犬の偽妊娠を丁寧に解説

この記事では、犬の偽妊娠について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で偽妊娠と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 妊娠していないのに乳腺の腫大や乳汁の分泌がみられる犬の飼い主
  • 犬の偽妊娠について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、偽妊娠について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

スポンサーリンク

偽妊娠とは

偽妊娠とは、妊娠していなくても妊娠した犬と同様の変化がみられることです。

犬の排卵後の黄体機能は、多くの哺乳類と異なります。つまり、犬では妊娠の有無に関わらず、①排卵後の黄体機能がホルモンを分泌し、②2ヶ月間維持されます。そのため、生理的偽妊娠と呼ばれる現象がみられます。

生理的偽妊娠のメカニズムは、以下のとおりです。

  • 妊娠していない犬でも、黄体からプロジェステロン(黄体ホルモン)が分泌される
  • 長期間のプロジェステロン(黄体ホルモン)の作用が、乳腺を腫大させる
  • 腫大した乳腺からは、乳汁がみられる

なお、ヒトでも妊娠していないにもかかわらず、妊娠における様々な変化がみられる、想像妊娠という現象があります。似たような言葉ですが、メカニズムは犬の偽妊娠とは異なります。

原因

偽妊娠に関連する変化は、プロラクチンという物質が原因であることが知られています。プロラクチンは、妊娠期の後半(排卵後約30日)以降に、下垂体前葉から分泌されます。

プロラクチンは、妊娠していない犬ではわずかに上昇する程度です。しかし、偽妊娠の犬では妊娠した犬と同程度に、血液中のプロラクチンが上昇しています。そして、プロラクチンの作用により、乳汁分泌をはじめとする偽妊娠の変化がみられます。

偽妊娠の場合には、何故プロラクチンが妊娠した犬と同程度分泌されるかは、解明されていません。しかし、偽妊娠の意義について、次のような説があります。

犬がその昔、群れを作って生活していた時代に、他の雌犬から生まれた子犬を群れの中で世話ができるようにするための、生理現象だったのではないかという説

この説に基けば、偽妊娠は先祖返り現象なのかもしれません。

スポンサーリンク

偽妊娠の症状

偽妊娠は、妊娠した犬と同様の変化がみられるのが典型的な症状です。具体的には、排卵後約30日頃から、以下の変化がみられます。

  • 乳腺の腫大
  • 乳汁の分泌
  • 営巣行動(巣作り)
  • おもちゃを子犬のように可愛がる
  • 神経質ないし攻撃的になる
  • 食欲不振

偽妊娠で分泌される乳汁の量と色は、以下のとおりです。

  • 乳汁の量
    乳房を絞ると出る場合から、何もしなくても滴り落ちる場合もある
  • 乳汁の色
    多くの場合、白色ではなく淡黄色の液体が分泌される

偽妊娠が一度みられた犬は、発情ごとに偽妊娠が反復することが知られています。

偽妊娠の診断

偽妊娠の診断は、問診や触診で行います。

問診や触診では、偽妊娠の症状や時期が一致しているか確認します。

そして超音波検査で、本当に妊娠している可能性がないか、念の為確認します。

偽妊娠の治療

偽妊娠の治療は、経過観察を行います。偽妊娠は生理的な現象なので、時間の経過とともにその変化は自然になくなります。

犬が、自分で乳房を舐めてしまう場合があり、それが乳房への刺激となります。そうすると、プロラクチンの分泌が持続してしまい、乳汁の分泌が持続することがあります。その場合には、エリザベスカラーを装着することで、舐めることを防ぐ必要があります。

偽妊娠は、発情ごとに繰り返します。今後、子供を産ませる予定がなければ、避妊手術を行うのもひとつの方法です。

予後

偽妊娠は通常、発症から2~3週間程度で自然に治ることが多いです。しかし時として、次の発情周期まで持続することがあります。

まとめ

犬の偽妊娠について解説しました。偽妊娠が一度みられた犬は、発情ごとに偽妊娠が反復することが知られています。

今後特に子供を産ませる理由がないのであれば、避妊手術を行うことを考慮してもよいでしょう。