この記事では、犬のアトピー性皮膚炎(犬アトピー性皮膚炎)について、原因・症状・診断・治療を現役獣医師がわかりやすく解説しています。
この記事を読むだけで、犬アトピー性皮膚炎についてすぐに理解できるよう構成しています。ぜひ最後までお読みいただけたら嬉しいです。
対象読者
- 動物病院で犬アトピー性皮膚炎と診断された、あるいは疑われた犬の飼い主さん
- 長期間にわたって皮膚のかゆみが続いている犬の飼い主さん
- 犬アトピー性皮膚炎について学びたい獣医学生や動物看護師さん
犬アトピー性皮膚炎とは
犬アトピー性皮膚炎(CAD:Canine Atopic Dermatitis)は、犬にもっとも多くみられるアレルギー性皮膚疾患のひとつです。
「遺伝的素因を背景とした慢性的でかゆみを伴う皮膚疾患であり、特徴的な臨床徴候を示し、多くは環境アレルゲンに対するIgE抗体の増加が認められる」と定義されています。
発症には、さまざまな要因が重なり合うと考えられています。
先天的な要因としては、フィラグリン遺伝子異常による皮膚バリア機能の低下や、IgEを産生しやすい体質が挙げられます。
また、環境要因としては、特に室内飼育犬においてハウスダストマイト(ダニ類)への曝露が重要です。これらがI型アレルギー反応を引き起こし、強いかゆみにつながると考えられています。
犬と人のアトピー性皮膚炎には、多くの共通点があることも知られています。
犬アトピー性皮膚炎の症状
犬アトピー性皮膚炎では、慢性的なかゆみが主な症状です。
- 発症年齢は生後6か月〜3歳頃が多いですが、高齢で発症する場合もあります。
- 初期には季節性のかゆみがみられることもありますが、進行すると一年を通じてかゆみが持続する傾向があります。
早期には、舐める・掻く・こするといったかゆみを示す行動が目立ちます。
その結果、皮膚に自傷行動による裂毛・脱毛・掻き傷・ただれが生じ、長期的には皮膚が硬く厚くなったり(苔癬化)、色素沈着が見られるようになります。
また、膿皮症やマラセチア皮膚炎といった二次感染症を併発しやすい点も重要です。

犬アトピー性皮膚炎の診断
つまり、まずは他のかゆみを引き起こす病気をひとつずつ除外していく作業が必要になります。
具体的には次のような病気を慎重に見極めます。
- 感染症(膿皮症、マラセチア皮膚炎)
- 他のアレルギー疾患(ノミアレルギー性皮膚炎、食物アレルギー)
- 行動学的問題(精神的ストレスなどによる舐め・掻き行動)
これらをしっかりと除外したうえで、総合的にアトピー性皮膚炎と診断していきます。

家庭でできる簡易診断方法
動物病院に行く前に、飼い主さんができる簡単なチェックリストも存在します。
次の8項目のうち、5項目以上当てはまる場合は、アトピー性皮膚炎の可能性が高いとされています。
✅ 症状が現れたのは3歳以下だった
✅ 室内で飼っている時間が長い
✅ ステロイド薬でかゆみが改善した
✅ 痒みが皮膚病変に先行していた
✅ 前足に赤み・脱毛など皮膚病変がある
✅ 耳に皮膚病変がある
✅ 耳の皮膚病変は耳の中央部分だけで、端にはない
✅ 背中には皮膚病変がない
※:皮膚病変とは、主に皮膚の赤みと脱毛の事です
このチェックリストは、感度85%・特異度79%と高い精度があると報告されています。
ただし、あくまで参考なので、正確な診断は必ず動物病院で行いましょう。
なお、感度・特異度とは以下のような意味です。
- 感度:陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確率
- 特異度:陰性のものを正しく陰性と判定する確率
アレルギー検査について
「アレルギー検査を受けた方がいいですか?」というご質問はよくありますが、
実はアトピー性皮膚炎の診断に必須ではありません。
たとえば、ハウスダストマイトに対するIgE抗体の数値が高いことは知られていますが、
アトピーでない犬でも高値を示すことがあるため、検査結果だけで診断するのは危険です。
また、食物アレルギーに関しても、IgE検査やリンパ球刺激試験の有用性は限定的です。
食物アレルギーの確定診断には、除去食試験(アレルゲンを含まない食事に切り替える方法)が必要です。
検査はあくまで参考情報にとどめ、
診断は総合的に行うことが大切です。
(※ アレルギー検査の費用目安:2〜4万円)

