犬の白血球の異常(白血球増多症・白血球減少症)を獣医師がわかりやすく解説

動物病院で血液検査を受けた際、その結果を正しく理解できるように、この記事では「犬の白血球異常」についてわかりやすく丁寧に解説します。愛犬の検査結果を手元に置きながら、ぜひお読みください。

※ご注意
・正常値は、使用している機械や検査会社によって異なります。必ず、血液検査表に記載された基準値を参照してください。
・基準値から外れた結果が出た場合でも、必ずしも病気であるとは限りません。最終的な判断は、担当獣医師とよく相談しましょう。

目次

白血球とは

白血球は、体内に侵入した細菌やウイルスなどを排除し、免疫機構を通じて生体を守る重要な役割を担っています。血液中にはいくつかの種類の白血球が存在し、「好中球・好酸球・好塩基球(これらをまとめて顆粒球と呼びます)」「リンパ球」「単球」に分類され、すべて骨髄由来の造血幹細胞から作られます。

しかし、これら5種類が均等に存在しているわけではなく、好中球とリンパ球が白血球全体の約90%を占めているのが特徴です。そのため、これら2種類の数が変動すると、白血球の総数にも大きな影響を与えることになります。

白血球の主な働きは、細菌やウイルス、腫瘍細胞などの異物を排除することです。感染症や炎症、アレルギー反応などに応じて白血球は反応的に増加し、これを白血球増多症と呼びます。逆に白血球の数が減少した場合は、白血球減少症と呼ばれます。

また、白血球と並んで炎症の有無を調べる検査項目にCRP(C反応性タンパク)があります。両者には以下のような違いがあります。

  • 白血球数の上昇は早く、数時間以内に起こるのに対し、
    CRPの上昇は炎症発生から6〜12時間後に始まるという時間的な違いがあります。
  • また、白血球は興奮やストレスといった炎症以外の要因でも増加するのに対し、
    CRPは原則として炎症によってのみ上昇するため、より特異的に炎症の有無を示す指標となります。
検査会社基準値
富士フィルムモノリス6,000〜17,000/μl
アイデックス5,050〜16,760/μl
▲各検査会社における白血球数の基準値

白血球増多症の原因

総白血球数が基準値を超えて増加している場合、原因として大きく2つが考えられます。
ひとつは感染症や炎症、アレルギー反応に伴う反応性の増加、もうひとつは造血器系腫瘍(血液のがん)による腫瘍性の増殖です。造血器系腫瘍には、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫などが含まれます。

白血球には好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球の5種類があり、これらの割合(分画)を調べる検査を白血球分類と呼びます。白血球数に異常が認められた場合、白血球分類を行うことで、感染症や炎症、腫瘍性疾患などの可能性をより詳細に絞り込むことができます。

白血球分類は、血液検査の機械による自動測定だけでなく、血液塗抹標本を顕微鏡で観察して目視で確認する方法もあります。特に異常が疑われる場合には、顕微鏡による精密な分類が重要になります。

好中球の増加

好中球は、生体内に侵入した細菌などを攻撃する最前線の細胞です。感染によって生じた炎症部位へ遊走して集まり、異物を取り込み殺菌する働きを担います。役割を終えた好中球は死滅し、その死骸が膿(うみ)として体外に排出されます。

通常、成熟した好中球は分葉核好中球と呼ばれますが、強い免疫刺激が加わると、未成熟な桿状核好中球が血中に増加することがあります。これを左方移動と呼び、特に急性炎症の存在を示唆します。桿状核好中球が多い場合は、「緊急で好中球が大量に必要とされている」というサインです。

好中球増加の原因
興奮
ストレス/ステロイド
細菌性の炎症(子宮蓄膿症など)
免疫介在性の炎症
貧血への反応
腫瘍随伴症候群として(肺腫瘍、膀胱腫瘍などに伴う)

※腫瘍随伴症候群:腫瘍によって引き起こされる症状の一つ

好酸球の増加

好酸球は、特にアレルギー反応寄生虫感染に関与する白血球です。好中球ほど強力な異物除去能力はありませんが、1型アレルギー(即時型アレルギー)に関与して強く反応します。

