犬の椎間板ヘルニアを丁寧に解説

もし愛犬の首や背中の痛み、そして前肢や後肢の歩行の異常といった症状が見られたら、それは椎間板ヘルニアかもしれません。この病気はダックスフンドコッカースパニエル、ビーグル、ペキニーズなどの軟骨異栄養犬種と呼ばれる犬では、特に発症の危険性が高い病気です。

脊髄疾患のもっとも代表的な病気である、犬の椎間板ヘルニアについて解説していきます。

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椎間板ヘルニアとは

椎間板は隣り合う脊椎の間に存在しています。そして、線維輪と呼ばれる弾力のある線維が同心円を描いており、その中心部に髄核と呼ばれる物質が存在しています。脊椎の動きにより椎間板に力が加わり、椎間板の線維が変形したり髄核が飛び出すことにより脊椎内にある脊髄を障害する病気が、椎間板ヘルニアという病気です。

そして線維輪が断裂し髄核が飛び出し脊髄神経を圧迫するタイプをハンセン1型椎間板の線維が変形して脊髄神経を圧迫するタイプをハンセン2型と呼びます。

椎間板ヘルニアは、犬の脊髄疾患のもっとも代表的な病気です。

椎間板ヘルニアの発症原因は、ハンセン1型ではダックスフンドに代表される犬種の問題であり、ハンセン2型は加齢性変化です。

椎間板とは

脊椎」とは背骨のことで椎骨と呼ばれる骨がずっとつながって連結したもので、「椎間板」は椎骨と椎骨の間のクッションです。

椎骨ひとつひとつにはリング状になっている部分がありこの部分を椎体と呼び、その中を脳からつながる太い神経である「脊髄」が通っています。

▲脊椎と椎間板の位置関係。脊椎の中に脊髄神経が通っており、神経が枝分かれしている。
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椎間板ヘルニアの症状

椎間板ヘルニアの症状は、発症部位と障害の程度により痛みだけのものから、歩行に異常を認めるものや障害を受けた脊髄よりも尾側の感覚や運動機能の消失、さらには排尿機能の喪失まで様々です。

椎間板ヘルニアの発生部位は、頸部で約27%であり、胸腰部で73%であったと報告されています。発生部位による症状の違いとして、頸部椎間板ヘルニアでは四肢の歩行異常がみられ、胸腰部椎間板ヘルニアでは両後肢の歩行異常がみられます。

また、ハンセン1型とハンセン2型で、好発犬種や症状そして経過に違いがあります。

ハンセン1型

ハンセン1型はダックスフンドを代表とする軟骨異栄養犬種が好発犬種とされ、その他にビーグル、コッカースパニエル、ペキニーズなどが挙げられます。軟骨異栄養犬種では、髄核の脱水や変性が1歳を超えたあたりから生じるため、極端に発症のリスクが高く、若齢でも見られる特徴があります。

髄核が飛び出すことが原因なので症状の発症は急性で、突然の痛みや不全麻痺や全麻痺を特徴とします。また、突出した椎間板物質が吸収されると自然治癒します。

不全麻痺とは部分的な麻痺のことで、ある程度動かすことが可能な状態のことで、全麻痺とは完全に運動能力を失った状態のことです。

ハンセン2型

ハンセン2型は椎間板の加齢性変化に伴い線維が変形して脊髄神経を圧迫することに起因するため、痛みを伴うこともある慢性進行性の不全麻痺を呈する。このタイプでは突出した椎間板が吸収されないので、自然治癒することはありません。

椎間板ヘルニアの診断

椎間板ヘルニアの診断には、脊髄造影レントゲン検査CT検査MRI検査が挙げられます。診断精度はMRI検査が最も高いとされていますが、大学病院や画像センター以外では撮影ができません。

