犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)を丁寧に解説

この記事では、犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で副腎皮質機能低下症(アジソン病)と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 水をたくさん飲んでたくさんおしっこをする症状(多飲多尿)がみられる犬の飼い主
  • 犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、副腎皮質機能低下症(アジソン病)について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

スポンサーリンク

副腎皮質機能低下症(アジソン病)とは

副腎皮質機能低下症(アジソン病)とは、副腎皮質ホルモン(コルチコステロイド)の分泌が、生体の必要量以下に低下する病気です。

副腎は、左右の腎臓の頭側に位置しています。副腎は、皮質と髄質からなり、皮質からミネラルコルチコイド(鉱質コルチコイド)グルココルチコイド(糖質コルチコイド)が、髄質からはアドレナリンが分泌されます。

▲犬の腎臓と副腎の位置関係

ちょうど、副腎皮質ホルモンの分泌が過剰となる副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の反対の病気です。

原因

副腎皮質機能低下症の原因は、自己免疫疾患によるものが多いと考えられています。

自己免疫疾患とは、免疫機能になんらかの異常が発生し、自分自身の細胞や組織を攻撃してしまい身体のさまざまな部分が炎症を起こしたり、損傷してしまう状態です。

つまり、自分の免疫細胞が突然に副腎皮質を破壊してしまうことが原因となり、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの両方の副腎皮質ホルモンが不足してしまいます。

この自己免疫疾患による副腎皮質の破壊を、特発性副腎皮質機能低下症と呼びます。

その他に感染症や副腎への腫瘍の転移、そしてクッシング症候群の治療薬であるOP’-DDD(商品名:ミトタン)による副腎皮質の破壊も原因となります。

なお、副腎の破壊が90%以上になるまでは、明確な臨床症状はみられないといわれています。

副腎皮質機能低下症は若齢〜中齢のメス犬に好発し、海外ではグレートデン、ロットワイラー、スタンダードプードルなどの好発犬種が報告されています。

スポンサーリンク

副腎皮質機能低下症の症状

副腎皮質機能低下症では、ミネラルコルチコイドグルココルチコイドの両方の副腎皮質ホルモンが不足することで症状がみられます。どちらも生体の維持に重要な役割を持つホルモンです。

ミネラルコルチコイドは、体液のナトリウムやカリウムの濃度調節に関して重要な役割を持ちます。

そのため、ミネラルコルチコイドが不足すると、血液中のナトリウムが減少してしまい、全身の総血液量が減少するので、循環不全低血圧症腎不全などに発展します。同時に、高カリウム血症を伴うため、心臓の筋肉に障害が起きて不整脈が起こります。

グロココルチコイドは、糖分の貯蔵や放出、抗炎症作用、ストレスへの反応などの役割があります。

そのため、グルココルチコイドが欠乏すると、食欲不振体重減少低血糖状態などが認められます。

副腎皮質機能低下症の症状が急激に悪化した状態を「アジソンクリーゼ(急性副腎不全)」と呼び、適切な治療を行わないと生命に関わります。

この病気の初期症状は、元気がない、体重減少、食欲不振、嘔吐、吐出、下痢、血便、おしっこが多い、水をよく飲む、徐脈、震える、低体温などですが、これらの症状は好調と不調を繰り返しながら、ゆっくりと進行していきます。

このように初期症状は多彩で曖昧なので、診断されないまま時間が経過することがあります。

そして最終的に、アジソンクリーゼ(急性副腎不全)になって初めて診断されるケースもしばしば存在します。

副腎皮質機能低下症は、旅行やペットホテルそしてトリミングなどで、犬にストレスがかかった時に悪化する可能性があります。

また、副腎皮質機能低下症の中には、グルココルチコイドのみが不足し、ミネラルコルチコイドの分泌が保たれる場合も存在します。

この場合には電解質の異常が現れないため、「非定型」の副腎皮質機能低下症(アジソン病)と呼ばれます。

この場合には、慢性の嘔吐や下痢などの消化器症状や元気消失などが主な症状で、アジソンクリーゼ(急性副腎不全)になる可能性は低いとされています。

副腎皮質機能低下症の診断

アジソンクリーゼは、一見しただけでは他の病気によるショック状態と区別できないため、血液検査で電解質異常(低ナトリウム血症と高カリウム血症)を発見して、診断を進めていくことになります。

電解質異常として、低ナトリウム血症と高カリウム血症を示す他の病気には、腎不全や糖尿病があります。

副腎皮質機能低下症の治療

アジソンクリーゼ(急性副腎不全)により動物病院にぐったりした状態で来院した場合には、救急治療として生理食塩水の点滴療法と副腎皮質ホルモンの注射が行われます。

維持治療は、ミネラルコルチコイド(酢酸フルドロコルチゾン)とグルココルチコイド(ヒドロコルチゾンなど)の投薬が主体となり、お薬が一生必要な場合がほとんどです。

予後

特発性副腎皮質機能低下症の予後は良く、適切な維持治療が行われる限り、寿命を全うできることが多いです。

まとめ

犬の副腎皮質機能低下症について解説しました。

この病気の症状は、多彩で曖昧なので初期に気がつくのは難しいかもしれません。ひょっとすると、旅行やペットホテルそしてトリミングなどで犬に「ストレス」がかかった時に悪化する、といったことがヒントになるかもしれません。

「アジソンクリーゼ(急性副腎不全)」になると、生命に関わりますので、調子が悪い時には早めに動物病院を受診することや、定期的な健康診断を受けておくといいかもしれません。