好酸球増加の原因
アレルギー性炎症(特に1型アレルギー)
寄生虫感染

好塩基球の増加

好塩基球は、比較的数が少ない白血球ですが、アレルギー反応慢性的な炎症に深く関わっています。ヒスタミンなどのメディエーターを放出して炎症を促進する働きがあります。

また、慢性の高脂血症の際に増加することが知られています。

好塩基球増加の原因
アレルギー性炎症
慢性の高脂血症

単球の増加

単球は、細菌や異物を取り込み殺菌する機能に加え、抗原提示やサイトカインの産生など、免疫応答の調整にも重要な役割を果たします。

単球増加の原因
慢性炎症
壊死の存在

リンパ球の増加

リンパ球は、T細胞・B細胞・ナチュラルキラー細胞(NK細胞)に分類され、それぞれが異なる免疫機能を担っています。T細胞は細胞性免疫の司令塔、B細胞は抗体産生、NK細胞は腫瘍細胞やウイルス感染細胞の除去を担います。

感染症や免疫反応により一時的にリンパ球が増加することがありますが、持続的または著明な増加がみられる場合は、造血器系腫瘍(白血病や進行したリンパ腫)の可能性も考慮しなければなりません。

リンパ球増加の原因
免疫応答(感染症やアレルギーなど)
腫瘍性増殖(白血病やリンパ腫のステージⅤなど)

白血球減少症の原因

白血球が基準値を下回る状態を白血球減少症と呼びます。特に好中球減少が多くみられ、重度の場合は免疫力が低下して感染症のリスクが大幅に高まるため注意が必要です。

白血球が減少する原因は、大きく分けて以下の2つのパターンがあります:

  1. 白血球の過剰な消費・破壊
  2. 骨髄での産生能力の低下(骨髄機能不全)

白血球の破壊・消費が増えている場合

これは、白血球の産生が正常であっても、それを上回る速度で消費・破壊が進んでいるために血中濃度が低下するケースです。
とくに重篤な感染症の末期(敗血症など)では、好中球を中心とした白血球が大量に消費されるため、急激な減少が起こることがあります。

骨髄機能の異常による白血球産生の低下

骨髄は白血球をはじめとしたすべての血球を作る「工場」です。ここに異常が生じると、白血球が十分に作られなくなります。
特に白血球減少に加えて貧血(赤血球減少)や血小板減少も同時に認められる場合は、骨髄自体に異常がある可能性が強く示唆されます。

白血球減少が見られた場合の注意点

白血球減少は、感染に対する防御力の低下を意味します。したがって、軽微な細菌感染でも重症化しやすくなるため、発熱や倦怠感などがある場合には早期の診察が重要です。
また、白血球の減少が続く、または重度の場合には、骨髄検査(骨髄穿刺)を実施して原因を詳しく調べることがあります。

白血球減少症の原因
激しい白血球の破壊
 敗血症など感染症の末期
骨髄の問題
 骨髄の破壊(癌の骨髄転移や放射線など)
 感染症(犬ジステンパーなどのウイルス感染、リケッチア感染)
 抗がん剤の副作用
 骨髄異形成症候群

まとめ

この記事では、犬の白血球異常(白血球増多症・白血球減少症)について詳しく解説しました。

白血球は、感染症や炎症に対する生体防御に欠かせない重要な細胞群です。
血液検査で白血球数が基準値を外れていた場合でも、必ずしも重篤な病気が隠れているとは限りません。しかし、場合によっては感染症、免疫異常、腫瘍、骨髄疾患など、重要な病気の兆候であることもあります。

白血球が増加している場合には、感染症や腫瘍を疑って追加検査(レントゲン検査、超音波検査、尿検査など)が行われることが一般的です。一方で、白血球が減少している場合には、感染症リスクが高まるため早期対応が求められ、必要に応じて骨髄検査が推奨されることもあります。

検査結果を見て不安を感じたときには、自己判断せず、必ず担当の獣医師に相談して、必要な追加検査や治療方針について詳しく説明を受けるようにしましょう。
血液検査は、愛犬の健康管理において非常に重要なヒントを与えてくれるツールです。上手に活用して、愛犬の健康を守っていきましょう。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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