動物病院で血液検査を行った際に、その結果を理解するための手助けとなるように記事を作成しました。愛犬の血液検査の結果を片手にご覧ください。
ただし、以下の点にご注意ください。
- 正常値は、機械や検査会社ごとによって異なりますので、血液検査に記載されているデータを参照してください。
- 検査結果が基準値(正常値)を外れている場合でも、病気とは限らないので、担当の獣医さんに良く話を聞くようにしましょう。
白血球とは
白血球は、生体の防御に関わる免疫を担当する役割を持ちます。
白血球にはリンパ球、顆粒球、単球があります。そして顆粒球には、好中球、好酸球、好塩基球の3種類があります。したがって、白血球は好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球の5つに分類されます。また、全ての白血球は骨髄の中に存在する造血幹細胞から産生されます。
しかし、これらの5種類の白血球は均等に存在するのではなく、好中球とリンパ球が白血球の大半(およそ9割)を占めています。そのため、好中球やリンパ球の数に増減が生じると、白血球総数に大きな影響を生じることになります。
白血球の一般的な役割は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物の排除と、腫瘍細胞や役目を終えた細胞の排除などを行なっています。そのため白血球は、感染症や炎症、アレルギーなどによって反応性に増加します。
総白血球が基準より増加している場合を白血球増多症、基準より減少している場合を白血球減少症と言います。
白血球数と同じく炎症の有無を調べる検査としてCRPがあります。両者の違いとして、①白血球数の上昇は数時間以内に起こり、CRPの増加は6~12時間後から始まること、②白血球数は炎症以外の要因で上昇するのに対し、CRPは炎症以外で上昇しないことがあります。
検査会社 | 基準値 |
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富士フィルムモノリス | 6,000〜17,000/μl |
アイデックス | 5,050〜16,760/μl |
白血球増多症の原因
総白血球多加の原因として、感染症や炎症、アレルギーなどによって反応性に増加している場合と、造血器系腫瘍などで腫瘍性に増殖している場合があります。造血器系腫瘍とは一般に血液癌とも呼ばれ、リンパ腫、白血病および多発性骨髄腫などがあります。
5種類(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球)の白血球(分画)の割合を調べる検査を白血球分類といいます。白血球の数値異常では、白血球分類を行うことで感染症や炎症など疑われる病気が異なります。
白血球分類は、機械で自動的に算出される場合と、顕微鏡で血液の塗抹を見ることで算出する方法があります。
好中球の増加
好中球は、生体に細菌などが感染すると、感染による炎症部位に遊走して集まり、細菌などを飲み込んで殺菌します。細菌を飲み込んだ好中球はやがて死亡し、死体は膿になって体外に放出されます。
通常の成熟した好中球を「分葉核好中球」と呼びます。そして、免疫応答による好中球増加の初期の段階では、「桿状核好中球」と呼ばれる幼若な細胞が増加します。桿状核好中球の増加がある時は、「好中球を早急に動員しなければならず、最終成熟形態でない好中球も動員している」という状態です。つまり、桿状核好中球の増加は急性炎症を意味しています。
好酸球の増加
好酸球は、アレルギー反応の制御を行なう細胞であり、好中球のように細菌を体に飲み込む能力は弱いです。特に、1型アレルギーで増加します。
その他、寄生虫の感染で増加することが知られています。
好塩基球の増加
好塩基球は、様々な炎症性反応に関わっており、特にアレルギー反応を起こすのに重要な役割を果たしています。
また、慢性の高脂血症の際に増加することが知られています。
単球の増加
単球は、好中球と同様に細菌などを体に飲み込んで殺菌する働きの他に、抗原提示およびサイトカイン産生といった働きをします。
リンパ球の増加
リンパ球は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の3つに分類されます。
T細胞およびB細胞は、免疫応答の主役となる細胞です。T細胞は免疫応答を指示し、B細胞は抗体を生産します。抗体は、体内に侵入していきた細菌やウイルスなどの抗原と結合します。その抗原と抗体の複合体を、白血球やマクロファージといった食細胞が認識して、体内から除去するように働きます。このように、免疫応答は生体の感染防御機構において重要な役割を果たします。
また、造血器系腫瘍である白血病やリンパ腫により、リンパ球が腫瘍性に増殖することが知られています。
白血球減少症の原因
白血球減少は、好中球減少症または5種類全ての白血球の減少であることが多いです。
白血球減少の原因は白血球の消費が産生よりも多い「激しい白血球の消費」と、白血球が産生される骨髄に問題が起きている「骨髄の問題」に分類されます。特に、貧血や血小板減少症を伴っている場合は「骨髄の問題」が強く示唆されます。
そして、白血球が減少している状態では免疫機能が十分に働かないため、感染症を発症する危険性に注意しなければなりません。
まとめ
犬の白血球系の異常である、白血球増多症と白血球低下症について解説しました。
検査結果が正常値を外れている場合でも、必ずしも病気とは限りません。病気は、血液検査のみならず身体検査や他の検査も行って診断していきます。状況により、経過観察を行ったりさらに詳しい検査を行うことがあります。
白血球増多症の時には、まず感染症や腫瘍のチェックをします。追加検査としてレントゲン検査や超音波検査などの画像診断を行い、これらの有無を調べます。そこで異常が見られない場合には骨髄での異常を考え、骨髄の検査を行う場合もあります。
白血球減少症の場合も考え方は増加症の時と同様で、最終的には骨髄の検査を行うことがあります。
血液検査の結果で心配な事がある時には、動物病院で獣医さんに遠慮なく質問してみましょう。