犬の胃拡張捻転症候群を丁寧に解説

この記事では、犬の胃拡張捻転症候群について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で胃拡張捻転症候群と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 胸の深い大型犬や超大型犬の飼い主
  • 犬の胃拡張捻転症候群について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、胃拡張捻転症候群について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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胃拡張捻転症候群とは

胃拡張捻転症候群とは、胃が大きく拡張することや捻転することによって生じる病気です。

胃の働きとは

胃は消化器を構成する器官で、食べたものを胃液で消化する働きがあります。

胃拡張捻転症候群は、「胃拡張のみ」の場合と「胃捻転を伴った胃拡張」の場合があります。胃の拡張が起こった後に、胃捻転が続発する考えられています。しかし胃の捻転は、拡張を伴わずに起こることもあります。

胃捻転を伴った拡張の方が胃拡張のみに比べ、発生率が圧倒的に多いとされています。

胃拡張捻転症候群は、致死率の高い病気です。

原因

原因は解明されていません。しかし、以下の要因が原因となるのではないかと推測されています。

  • 水や食物を摂取した後の胃の活発な運動
  • 幽門からの胃内容物の流出障害
  • 大量の空気嚥下
胃の構造

胃は入り口から噴門、胃底部、胃体部、幽門とよばれる部位で構成されています。噴門は食道への食物の逆流を防ぎ、幽門は十二指腸への食物の通過を調節しています。

胃拡張捻転症候群は、以下の要因があると発症しやすいと考えられています。

  • 1日1回の多量な食事
  • 食物の早食い
  • 水や食物を摂取した直後の激しい運動
  • 加齢ストレス
  • 臆病な性格
  • 荒い気性
  • 体重過小

この病気は、胸の深い大型犬や超大型犬などに多くみられる傾向があります。例として、以下の犬種が挙げられます。

グレート・デーン、ワイマラナー、セント・バーナード、ジャーマン・シェパードドッグ、アイリッシュ・セター、ドーベルマン・ピンシャー

しかし、小型犬でも発症することがあります。

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胃拡張捻転症候群の症状

胃拡張捻転症候群は、犬の急性嘔吐の原因のひとつです。急にぐったりとする、お腹周りが膨らむ、腹痛、ヨダレを垂らす、吐き気、内容物の出ない嘔吐が典型的な症状です。

胃の拡張によって、門脈や後大静脈が圧迫されます。そのため、腹部臓器に血液が鬱滞し、著しく脾臓が腫大します。

循環する血液量の低下によって、全身に必要な血液量が不足します。その他に、以下の症状が見られます。このような低酸素状態は、心臓に対する影響が大きく、致死性の不整脈がみられることもあります。

  • 弱い脈
  • 頻脈
  • 粘膜蒼白
  • 毛細血管再充満時間(CRT)の延長
  • 呼吸困難

胃捻転は、犬を仰向けの状態で尻尾側からみた場合、時計回り(右回り)の方向に噴門から幽門の長軸に沿って90°〜360°で回転していることが多いです。そして、反時計回りの胃捻転は非常にまれです。

胃拡張捻転症候群の診断

症状から胃拡張捻転症候群を疑った場合は、血液検査レントゲン検査を行います。

血液検査では、低血糖低カリウム、そして代謝性アシドーシスがみられます。レントゲン検査では、胃内のガスの充満がみられます。

この病気では不整脈がよくみられるので、心電図検査も行います。

胃拡張捻転症候群の治療

胃拡張捻転症候群の治療は、対症療法と外科手術を行います。

対症療法とは

症状を軽減するための治療

対症療法として、以下の治療を行います。

  • 循環血液量減少によるショック:輸液療法
  • エンドトキシン(菌の産生した毒素)血症:抗菌薬の投与
  • 緊急的な胃の減圧処置:胃チューブ挿入や胃穿刺

外科手術として、以下の処置を行います。

  • 手術で胃の位置を正常に戻す
  • 壊死した胃や脾臓の切除
  • 再発防止のための胃固定術

予後

胃拡張捻転症候群では、外科手術後3日間生存しかつ再発がない場合は、予後は良好です。

まとめ

犬の胃拡張捻転症候群について解説しました。典型的には、胸の深い大型犬や超大型犬などに多くみられる、高い致死率の緊急性の高い病気です。

すぐに胃の減圧処置と手術が必要になりますので、この病気を疑ったら動物病院を受診するようにしましょう。