犬のマダニ症を丁寧に解説

この記事では、犬のマダニ症について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院でマダニ症と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • ノミ・ダニの予防について知りたい犬の飼い主
  • 犬のマダニ症について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、マダニ症について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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マダニ症とは

マダニ症は、マダニに咬まれ吸血されることです。また、マダニに咬まれることでダニ媒介性感染症が起こることがあります。

マダニは、ヒトと犬とで共通の感染症(重症熱性血小板減少症候群など)を媒介する場合もあります。

マダニの基礎知識

マダニの基本的な情報は、以下のとおりです。

  • クモ綱ダニ目マダニ亜目マダニ科に属する
  • 吸血前はおよそ3~4mmくらいの大きさある
  • 昆虫では無くクモやサソリに近い仲間
  • マダニは畳やカーペットの中に住むダニとは別の生き物

マダニの生態

マダニは、ハーラー器官と呼ばれる感覚器を持ちます。これにより、哺乳類から発せられる二酸化炭素の匂いや体温、体臭、物理的振動などに反応して、草の上などから生物の上に飛び降り吸血行為を行います。

マダニの唯一の栄養源は、動物の血液です。幼ダニ・若ダニは発育・脱皮のため、成ダニは産卵のために吸血を行います。

マダニの吸血は蚊のように刺すのではなく、皮膚に噛みついて宿主と連結して吸血します。

吸血場所を定めると、まず顎体部の鋏角と呼ばれる部位で皮膚を切り裂き、口下片と呼ばれる部位を突き刺して吸血を開始します。そしてこの口下片には棘があるため、犬などの宿主の皮膚から脱落しにくくなっているます。さらにマダニの唾液成分にはセメント物質が含まれ、接着剤のように口部を固定し、吸血の間、マダニはしっかりと犬に付着することが可能となっています。

吸血中のマダニは、犬の血液を体内に取り込んで濃縮し、水分を唾液として犬の体内に吐き戻します。このマダニの唾液には吸血を容易にするための抗凝固物質が含まれるだけでなく、抗炎症物質、免疫抑制物質も含まれており、マダニが宿主からのダメージを受けることなく吸血するのに役立っています。

このためマダニの吸血時間は極めて長く、雌成虫の場合は6~10日に達します。そして、この間に約1mlに及ぶ大量の血液を吸血することができ、大きさは約1cm前後に大きく膨れ上がります。

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マダニ症の症状

マダニ症では、咬みついた部位に皮膚病変がみられます。その他の症状として、貧血やマダニ唾液蛋白質に対するアレルギー反応がみられる場合もあります。

マダニ症でみられる皮膚病変は、咬まれた皮膚の赤みです。

犬の場合、マダニは以下の部位に付着しやすいです。

  • 顔面(眼の周囲、鼻、耳)
  • 前胸部
  • 鼠径部
  • 指の間
  • お尻の周り

マダニは犬に、バベシア症という致死性の病気重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を媒介します。重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、犬から人へ感染することも明らかとなりました。

マダニ症の診断

マダニ症の診断は、犬の体表に付着するマダニをみつけることです。日本では犬猫共に、フタトゲチマダニの寄生が最も多いです。

マダニは吸血状況により大きさが異なるので、発見が容易な場合から困難な場合もあります。

  • 吸血した成ダニ
    小豆程度の大きさ
  • 飽血若ダニ
    米粒程度の大きさ
  • 飽血幼ダニ
    ゴマ粒程度大きさ

なお、マダニの種類(オーストラリアのIxodes holocyclusなど)によっては、神経性毒物を唾液中に含むものもあり、ダニ麻痺を発症する場合があります。

マダニ症の治療

マダニ症の治療は、マダニの寄生が少数であれば物理的に除去します。マダニの除去については、タイミングにより異なります。

  • 体表に付着前のマダニ
    手指でも簡単に取り除くことができます。
  • 付着して早期のマダニ
    先の細いピンセットなどで、マダニの先端部を挟んで引き抜くことが重要です。場合によっては、皮膚の小切開が必要になることもあります。胴体部を強く引っ張ると、顎体部が皮膚内に残ってしまい、皮膚炎を続発するので注意が必要です。
  • 吸血をある程度行ったマダニ
    肉眼的に容易に観察される大きさのマダニの場合は、口下片がしっかりと犬の皮膚に挿入された状態です。この場合、手指による物理的な除去が困難なので、マダニ駆除薬を使用します。

ノミ・マダニの駆除

ノミ・マダニの駆除薬を犬に投与します。ノミ・マダニの駆除薬には、①背中に滴下するスポットタイプと、②食べさせる経口タイプがあります。

両者の違いとして投与方法以外に、スポットタイプは約24時間で効果を発揮するのに対し、経口タイプはそれよりも即効性があるとされています。

また、従来はフィラリア予防とノミ・マダニ予防は別々で行われていました。しかし近年は、ひとつで両方の予防が可能な製品も販売されるようになりました。

スポットタイプ

犬の背中に滴下するノミ・マダニの駆除薬です。

  • 成分名:フィプロニル
  • 商品名:フロントライン、フィプロスポット、マイフリーガード
  • 成分名:イミダクロプリド
  • 商品名:フォートレオン、アドボケート(フィラリア予防も可)
  • 成分名:セラメクチン
  • 商品名:レボリューション(フィラリア予防も可)

経口タイプ

犬に食べさせるノミ・マダニの駆除薬です。

  • 成分名:フルララネル
  • 商品名:ブラベクト
  • 成分名:アフォキソラネル
  • 商品名:ネクスガード、ネクスガードスペクトラ(フィラリア予防も可)
  • 成分名:スピノサド
  • 商品名:コンフォティス、パノラミス(フィラリア予防も可)

予防

ノミ・マダニの駆虫薬を毎月一回投与します。また、マダニの活動が活発な時期に、マダニの生息密度が高い場所へ入らないことが重要です。

マダニが付着しても、早期に除去することが重要です。これには、①除去が容易、②マダニ媒介伝染病のリスクが低くなるメリットがあります。

例えば、犬のバベシア症では、吸血開始後48時間以降に急激に感染リスクが高まります。

散歩から帰ってきた時に、ブラッシングを行いマダニの付着の有無を確認するなど、早期発見に努めましょう。

まとめ

犬のマダニ症について解説しました。マダニの種類や生息域は地域によって大きく異なるため、動物病院で獣医さんに聞いてみましょう。

ノミやマダニの活動は、周囲の気温に影響され13度以下では活動できないと言われています。そのため、ノミやマダニの予防期間は、「気温が13度になったら始めて、13度を下回ったら止める」というのが基本となっております。