愛犬の血液検査結果をお手元に置きながら、ぜひご覧ください。

※注意事項
・正常値は使用する検査機器や検査会社によって異なります。必ず検査結果用紙に記載された基準値を参照してください。
・検査結果が基準値を外れていても、必ずしも病気を意味するわけではありません。必ず担当獣医師の説明を受けましょう。

目次

赤血球数(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(HCT)とは

赤血球は血液中を流れ、肺で取り込んだ酸素を全身の細胞へ届け、不要になった二酸化炭素を回収する重要な細胞です。
骨髄で産生され、寿命は約120日。寿命を迎えた赤血球は脾臓や肝臓で分解・処理されます。

赤血球の産生を促すのがエリスロポエチンというホルモンです。貧血や慢性心疾患、呼吸器疾患、高地生活などによる低酸素状態になると、腎臓から分泌され赤血球の増加を促進します。このため、エリスロポエチンは「増血因子」と呼ばれます。

ヘモグロビンは赤血球内にある酸素運搬タンパク質で、酸素を肺から全身へ運ぶ役割を果たします。
ヘマトクリットは血液中の赤血球の占める割合を示す指標で、「PCV(Packed Cell Volume)」とも呼ばれます。犬では、PCV≒ヘマトクリットと考えて差し支えありません。

これら3つは密接に関係し、赤血球数が増えるとヘモグロビンとヘマトクリットも増加し、減るとすべてが低下します。
赤血球が異常に増加する疾患は多血症(赤血球増加症)、減少する疾患は貧血と呼びます。

検査会社RBCHbHCT
富士フィルムモノリス550〜850×10⁴/μl12.0〜18.0 g/dl37.0〜55.0 %
アイデックス5.65〜8.87×106/μl13.1〜20.5 g/dl37.3〜61.7 %
▲各検査会社における犬のRBC、Hb、HCTの基準値

多血症(赤血球増加症)の原因

多血症には以下の2種類があります。

  • 相対的増加:液体成分の減少(脱水など)により、赤血球が多く見える状態。
  • 絶対的増加:赤血球自体が過剰に産生されている状態。

相対的増加の原因

犬の血液検査で最も多いのはこのタイプです。代表例は脱水で、水分不足により血液が濃縮され赤血球が多く見えます。

相対的増加による多血症(赤血球増加症数)の原因
脱水
出血性胃腸炎

絶対的増加の原因

エリスロポエチンの過剰分泌や骨髄腫瘍により、赤血球の産生が実際に増加するケースです。

絶対的増加による多血症(赤血球増加症)の原因
二次性赤血球増加症
 慢性的な酸素欠乏(心疾患、呼吸器疾患、高地居住など)
 エリスロポエチンを過剰産生するタイプの腎臓の腫瘍
真性赤血球増加症
 腫瘍(真性多血症など)

貧血の原因

貧血も大きく再生性貧血非再生性貧血に分けられます。

再生性貧血

赤血球の破壊や喪失により骨髄以外の原因で起こる貧血です。MCVやMCHCの値、および顕微鏡による赤血球の形態観察から予測されます。

再生性貧血の原因
失血
免疫介在性貧血(自己免疫疾患)
ヘモグロビンの変性(玉ねぎ中毒など)
感染症(バベシア症、ヘモプラズマ症など)
先天性/後天性の赤血球膜の異常

非再生性貧血

骨髄の造血機能低下が原因です。

非再生性貧血の原因
感染性(ウイルスなど)
腫瘍(赤芽球系の分化成熟異常)
体内の鉄欠乏(鉄欠乏性貧血)
甲状腺機能低下症
慢性腎臓病(エリスロポエチンの産生低下)

赤血球恒数(MCV、MCH、MCHC)とは

これらは赤血球の大きさやヘモグロビン量を示す指標で、以下のように計算されます。

MCV(平均赤血球容積):[ヘマトクリット値(%)÷赤血球数(106/㎣)]×10
MCH(平均赤血球ヘモグロビン量):[ヘモグロビン(g/㎗)÷赤血球数(106/㎣)]×10
MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度):[ヘモグロビン(g/㎗)÷ヘマトクリット値(%)]×100
検査会社MCVMCHMCHC
富士フィルムモノリス60.0~77.0fL19.5〜26.0pg32.0~36.0%
アイデックス61.6~73.5fL21.2~25.9pg32.0~37.9%
▲各検査会社におけるMCV、MCH、MCHCの基準値
赤血球恒数(MCV,MCH,MCHC)による貧血の分類
大球性低色素性(MCV↑ MCHC↓)→ 再生性貧血
正球性正色素性(正常範囲)→ 非再生性貧血
小球性低色素性(MCV↓ MCHC↓)→ 鉄欠乏性貧血
大球性正色素性(MCV↑ MCHC正常)→ 赤血球成熟異常・赤芽球系の腫瘍

まとめ

犬の赤血球系異常には、多血症(赤血球増加症)と貧血があります。
血液検査の数値が基準値から外れていても、必ずしも異常とは限らず、総合的な診断が重要です。

  • 多血症ではまず脱水の有無を確認します。脱水がない場合は、エリスロポエチン測定や画像検査が必要になることもあります。
  • 貧血では再生性か非再生性かを判断し、追加検査(レントゲン、超音波、尿検査など)を進めます。

愛犬の健康管理のため、気になる点があれば迷わず獣医師に相談しましょう。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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