犬の赤芽球癆を獣医師がわかりやすく解説

「貧血」と言われたけれど、原因がはっきりしない――
そんな時に疑われる疾患の一つが「赤芽球癆(せきがきゅうろう)」です。

赤芽球癆は、骨髄の造血機能に異常が起きることで赤血球の産生が止まってしまう、まれで重篤な非再生性貧血の一種です。

この記事では、犬の赤芽球癆について、原因・症状・診断・治療・予後まで、わかりやすく丁寧に解説します。

対象読者

  • 動物病院で「非再生性貧血」と診断された犬の飼い主
  • 骨髄検査や免疫抑制療法について説明を受けたことがある方
  • 犬の貧血について学びたい獣医学生・動物看護師
目次

犬の赤芽球癆とは

赤芽球癆とは、骨髄の中で赤血球をつくる前段階の細胞(赤芽球)がほとんど見られなくなり、重度の非再生性貧血を引き起こす疾患です。

赤血球は、骨髄内の造血幹細胞から赤芽球を経て成熟し、肺で取り込んだ酸素を全身に運ぶ重要な血液細胞です。寿命はおよそ120日で、役目を終えると脾臓や肝臓で処理されます。

赤血球は、肺から取り込んだ酸素を全身へ運ぶ重要な血液細胞で、骨髄にある「造血幹細胞」から赤芽球→赤血球へと分化・成熟していきます。

赤芽球癆では、この赤血球を作る工程の“入り口”である赤芽球が極端に少なくなっており、血液の赤血球が減っていく一方で、新しい赤血球が補われない状態になります。

一方で、同じ造血幹細胞から分化する白血球や血小板については、数値が正常もしくはやや高めで推移することが多く、これが赤芽球癆を疑ううえで重要な手がかりになります。ちなみに、「骨髄球」は顆粒球系白血球(好中球・好酸球・好塩基球)へと分化する途中の細胞であり、「巨核球」は血小板を産生する役割を担っています。

原因

赤芽球癆は、以下の2つに分類されます。

原発性赤芽球癆

赤芽球系の前駆細胞が免疫によって攻撃される自己免疫疾患で、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)と病態が近いとされています。

続発性赤芽球癆

他の疾患や薬剤が原因で起こるもので、以下が主な要因です:

赤芽球癆の症状

赤芽球癆の症状は「貧血」によるものが中心です。

  • 元気や食欲がなくなる
  • 歩くのを嫌がる、疲れやすい
  • 呼吸が荒くなる
  • 歯茎や舌の色が白くなる(粘膜蒼白)

🔍 ポイント:
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)と異なり、黄疸(皮膚や目の黄ばみ)や赤茶色の尿は見られません

赤芽球癆の診断

赤芽球癆の診断は以下の2ステップで進められます。

① 血液検査

まず、血液検査では「正球性正色素性」の重度な非再生性貧血がみられます。
白血球や血小板の数値は正常範囲か、むしろやや高値で推移することが多く、赤血球系細胞だけが選択的に障害を受けていることが示唆されます。

なお、原発性赤芽球癆では、球状赤血球の出現や赤血球の自己凝集、直接クームス試験の陽性反応がみられることもありますが、これらは比較的まれです。

② 骨髄検査

次に、骨髄検査によって「赤芽球系細胞の著しい低形成または無形成」を確認します。
一方で、同じ骨髄内に存在する白血球や血小板の元となる細胞(骨髄球系・巨核球系)は正常であることが多く、この対比が診断の決め手となります。

※信頼性を高めるために、2〜3箇所から骨髄サンプルを採取することが推奨されています。

さらに、慢性腎臓病やパルボウイルス感染、ヒト型エリスロポエチン製剤使用歴など「続発性赤芽球癆」の原因がないかどうかを除外診断によって確認する必要があります。
それらの原因が明らかでない場合に初めて「原発性赤芽球癆」と診断されます。

赤芽球癆の治療

原発性赤芽球癆の治療は、免疫抑制療法が中心です。

  • ステロイド(プレドニゾロンなど)
  • 必要に応じて他の免疫抑制剤(アザチオプリンやシクロスポリンなど)を併用

補助療法として、以下が検討されることもあります:

  • 輸血(貧血が重度の場合)
  • ヒト免疫グロブリン(IVIG)

なお、治療効果が現れるまでには数週間~数ヶ月かかることがあり、焦らず経過を見守る必要があります。

予後

原発性赤芽球癆は、適切な免疫抑制療法に反応することが多く、治療により徐々に赤血球の産生が回復する例も少なくありません。しかし反応には時間がかかることが多く、初期治療での管理が非常に重要です。

一方、続発性の場合は原因疾患の除去・治療が最優先となります。

まとめ

犬の赤芽球癆は、赤血球の産生が骨髄で止まってしまうことによって起こる、重度の非再生性貧血です。
診断には骨髄検査が必要となり、治療にも時間がかかることが多いため、ご家族の理解と粘り強いサポートがとても重要です。

もし愛犬が貧血と診断された場合、特に再生の兆しが見られないようなケースでは、赤芽球癆のような病気の可能性も念頭に置きながら、獣医師としっかり話し合って治療方針を決めていきましょう。

当サイト「わんらぶ大学」では、獣医師監修のもと、犬と猫の健康や暮らしに役立つ情報をわかりやすくお届けしています。

※医療に関する最終的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

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