この記事では、犬の骨肉腫ついて原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、骨肉腫について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
骨肉腫とは
骨肉腫は、骨に発生する悪性腫瘍です。
骨に発生する腫瘍は、原発性骨腫瘍と転移性骨腫瘍に大別されます。
- 原発性骨腫瘍:骨自体から腫瘍が発生したもの
- 転移性骨腫瘍:他の臓器に発生した腫瘍が骨に転移したもの
骨肉腫は、原発性骨腫瘍に該当します。そして、犬や猫で最も発生率の高い原発性骨腫瘍です。犬では、原発性骨腫瘍の85%を占めると報告されています。
骨肉腫は悪性間葉系腫瘍で、腫瘍性骨芽細胞による骨の産生(類骨)がみられるのが特徴です。
骨は、軸骨格と付属骨格に大別されます。
- 軸骨格:体軸にある骨格(頭蓋骨、脊柱、肋骨および胸骨)
- 付属骨格:軸骨格に付属する骨
骨肉腫は、付属骨格での発生が75%を占めています。特に、以下の部位で発生率が高いです。
- 上腕骨近位
- 橈骨遠位
- 大腿骨遠位
- 脛骨近位
骨肉腫は、高い確率で肺への転移がみられます。外科手術で腫瘍を切除しても、最終的には90%以上が肺転移で死亡すると報告されています。
骨肉腫は、まれに骨以外の軟部組織に発生する場合もあります。これは、骨外性骨肉腫、骨膜性骨肉腫、傍骨性骨肉腫と呼ばれます。
発症年齢の中央値は、7~9歳と報告されています。しかし、1.5~2歳でも小さな発症のピークがあります。
好発犬種は、大型犬や超大型犬です。これは犬種というよりも、体重が関係しているためと考えられます。体重と骨肉腫の発生の危険性は、以下のように報告されています。
- 30kg以上の犬では10kgの犬より、60倍骨肉腫の発生率が高い
- 20~30kgの犬では10kgの犬より、8倍骨肉腫の発生率が高い
ヒトの骨肉腫
ヒトでは、骨肉腫は小児の骨に発生する悪性腫瘍の中で、最も頻度の高いものです。10歳代の思春期、すなわち中学生や高校生くらいの年齢で発症しやすい病気です。日本国内で骨肉腫になる人は、1年間に150人くらいと報告されています。
ヒトの骨肉腫と犬の骨肉腫には、共通点が多いと考えられています。
原因
原因は、明らかにはされていません。
仮説として、体重を負重している骨が受けた外からの力は、たとえ軽微なものであっても、分裂促進機転を誘発し、突然変異や腫瘍化への確率を促進させるのではないかと考えられています。
骨肉腫の発生は、以下の要因との関連性が示唆されています。
- 骨折
- 金属製の整形外科インプラント
- 慢性骨髄炎
- 骨梗塞
- 骨軟骨腫症
- イオン化放射線
骨肉腫の症状
骨肉腫は、発生部位(付属骨格or軸骨格)によって症状が異なります。
付属骨格の場合
上腕骨や大腿骨などの付属骨格の骨肉腫の場合には、歩行の異常がみられます。症状は、軽度の異常から体重がかけれないほどの重度のものまでさまざまですが、この歩行異常は徐々に進行していきます。
症状が進行した場合、最終的に骨折を起こしてしまいます。この場合、急激に症状が悪化し、痛みがみられます。
触診で骨の異常が触れる場合もあれば、触れない場合もあります。
軸骨格の場合
発生部位に応じた症状がみられます。以下、発生部位と症状の例を示します。
- 顎の骨の骨肉腫:嚥下障害、開口時の疼痛、鼻腔からの分泌物排出
- 椎骨の骨肉腫:神経症状
- 肋骨の骨肉腫:呼吸困難
腫瘍発生部位で、骨の異常が触れる場合が多いです。また、痛みを伴う場合が多いですが、痛みを伴わない場合もあります。
