犬の外耳炎を丁寧に解説

この記事では、犬の外耳炎について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で外耳炎と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 耳の痒みがみられる犬の飼い主
  • 犬の外耳炎について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、外耳炎について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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外耳炎とは

外耳炎は、鼓膜から外側の耳道に発生する急性および慢性の炎症性疾患です。外耳炎の治療が成功しないと、中耳炎および内耳炎に進行することがあります。

外耳炎の発生には、炎症が発現する頻度が高くなる「素因的要因」、外耳炎を直接引き起こす「一次的要因」、治療が上手くいかない原因となる「持続性要因」などが複雑に絡み合っています。

犬の耳の構造

犬の外耳は耳介・外耳道・鼓膜で構成されており、鼓膜の奥に中耳内耳が存在します。

外耳

耳介は音波を集め、外耳道は音波を中耳に伝える働きをします。そして音波は鼓膜を振動させ、その鼓膜の振動が中耳に伝わります。

中耳

中耳には鼓室や耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)があり、鼓膜が振動すると、鼓膜に付着している耳小骨を経由して内耳に音が伝わります。

耳小骨は、てこの原理で鼓膜の振動を増幅させる増幅器の働きをしています。中耳の内腔は粘膜で裏打ちされており、耳管で咽頭と繫がっています。

内耳

内耳は、聴覚をつかさどる蝸牛と平衡感覚をつかさどる前庭(卵形嚢・球形嚢・三半規管)から構成されています。

▲犬の耳の模式図

発生状況

  • 発生頻度
    5/5(日常的にみられる病気)
  • 好発年齢
    特になし
  • 好発犬種
    特になし
  • 性差
    特になし

原因

犬の外耳炎の発生には、素因的要因、一次的要因、持続性要因が関与します。

外耳炎の原因となる一次的要因と、これらに続発する二次的な要因があります。

二次的な要因として、細菌感染マラセチ感染があります。細菌やマラセチアは、単独で外耳炎を発生させることはほとんどないと考えられています。

素因的要因や持続的要因は、存在すること自体が必ずしも外耳炎を引き起こす訳ではないですが、外耳炎となるリスクを上昇させ治療を困難にします。

(参考)ヒトの外耳炎
ヒトでは、耳そうじなどで傷がつき、そこから細菌やカビが入って炎症を起こすことが主な原因と考えらえています。
また、耳が清潔に保たれていない場合や、整髪剤などが耳の中に入ることによっても、外耳炎が引き起こされます。

素因的要因

外耳炎の発生頻度が高くなる要因のことです。素因的要因には、以下のものがあります。

  • 耳の構造の問題
    耳道内の過剰な毛(プードルなど)
    耳の内側の過剰な毛
    下垂した耳(コッカースパニエル、スプリンガースパニエルなど)
    狭い耳道(イングリッシュブルドック、チャウチャウ、シャーペイなど)
  • 過剰の湿度の問題
    高温多湿の環境
    水泳
    グルーミング
  • 耳道の閉塞の問題
    腫瘍
    ポリープなどの閉塞性
  • 中耳の問題(原発性中耳炎)
    原発性滲出性中耳炎(PSOM)
    腫瘍による中耳炎
  • 全身性の問題
    発熱
    衰弱
    免疫抑制
    ウイルス感染
  • 耳の処置の問題
    クリーニングによる外傷
  • その他の問題
    耳道内の細菌叢の変化

一次的要因

外耳炎を引き起こす直接の要因のことです。一時的要因には、以下のものがあります。

  • アレルギー疾患
    アトピー性皮膚炎
    食物有害反応
    食物アレルギー
    接触性皮膚炎
  • 免疫疾患
    水疱性類天疱瘡
    表皮水疱症
    紅斑性狼瘡
    落葉状天疱瘡
  • 内分泌疾患
    副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
    甲状腺機能低下症
    性ホルモン失調
  • 上皮形成障害
    脂質反応性脂漏症
    原発性特発性脂漏症
    皮脂脂腺炎
    ビタミンA反応性皮膚症
    亜鉛反応性皮膚症
  • 異物
    毛、芒、牧草、砂、泥など
  • 腺の疾患
    脂腺の過形成/低形成
    分泌の割合や種類の変化
  • 免疫介在性疾患
    薬物反応性
    多形紅斑
    血管炎
    脈管症
  • 微生物疾患
    真菌
  • 寄生虫疾患
    ツツガムシ
    ニキビダニ
    耳ダニ
    ダニ
  • ウイルス疾患
    犬ジステンパー
  • その他の問題
    耳介軟骨炎
    特発性炎症/コッカースパニエルの肥厚性外耳炎
    若年性蜂窩織炎
    耳道の狭窄(結合織)
  • 原因不明

