犬の慢性嘔吐を獣医師がわかりやすく解説

「最近、うちの子が何度も吐いて心配…」
犬の嘔吐は日常的に見られる症状ですが、何日も繰り返すようなら“慢性嘔吐”かもしれません。

慢性嘔吐の背景には、消化器の異常だけでなく、腎臓やホルモン、神経の異常など、さまざまな疾患が隠れていることがあります。
本記事では、犬の慢性嘔吐の原因・症状・診断・治療・予後まで、わかりやすく丁寧に解説します。

対象読者

  • 動物病院で慢性嘔吐と診断された or 疑われている犬の飼い主さん
  • 何日も嘔吐が続いている愛犬に不安を抱えている方
  • 慢性嘔吐の診療について学びたい獣医学生や動物看護師
目次

犬の慢性嘔吐とは

慢性嘔吐とは、6日以上持続する嘔吐を指します。逆に6日以内でおさまる場合は「急性嘔吐」に分類されます。
この区分は、治療方針や検査方針の判断に重要な指標です。

嘔吐は、胃の強い収縮により内容物を口から吐き出す反射行動であり、胆汁や未消化物を伴うこともあります。
また、以下の症状とは区別する必要があります:

  • 嚥下障害:食べ物をうまく飲み込めない状態
  • 吐出:食道の異常などにより、前触れなくスルッと出るタイプの嘔吐(吐く動作なし)

また、「嘔吐=胃腸の病気」と早合点しがちですが、実際には全身性疾患が原因となるケースも多く、注意が必要です。

原因

慢性嘔吐には、胃腸に直接原因がある場合と、胃腸以外に原因がある場合の両方が存在します。
また、犬種によって特有の疾患がみられることもあり、たとえば短頭種では幽門部狭窄、エアデール・テリアでは膵臓腫瘍、ダックスフンドでは炎症性腸疾患(IBD)の発生が比較的多いとされています。

胃腸に原因がある主な病気

  • 慢性胃炎
  • 食物不耐性 / 食物アレルギー
  • 異物誤食
  • 寄生虫感染
  • 腫瘍(例:リンパ腫)
  • 炎症性腸疾患(IBD)
  • 幽門部狭窄症
  • 食道裂孔ヘルニア
  • 大腸炎(※嘔吐を伴うことも)

胃腸以外に原因がある主な病気

慢性嘔吐の症状

慢性嘔吐では、見た目には元気に見えても、実は体内で異常が進行しているケースも少なくありません。特に、嘔吐の頻度や内容、全身状態の変化には注意が必要です。

  • 吐く頻度が多い/長期間続く
  • 胃液や胆汁の混じった内容物
  • 嘔吐動作がはっきりしている(腹部の収縮あり)
  • 元気がある場合もあれば、脱水・発熱・黄疸など全身症状がみられることも
項目嘔吐吐出
仕草えずく動きがあるなし
内容物胃液・胆汁を含むことが多い食道内容物(未消化)
タイミング食後 30分〜数時間以降もあり食後すぐ

🔍 食後7〜10時間後に未消化のフードを嘔吐する場合は、胃の流出障害や運動機能の低下が疑われます。

慢性嘔吐の診断

まずは問診と身体検査が基本です。
診察をスムーズに進めるために、以下の情報を整理して獣医師に伝えましょう。

診察時に伝えるべきポイント:

  • 異物を食べた可能性は?
  • いつもの食事内容は?
  • 吐いたものの内容や頻度(血液・異物・未消化物など)
  • 食後どのくらいで吐いたか?
  • 服薬歴(ステロイドなど)やワクチン接種歴は?

次に、以下のような一般的に行われる基本検査が実施されます。

  • 血液検査:肝臓・腎臓など内臓機能のチェックや脱水、感染の有無を確認します。
  • レントゲン検査・超音波検査:胃腸の形状、内容物、腫瘤の有無などを評価します。

それでも原因が特定できない場合には、より専門的な精密検査が検討されます:

  • 消化管造影検査:バリウムなどの造影剤を使い、幽門や食道の通過障害を調べます。
  • 内視鏡検査/生検:胃や小腸を直接観察し、炎症や腫瘍性病変の有無を調べます。組織を採取して詳しく検査(生検)することもあります。
  • 試験的開腹:重症例やその他の検査で診断が難しい場合に、最終的な確認・治療を目的として実施されることがあります。

慢性嘔吐の治療

慢性嘔吐の治療は、犬の全身状態や嘔吐の重症度、原因疾患の有無によって大きく異なります
まずは症状の軽重を見極め、それに応じた対応を行います。

軽症の場合(元気・食欲がある)

  • 嘔吐を抑える対症療法(制吐剤)
  • 低アレルギー食の導入(新奇タンパク質食など)
  • 食事量・回数の調整

全身症状がある / 治療に反応しない場合

必要に応じて精密検査を実施し、原因に応じた治療を行います:

原因主な治療法
異物誤食異物の摘出(内視鏡 or 手術)
IBD(炎症性腸疾患)ステロイド・食事療法
寄生虫感染駆虫薬
アジソン病ホルモン補充(ミネラル・グルココルチコイド)
腫瘍抗がん剤 / 手術療法
食道裂孔ヘルニア外科手術

予後

予後は原因によって大きく異なります。
食物不耐性 や食物アレルギーなどでは食事療法のみで改善することも多いですが、腫瘍やホルモン疾患、IBDなどの場合には継続的な治療や管理が必要になります。

まとめ

犬の慢性嘔吐は、単なる胃腸の不調にとどまらず、肝臓や腎臓、副腎などの全身性疾患のサインであることもあります。
「元気だし大丈夫かな」と自己判断して放置してしまうと、重篤な病気を見逃すリスクもあります。

長期間にわたって嘔吐が続く場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
その際には、「いつから、どんな頻度で吐いているか」「どんなものを吐いたか」「食事や薬の内容」など、問診時に伝えるべき情報を整理しておくと、診断がスムーズになり、適切な治療につながります。

発見が遅れてしまう前に、まずは一度、獣医師に相談することが、愛犬の健康を守る第一歩です。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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