犬アトピー性皮膚炎の治療
犬アトピー性皮膚炎は、現時点では根治が難しい病気です。
そのため、治療の目的は「かゆみ」と「炎症」の管理にあります。
治療は、主に次の4つを組み合わせて行います。
抗原刺激の回避
かゆみを悪化させるアレルゲン(原因物質)から犬をなるべく遠ざけることが重要です。
環境アレルゲン(ハウスダストマイトなど)対策
- クッションやカーペット類をこまめに洗濯
- こまめな掃除機かけ
- 寝具を高温乾燥させる
完全に除去するのは難しいですが、少しでもアレルゲン量を減らすことで症状の悪化を防げます。
食事の見直し
約半数のアトピー性皮膚炎の犬で食事がかゆみの悪化に関与しているという報告もあります。
「除去食試験」を行い、食物が関与していれば食事管理を行うことも重要です。
二次的な感染症の管理
犬アトピー性皮膚炎では、膿皮症やマラセチア皮膚炎を併発しやすくなります。
これら二次感染があると、もとのかゆみがさらに悪化してしまうため、
抗菌薬や抗真菌薬による治療を適切なタイミングで行うことが大切です。
皮膚炎に対する薬物治療
治療には「全身療法」と「外用療法」があります。
全身療法
全身療法の例として、グルココルチコイド(ステロイド)、シクロスポリン、オクラシチニブ、ロキベットマブがあります。
グルココルチコイド(ステロイド)
即効性のあるかゆみ止め。ただし、副作用(肝障害・副腎抑制)に注意が必要です。
シクロスポリン(商品名:アトピカ)
ステロイドと同等の効果。ただし効果発現までに1〜2か月ほどかかります。
オクラシチニブ(商品名:アポキル)
即効性があり、ステロイドより副作用が少ないと考えられています。
ロキベットマブ(商品名:サイトポイント)
1回の注射で約1か月効果が持続。アポキルよりもさらに副作用が少ないとされています。
外用療法
グルココルチコイド外用薬(例:ビクタスSMTクリーム、コルタバンス)
即効性があり、局所的なかゆみや炎症に有効です。ただし、強力な外用薬は皮膚萎縮など副作用リスクに注意。
タクロリムス軟膏
グルココルチコイドに比べ副作用が少ないですが、即効性には劣ります。
その他(補助的な治療)
スキンケア(シャンプー療法)
皮膚バリア機能をサポートするために、
低刺激・保湿成分を含んだシャンプーを使うことが推奨されます。
(例:オートミール、セラミド含有シャンプー)
二次感染症が併発している場合には、
- クロルヘキシジン配合シャンプー(膿皮症対策)
- ミコナゾール配合シャンプー(マラセチア対策)
なども有効です。
免疫療法・インターフェロン療法
- 免疫療法(アレルミューン)
特定アレルゲンに対する免疫寛容を誘導する治療法。 - インターフェロン療法(インタードッグ)
T細胞バランスの修正を目的とする補助療法です。
まとめ
犬アトピー性皮膚炎は、若い年齢(おおむね3歳以下)で発症することが多く、
生涯にわたる管理が必要な慢性疾患です。
かゆみは犬にとって大きなストレスとなるため、
症状に気づいたらできるだけ早めに動物病院を受診しましょう。
また、場合によっては皮膚科専門医への相談も有効な選択肢となります。