持続性要因

治療が上手くいかない要因のことです。持続性要因には、以下のものがあります。

  • 上皮の問題
    耳垢の過剰な産生
  • 耳道の問題
    浮腫
    耳道の肥厚性変化などの耳道の問題
  • 鼓膜の問題
    拡張
    憩室/ポケット
    破れ
  • 腺の問題
    アポクリン腺の詰まりと拡大
    汗腺炎
    脂腺過形成
  • 周囲の組織の問題
    石灰化
  • 中耳の問題
    中耳炎
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外耳炎の症状

外耳炎では、頭を擦る、耳を掻くあるいは頭を振るのが典型的な症状です。さらに、片側あるいは両側から耳漏(耳からの排液)がみられることもあります。また、耳道内の観察で”できもの”がみられる場合もあります。

外耳炎が重度の場合または中耳炎の場合には、捻転斜頸(神経の問題で首が片側に傾いた状態)や聴力の低下がみられます。

外耳炎では、原因によりさまざまな色の耳垢がみられます。

  • 茶色のコーヒー滓様の場合:耳ダニ
  • 茶色ないし灰色の場合:マラセチア感染症
  • 黄緑色の場合:細菌感染
  • 黄白色の場合:耳垢

急性の外耳炎と慢性の外耳炎で、症状が異なります。

  • 急性の外耳炎の場合
    外耳道に糜爛(びらん)や潰瘍がみられる
    耳道壁の肥厚がみられる
  • 慢性の外耳炎の場合
    耳垢と皮脂腺により耳道の狭窄がみられる
    耳介軟骨に石灰沈着がみられる

次の症状がみられた場合には、中耳炎が併発している可能性が高いです。

  • 口を開ける時の痛み
  • 顔面神経麻痺
  • 捻転斜頸(神経の問題で首が片側に傾いた状態)
  • 眼振(自分の意思とは関係なく眼球が動く現象)
  • ホルネル症候群
(参考)ヒトの外耳炎
ヒトでも、耳の痒みや痛みがみられます。悪化すると耳の閉塞感や難聴、耳から液体の出る”耳垂れ”を起こします。

外耳炎の診断

外耳炎の診断は、問診、視診、耳垢検査、細菌培養検査と感受性試験を行います。これらの検査で、重症度も併せて判断します。

問診では、以下の確認を行います。

  • 外耳炎が初発か再発か
  • 再発の場合には過去の治療や再発までの間隔
  • 他の皮膚病の有無
  • 食事内容
  • 生活様式

視診では、肉眼と耳鏡で観察を行います。

肉眼では、以下の確認を行います。これらと並行して、耳の臭いや耳道軟骨を皮膚側から触診し柔軟性や痛みの有無を確認します。

  • 耳介の内側や耳道の開口部付近を確認
  • 耳介の内側や耳道の被毛の状態を確認
  • 耳介の内側に膿疱や痂皮の有無を確認(ある場合には、自己免疫疾患も考慮)

外耳道は、手持ち型の耳鏡で観察を行います。しかし、これでは外耳道の深部や鼓膜は確認が難しいです。そのため、精密検査として全身麻酔下での専用の機器(ビデオオトスコープ)を用いた検査が必要となる場合があります。

ビデオオトスコープでは、鼓膜付近の精査が可能となり、耳道内の”できもの”などの生検も可能になります。

耳鏡では、以下の確認を行います。

  • 寄生虫、耳垢、紅斑の有無やその程度
  • 耳道内腔の大きさや耳道壁の状態
  • “できもの”や異物の有無
  • 可能であれば鼓膜の確認
▲ビデオオトスコープによる耳道および鼓膜の観察:クリアに耳道内を確認することができる

