この記事では、犬のメラノーマ(黒色腫)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、メラノーマ(黒色腫)について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
メラノーマとは
メラノーマ(黒色腫)は、色素細胞(メラノサイト)が腫瘍性増殖したものです。
メラノーマは発生部位により、以下の3つに分類されます。それぞれで、悪性度が異なります。
- 皮膚メラノーマ
- 口腔内メラノーマ
- 爪床メラノーマ
皮膚メラノーマ
皮膚メラノーマは皮膚でみられ、皮膚(表皮基底層)の色素細胞が腫瘍性増殖をしたものです。
皮膚メラノーマは、犬の皮膚腫瘍の5~7%を占めます。通常、単発でみられますが、多発する場合もあります。比較的高齢の犬(平均発症年齢9才)での発症が多いです。
口腔内メラノーマ
口腔内メラノーマは口腔内でみられ、歯肉の色素細胞が腫瘍性増殖をしたものです。
口腔内メラノーマは、犬の口腔内の悪性腫瘍の中では最も発生率が高いです。
爪床メラノーマ
爪床メラノーマは爪でみられ、爪床の色素細胞が腫瘍性増殖をしたものです。
原因
ヒトでは皮膚メラノーマの原因として、紫外線の関与が考えられています。
犬の皮膚メラノーマは、有毛部皮膚での発生が多いです。そのため、紫外線の関与は低いと考えられています。
メラノーマの症状
皮膚メラノーマの症状は、皮膚のできものです。メラノーマは腫瘍細胞がメラニン顆粒を含むため、黒色もしくは褐色のできものとしてみられます。しかし、皮膚と同じ色のメラニン顆粒を含まないメラノーマも存在します。
口腔内メラノーマの症状は、口腔内のできものです。さらに、ヨダレや口臭、出血などの症状がみられます。
メラノーマは、高率に転移を起こします。そのため、転移する場所によってさまざまな症状がみられます。転移する場所と症状の例は、以下のとおりです。
- 肺転移:咳や努力性呼吸
- 脳転移:性格の変化や発作などの神経症状
メラノーマの診断
メラノーマの診断は、外科手術を行いできものを切除し病理組織学的検査を行い、確定診断を行います。さらに、病理組織学的検査で良性か悪性かの判断も併せて行います。
皮膚メラノーマを疑った際には、口腔内メラノーマの転移の可能性もあるので、口腔内の確認も必要です。
口腔内にできものができた場合、以下の病気の可能性が考えられます。
メラノーマは、リンパ管や血液を介して転移します。転移する場所として、局所リンパ節、肺、副腎、肝臓、脳が報告されています。悪性のメラノーマの転移率は、30~75%とされています。
直径が2cm以上の口腔内メラノーマでは、診断された時点で多くの場合、既に肺へ転移していることが報告されています。そのため、画像検査で転移が確認できなかった場合でも、注意が必要です。
外科手術を行う前には転移の可能性を考慮し、血液検査やレントゲン検査や超音波検査による画像診断を行います。
メラノーマの治療
メラノーマの治療は、外科手術を行います。
良性のメラノーマの場合、外科手術で完全に切除できれば治癒します。
悪性のマラノーマの場合、手術前の検査でリンパ節転移や遠隔転移が無いことを確認します。転移がなければ、十分な広さの切除範囲を確保して、手術を行います。
爪床メラノーマの場合の外科手術は、断指術や断脚術となることがあります。
切除不可能な大きさの場合など外科手術に代わる方法として、放射線治療があります。
悪性のメラノーマでは、高率に転移を起こすことが知られているので、理論的には化学療法が必要です。しかし現在のところ、有効な化学療法は知られていません。
予後
メラノーマが良性か悪性かにより、予後が異なります。
- 良性のメラノーマの場合
外科手術で完全に切除されれば予後は良好 - 悪性のメラノーマの場合
高率に転移を起こすため、長期間の生存は期待できない
外科手術が成功した場合には、1年以上生存の可能性もある
まとめ
犬の悪性黒色種について解説しました。黒色や褐色の「できもの」を愛犬にみつけたら、すみやかに動物病院を受診するようにしましょう。
なお、今後の進歩が期待される治療法として免疫抑制療法があり、犬メラノーマに対する特異的免疫抑制療法としての DNAワクチンの効果が報告されています。