犬の敗血症について獣医師がわかりやすく解説

「急にぐったりして、呼吸が速い」「体が熱い、または冷たく感じる」――
そんな異変が見られたとき、単なる風邪や体調不良と見過ごすと、実は命に関わる「敗血症」が隠れているかもしれません。

敗血症は、人医療でも「世界で数秒に1人が命を落としている病気」とされている重篤な病気で、動物においても同様に高リスクな状態です。

本記事では、犬の敗血症について、原因・症状・診断法・治療法・予後までを、獣医師の視点で丁寧に解説します。

対象読者

  • 「感染症が悪化している」「重度の細菌感染の疑いがある」と診断された犬の飼い主
  • 発熱や元気消失、ぐったりしているなどの症状が続き、不安を感じている飼い主
  • 敗血症について学びたい動物看護師や獣医学生
目次

犬の敗血症とは

「敗血症」とは、感染症によって全身の炎症が広がり、重篤な臓器障害を引き起こす状態を指します。

類似の用語である「菌血症」は、細菌が血中に存在する状態を指し、たとえば傷口や膀胱、口腔内などから細菌が血液中に侵入することで起こります。
これに対し、「敗血症」は全身性炎症反応症候群(SIRS)を伴う感染症として定義され、すでに臓器に影響を及ぼす可能性のある、より重篤な状態です。

SIRS(全身性炎症反応症候群)は、感染症以外でも、膵炎・外傷・火傷などによって引き起こされることがあり、多臓器不全の前段階として非常に重要な病態です。

💡 敗血症は、SIRSのうち「感染」が原因の場合に該当します。

原因

敗血症の主な原因は、細菌による重度の感染で、その多くがグラム陰性菌(例:大腸菌)のエンドトキシンによるものです。その他、真菌・ウイルス・寄生虫が原因となることもありますが頻度は低めです。

また、子宮蓄膿症・消化管穿孔・カテーテル感染・皮膚膿瘍などが感染源となることが多く、特に消化器系が原因となる割合が50%以上と報告されています。

敗血症の症状

敗血症の初期段階では、SIRSの兆候がみられます。

SIRS診断基準(以下のうち2つ以上)

  • 体温:37.8℃未満 または 39.7℃以上
  • 心拍数:160回/分以上
  • 呼吸数:40回/分以上 または PaCO₂ 32torr以下
  • 白血球数:18,000/μL以上 または 4,000/μL未満、桿状核好中球10%以上

その他にみられる可能性のある症状:

  • 元気消失・沈うつ
  • 嘔吐・下痢
  • 末梢循環不全(四肢が冷たい)
  • 低血糖、CRP(炎症マーカー)の上昇
  • 凝固異常(DICの併発)

🩸 十分な輸液を行っても血圧が回復しない状態は「敗血症性ショック」と呼ばれ、生命の危機を意味します。

敗血症の診断

敗血症の診断は、まずSIRSの診断が出発点となります。そのうえで、感染症が原因であるかどうかを調べる必要があります。

感染源の確認ポイント:

  • 外傷部位の化膿
  • 子宮蓄膿症(未避妊雌)
  • 腹腔内疾患(超音波検査やX線検査)
  • 点滴やカテーテルの留置部位

💡 感染源が不明な場合でも、消化器疾患が原因のことが多い(50%以上)ため、特に腹部の検査が重要です。

敗血症の治療

治療の最優先は、早期の抗菌薬投与です。可能であれば、感受性試験(抗生物質の効き具合)に基づいて使用薬を選びます。

その他の治療方針:

  • 補液(点滴)による循環維持
  • 凝固異常(DIC)に対する治療
  • 原因病巣の外科的除去(例:膿瘍・子宮摘出など)

⚠️ 適切な治療開始が遅れると、敗血症性ショックから多臓器不全を引き起こし、救命が難しくなります。

予後

敗血症は、非常に致死率が高い疾患ですが、早期に診断・治療を行うことで回復の可能性もあります。ただし、重度になるとDICや腎不全・ショック状態などを併発し、多臓器不全による死亡リスクが高まります

まとめ

犬の敗血症は、「感染症が全身に広がり、重篤な臓器障害を起こす病気」です。

多くは細菌が原因であり、早期の診断・治療が生存率を大きく左右します。

体温・心拍・呼吸数の変化、ぐったりして元気がない、などのサインはSIRSの兆候かもしれません
感染源がはっきりしなくても、消化器系・子宮・外傷などのチェックが必要です。

「ただの体調不良かな?」と見逃さず、早めの受診が命を守る一歩となります。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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