耳垢検査では、以下の確認を行います。

  • ミミヒゼンダニ
  • 細菌やマラセチア

細菌培養検査と感受性試験は、外耳炎が再発する場合やなかなか治らない場合に行います。

細菌培養試験と感受性試験とは

どのような細菌が存在し(細菌培養検査)、それに対しどのような抗菌薬が有効か(感受性試験)を調べる検査です。

外耳炎の治療

外耳炎の治療には、内科的治療外科手術があります。通常、内科的治療を行い、耳の状態が悪化した場合に外科手術を行います。

内科的治療

内科的治療のとりあえずの目標は、耳道の炎症を減少させ犬を快適にさせることです。そして、慢性的な病理変化(耳道狭窄や耳介軟骨の石灰沈着など)を防ぐような積極的な治療を行います。

内科的治療には、耳洗浄、グルココルチコイド(ステロイド)、抗菌薬、抗真菌薬があります。治療の際には、素因的要因や持続的要因について考慮する必要があります。

耳洗浄

耳垢等の汚れを耳道から洗い流すことは、外耳炎治療として非常に有効です。

ただし、炎症が重度の場合には実施すべきではありません。その理由は、炎症が重度の場合に洗浄すると糜爛(びらん)や潰瘍が発生する可能性があるためです。

耳洗浄の方法は、以下のとおりです。

  • 洗浄液には、市販のイヤークリーナーを用いる
  • 使用前に35~38℃程度に温める
  • 耳道内に洗浄液を満たす
  • 耳道全体を優しくマッサージする(耳道内の耳垢を耳道壁から遊離させるように)
  • 脱脂綿やティッシュペーパーなどで洗浄液を吸い取る

洗浄液の選択基準は、以下のとおりです。

  • 鼓膜が破れていている場合。以下の洗浄液が安全に使用できます。
    生理食塩水
    酢と水(酢1に対して水3~5)の微温湯(嫌がらなければ優れた洗浄液です)
  • 耐性菌が存在する場合
    トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン-エデト酸四ナトリウム(Tris-EDTA)を含む洗浄液
    局所使用のゲンタマイシンや他のアミノグリコシド系の抗菌薬に対する緑膿菌の感受性を大幅に上昇させるので、抗菌薬投与の15分前に耳道洗浄を行うことが推奨される。

グルココルチコイド(ステロイド)

外耳炎の炎症を抑える目的で、全身(注射や経口投与)もしくは局所(点耳薬)のグルココルチコイド(ステロイド)を使用します。

抗菌薬

抗菌薬は点耳薬に配合されている場合と、全身性抗菌薬を投与する場合があります。

点耳薬の多くは、配合点耳薬であり、抗菌薬、抗真菌薬、グルココルチコイド(ステロイド)が配合されています。1日に1~2回、治療に対する反応を確認しながら使用します。

点耳薬の抗菌薬として、ネオマイシン、ゲンタマイシン、ポリミキシンB、もしくはエンロフロキサシンが含まれています。

全身性抗菌薬の投与が用いられる場合もあります。しかし、外耳炎に対して有効性が低く、耐性菌(特に緑膿菌の耐性菌)の生育を助長するので使用には、注意が必要です。

なお、細菌感染は外耳炎の一次的要因とは考えられていません。そのため、抗菌薬の投与だけでは外耳炎の治癒はできないと考えられています。

抗真菌薬

抗真菌薬は点耳薬に配合されている場合と、全身性抗真菌薬を投与する場合があります。

外科手術

耳の状態が悪化し、外耳道が過形成組織で完全に閉塞したら、外科手術が必要となります。外科手術として、全耳道切除(TECA)および鼓室胞切除術が行われます。

予後

急性外耳炎と慢性外耳炎で、予後が異なります。

急性外耳炎では、適切な治療が行われれば予後は良好です。

慢性外耳炎では、中耳炎を併発した場合や、耳道の過形成状態で閉塞した場合など外科手術を行った場合には、聴覚が失われます。

まとめ

犬の外耳炎について解説しました。特に再発性の外耳炎の場合には、素因的要因、一時的要因、持続的要因を明確に認識しない限り、耳の問題が解決されません。例えば、食物アレルギーの犬が外耳炎の症状だけで来院することもあります。

時に、要因が複雑な絡み合うことで治療が難しくなります。外耳炎を適切に治療し、中耳炎や内耳炎に進行しないように獣医さんと相談しながら治療を進めて行きましょう。