腫瘍の発生部位によっては、視診や触診で分からない場合もあります。
骨腫瘍の原因となるものとして、以下の腫瘍があります。
骨肉腫の診断
診断は、レントゲン検査と骨生検を行います。
レントゲン検査
骨肉腫の診断では、レントゲン検査が有用です。
骨肉腫のレントゲン検査では、骨吸収と骨膜反応がみられるのが特徴的です。ただし、この所見だけでは、他の骨腫瘍や骨髄炎の可能性は否定できません。
また、骨肉腫の特徴として、関節をまたいで腫瘍が存在することはほとんどないとされています。つまり、関節をまたぐ骨の変化がある場合には、骨肉腫の可能性は低くなります。
骨肉腫の診断時の肺のレントゲン検査で、骨肉腫の肺への転移がみらるのは10~15%であると報告されています。しかし、外科手術実施後に95%で、その後肺に転移しています。つまり、骨肉腫の診断時の肺のレントゲンでは、転移所見はみえないものの、微小な転移が既に存在していることを示唆しています。
骨肉腫では、リンパ節転移を起こす割合は、5%以下だと報告されています。
骨生検で病理組織学的検査を行い、骨肉腫の特徴的な所見である類骨形成がみられると確定診断となります。診断精度は、90%と報告されています。
生検の部位と複数箇所から採材することが、診断精度を上げるために重要となります。
採材部位として、腫瘍の辺縁部では反応性の骨増生のみが確認されるので、腫瘍の中心部から検体を採取する必要があります。
生検時に、複数箇所から採材することで、骨折を起こす場合があるので注意が必要です。
骨肉腫の治療
治療は、骨肉腫に対する外科手術と化学療法と痛みに対する対症療法です。
外科手術
骨肉腫は、外科手術による切除が基本です。そして、外科手術後に化学療法を行うことが推奨されています。
外科手術では、上腕骨や大腿骨などの付属骨格に発生した骨肉腫では、断脚術を行います。
しかし、断脚術のみを実施しても、生存期間の延長は全く期待できないのです。外科手術の目的は、痛みの緩和が目的となります。
化学療法
骨肉腫は、95%が後に肺への転移がみつかります。そのため、外科手術後に化学療法が必要となります。
化学療法剤として最もよく用いられるのが、白金製剤(カルボプラチン)です。
痛みに対する対症療法
骨肉腫の痛みに対する対症療法として、以下の方法が用いられます。
- 鎮痛剤
- ビスホスホネート
- 放射線治療
なお、放射線治療での痛みの緩和効果は、3ヶ月前後と報告されています。
予後
骨肉腫の犬のほとんどは、最終的に原発腫瘍あるいは転移病巣およびその両方が原因で死亡します。
骨肉腫の生存期間に関して、以下の報告があります。
- 外科手術(断脚術)のみの治療:生存期間中央値は4~5ヶ月
- 外科手術+化学療法:1年生存率約50%、生存期間中央値10ヶ月
- 転移病巣が確認された後の生存期間:1~2ヶ月未満
血液検査での血清アルカリフォスファターゼ(ALP)が、予後の指標となります。具体的には、以下の通りです。
- 外科手術前にアルカリフォスファターゼ(ALP)の高値がみられる場合:予後が悪い
- 外科手術後にもアルカリフォスファターゼ(ALP)の高値がみられる場合:さらに予後が悪い
まとめ
犬の骨肉腫について解説しました。この病気の際に断脚の選択を行うのは、勇気が必要かもしれません。上腕骨や大腿骨などの付属骨格に発生した骨肉腫の場合に、足が痛くて歩けなかった犬が、断脚手術後には3本の足でスタスタ歩き回ることが可能になる事を良く経験します。
一般的に犬は3本足でもほとんど日常生活には支障が無いとされる為、治療の方針について担当の獣医さんと良く相談されると良いでしょう。