この記事では、犬のグルカゴノーマについて原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、グルカゴノーマについて誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
グルカゴノーマとは
グルカゴノーマは、膵臓α細胞の機能的な腫瘍で、高血糖などのグルカゴン過剰分泌に関連した症状がみられる病気です。
膵臓の内部に、ランゲルハンス島という内分泌を行う細胞があります。ランゲルハンス島の細胞はいくつかに分類され、それぞれからホルモンが分泌されます。
- α細胞:グルカゴン
- β細胞:インスリン
- δ細胞:ソマトスタチン
グルカゴンの作用には、糖質以外の物質(ピルビン酸、乳酸、糖原性アミノ酸など)からグルコースを産生する働き(同化作用)と、脂質やタンパク質などの大きな分子を分解する働き(異化作用)があります。
グルカゴノーマは、ランゲルハンス島のα細胞の腫瘍です。グルカゴンの過剰分泌によって、強いインスリン抵抗性が起こります。そのため、水をたくさん飲んでたくさんおしっこをする(多飲多尿)などの糖尿病の症状がみられます。
また、グルカゴンはアミノ酸がアンモニアと炭水化物に分解されるのを促進します。そのため、グルカゴノーマの犬では低アミノ酸血症・高アンモニア血症になる傾向があります。
低アミノ酸血症・高アンモニア血症などの代謝異常によって、肝障害、皮膚炎、粘膜障害などの症状がみられます。
グルカゴノーマは、犬でまれに発生する腫瘍で、中齢〜高齢犬で発生します。好発犬種や、雄雌での発生率の差は、報告されていません。
グルカゴノーマの症状
グルカゴノーマでは、過剰に分泌されるグルカゴンの作用と関連している症状がみられます。
高血糖や尿糖の排泄がみられ、水をたくさん飲んでたくさんおしっこをする(多飲多尿)などの糖尿病の症状がみられます。さらに、筋力の低下や体重減少などがみられます。
低アミノ酸血症・高アンモニア血症などの代謝異常によって、壊死性遊走性紅斑(NME)と呼ばれる、皮膚の圧力や摩擦が加わりやすい部位での皮膚病変(赤くなる、ただれるなど)がみられることがあります。
グルカゴノーマの診断
グルカゴノーマの診断は、血液検査と超音波検査やCT検査などの画像検査を行います。
血液検査では、高血糖、肝酵素上昇、高アンモニア血症、低アミノ酸血症がみられます。
グルカゴノーマでは、糖尿病と同じく高血糖がみられるので、インスリンでの治療を行います。しかし、糖尿病とグルカゴノーマでは以下の違いがみられます。
- 高用量のインスリン(1.5U/kg)によっても血糖値が下がらない
- 日によって血糖値に大きくばらつきがある
超音波検査では、肝臓にグルカゴノーマが転移した病変(転移病変)がみられることが多いです。しかし、膵臓内のグルカゴノーマ(原発病変)は、非常に小さい(直径数mm)ため、発見できないことも多いです。
そのためCT検査は、グルカゴノーマの原発病変や転移病変を発見するのに有用です。
グルカゴノーマの診断は、血中のグルカゴンが上昇していることを証明できれば確定診断となります。しかし、現在のところグルカゴンを測定している検査センターはありません。
そのため、仮診断の状況で治療を開始せざるを得ない状況が多いです。
グルカゴノーマの治療
グルカゴノーマの治療には外科手術と対症療法があります。犬では、有効な化学療法は確立されていません。
外科手術
超音波検査やCT検査で、グルカゴノーマの位置が特定できている場合には、外科手術での摘出が推奨されています。
対症療法
対象療法として、以下の治療を行います。
- 高血糖:インスリン治療
- 低アミノ酸血症:アミノ酸輸液
- 過剰なグルカゴン分泌:ソマトスタチン誘導体であるオクトヌクレオチドの使用
ソマトスタチンは、成長ホルモン、グルカゴン、インスリンの分泌を低下させる働きがあるホルモンです。オクトヌクレオチドはソマトスタチンより、この働きが強いです。そのため、オクトヌクレオチドは、グルカゴンの分泌を抑制します。
予後
グルカゴノーマは、診断された時にはすでに病気が進行した状態であることがほとんどです。そのため、予後不良の病気です。
まとめ
犬のグルカゴノーマについて解説しました。犬ではまれな病気だとされていますが、糖尿病で治療していても、血糖値が高用量のインスリン(1.5U/kg)によっても下降しないか、日によって大きく不安定などの場合には注意が必要です。