この記事では、犬のキシリトール中毒について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、キシリトール中毒について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
キシリトール中毒とは
キシリトール中毒とは、食品や口腔ケア製品に含まれるキシリトールを摂取することで生じる有害作用です。
キシリトールとは
キシリトールは、カバノキから発見された物質で、天然の代用甘味料として知られています。ヒトでは、食品や口腔ケア製品の一般的に甘味料として使用されています。
キシリトールには、以下の性質があり重宝されています。
- 冷涼感があり後味の切れが早い
- スクロースと同程度の甘みを持つが、カロリーが4割低い
- 加熱による甘みの変化がないため、加工に適しているな
- 虫歯予防効果
キシリトールは、非う蝕性甘味料として知られており、その虫歯予防効果は、次のように説明されています。
- 口腔内の細菌による酸の産生がほとんどない
- ミュータンス菌の代謝を阻害する
犬のキシリトール中毒
犬の代謝は人と異なるため、キシリトールを摂取することで中毒を起こし、死亡する可能性があります。
ヒトでは次の理由で、キシリトールは糖尿病患者に使用されます。
- スクロースに比べカロリーが4割低い
- スクロースより吸収速度が遅いため、血糖値の急上昇やそれに対するインスリンの反応を引き起こさない
しかし、以下の理由で犬ではキシリトール摂取後に低血糖を起こすことが知られています。
- キシリトールがインスリン分泌を促進する
- キシリトールの摂取量のほとんどが急速に吸収される
なお、同様に猫でインスリン放出による低血糖が起こるかは不明です。
キシリトール中毒の症状
キシリトール中毒は急速に進行し、嘔吐、眠ったような状態になる(嗜眠)、運動が円滑にできない(運動失調)、ぐったりする、けいれん発作などの症状がみられます。
低血糖の症状は30分以内と早期にみられますが、症状が12時間経過後にみられた例も報告されています。
キシリトール中毒では、低血糖以外に以下の症状がみられる場合もあります。
- 肝酵素の上昇
- 凝固系の異常
キシリトール摂取後に、急性肝不全を引き起こし、死亡あるいは安楽死を行った報告例が存在します。しかし、急性肝不全を引き起こしたメカニズムは不明です。
キシリトールの中毒量
キシリトールの中毒量は、以下の通りです。
- 0.1mg/kg以上の摂取:低血糖の危険性あり
- 0.5mg/kg以上の摂取:肝障害の危険性あり
キシリトール製品は、その含有量が非常に幅広いです。例えば、ガムタイプのキシリトールの含有率は0.1~100%となっています。必ず、成分表で確認するようにしましょう。
キシリトール中毒の診断
キシリトール中毒の診断は、飼い主からの問診と血液検査を行います。
問診では、「キシリトールを含有した食品や口腔ケア製品」を食べたことを確認し、症状がキシリトール中毒と一致していることを確認します。
血液検査では、血糖値の異常(低血糖)、低カリウム血症、ALT、ALP、T-bilの増加、凝固系の延長などがみられます。
血糖値の異常は、基本的に低血糖がみられます。しかし、ソモジー効果といって時に高血糖がみられる場合もあります。
キシリトール中毒の治療
キシリトール中毒の治療は、摂取したキシリトールの量により異なります。
キシリトール摂取量が0.1mg/kg以下の場合
低血糖を起こす可能性は低いので、経過観察を行います。
キシリトール摂取量が0.1mg/kg以上の場合
低血糖を起こす可能性があります。定期的な血液検査を行い、低血糖が確認されたらグルコースの投与を行います。
キシリトール摂取量が0.5mg/kg以上の場合
低血糖の有無に関わらず、グルコースの投与が推奨されます。また、肝不全に対して肝庇護薬や抗酸化薬の投与も有効であると考えられています。
なお、キシリトール中毒では今のところ、吸着剤(活性炭など)の投与の有効性は確認できていません。
予後
予後は、摂取した量や経過時間に依存します。キシリトール中毒の予後は、以下のとおりです。
- 予後は良好
症状が軽度
合併症が無い - 予後が悪い
肝酵素の増加
高ビリルビン血症
凝固不全
まとめ
犬のキシリトール中毒について解説しました。この病気は意外と知られていない中毒なので、注意が必要です。
人に無害でも犬にとっては有害な食べ物もあるので、愛犬に食べさせても大丈夫かどうか確認してから与えるようにしましょう。