▲MRI検査のイメージ

重症度分類

頸部椎間板ヘルニアにおいて3段階胸腰部椎間板ヘルニアにおいて5段階に重症度が分類されています。

頸部椎間板ヘルニア

グレードⅠ:頸部痛のみ
グレードⅡ:起立可能な不全麻痺
グレードⅢ:起立不可能で横臥状態

胸腰部椎間板ヘルニア

グレードⅠ:背部痛のみ
グレードⅡ:両後肢で起立歩行可能な不全麻痺
グレードⅢ:両後肢で起立歩行不能な不全麻痺
グレードⅣ:両後肢の完全麻痺
グレードⅤ:両後肢の深部痛覚消失

※不全麻痺とは部分的な麻痺のことで、ある程度動かすことが可能な状態。全麻痺とは完全に運動能力を失った状態のこと。

 椎間板ヘルニアの治療

椎間板ヘルニアに対する治療は外科的治療と内科的治療に大別されます。外科的治療は脊髄を圧迫する椎間物質の除去と脊髄の減圧を目的とします。これは原因の根本的な解決を目指す方法です。内科的治療はケージレスト(安静)投薬による治療、そして適切な看護理学療法(リハビリテーション)なども必要となります。

外科的治療を選択するか内科的治療を選択するかは、症状の重症度発症からの期間基礎疾患の有無経済的な問題などの要因が関連します。

ただし椎間板ヘルニアの治療でこれらは必ずしも分けて考える必要はなく、内科的治療は単独で行われることもあえば、外科的治療と併用して行われることもあります。

内科的治療と安静

ケージレスト(安静)とは、運動制限を行う治療のことです。犬では自発的に運動を制限することが困難なので、小さなゲージに動物を閉じ込めて安静にさせます。この治療の目的は、さらなる椎間板物質の脱出を防ぐことや、炎症が治るのを待つことです。この場合のケージの目安として、犬の体格の1.5倍サイズのケージが推奨されています。そしてその期間として、最低でも4週間程度は必要であると考えられています。

投薬による治療としては、グルココルチコイド(ステロイド)消炎鎮痛剤が用いられています。

適切な看護として、特に頸部椎間板ヘルニアでは、寝たきりになってしまうことがあります。その場合には褥瘡(床ずれ)に気をつけなければなりません。この対策として、1〜4時間毎の体位変換や低反発マットやタオルや毛布そしてウォーターベッドなどの使用が役に立ちます。さらに起立歩行困難な場合には、排便や排尿の介助も必要となってきます。

理学療法(リハビリテーション)は、筋肉の萎縮を防いだり関節の可動域を保持することが目的となります。マッサージや屈伸などを、犬が過度に嫌がらない程度に行います。

これらの治療で症状が消失しないあるいは悪化が見られる場合には、外科的治療が必要となります。

外科的治療

頸部椎間板ヘルニアではグレードⅡ以上胸腰部椎間板ヘルニアではグレードⅢ以上で、外科的治療が推奨されます。

頸部椎間板ヘルニアではベントラルスロット術(腹側椎間板除去術)が、胸腰部椎間板ヘルニアでは片側椎弓切除術が行われます。

費用は高額で、20~50万程度必要となります。

予後

外科的治療を行う場合、症状の重症度発症からの時間経過により改善率が異なると言われています。つまりグレードが高いほど改善率が悪く、発症から手術までの時間経過が長いほど改善率が悪いとされています。

胸腰部椎間板ヘルニアではグレードⅠ〜Ⅳの犬では概ね良好であり、グレードⅤの犬では外科的治療への反応は約50%であると報告されています。

なお起立歩行が可能となるまでは、数ヶ月を要する場合もあります。

まとめ

犬の椎間板ヘルニアについて解説しました。椎間板ヘルニアは、軟骨異栄養犬種と呼ばれるダックスフンド、コッカースパニエル、ビーグル、ペキニーズといった犬の飼い主は必ず知っておきたい病気です。

椎間板ヘルニアの手術は、症状の重症度と発症からの時間経過により改善率が異なります。もし椎間板ヘルニアを疑う症状が出たら、早めに動物病院を受診し治療を開始するようにしましょう。