犬の尿路結石(尿石症)を丁寧に解説

この記事では、犬の尿路結石(尿石症)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で尿路結石(尿石症)と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 排尿痛、血尿、排尿困難などの排尿異常がみられる犬の飼い主
  • 犬の尿路結石(尿石症)について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、尿路結石(尿石症)について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

スポンサーリンク

犬の尿路結石(尿石症)とは

尿路結石(尿石症)とは、腎臓から尿道までの尿路に結石が生じる病気です。尿路とは、尿の通り道である腎臓、尿管、膀胱、尿道のことです。

ヒトでは、約7000年前のエジプトのミイラからも膀胱結石がみられており、尿路結石は歴史の古い病気です。ヒトと同じで、犬にも尿路結石が発生します。

結石が尿路に存在することにより、以下の状態を引き起こすことがあります。

  • 物理的な刺激を受けて局所の尿路粘膜が損傷する
  • 炎症や感染症を惹起する
  • 石自体が尿路の閉塞を起こすと

尿路結石が存在する部位により、名称が異なります。

  • 腎臓:腎結石
  • 尿管:尿管結石
  • 膀胱:膀胱結石
  • 尿道:尿道結石

主として結石が形成され成長する部位は腎臓と膀胱です。尿管結石は腎臓から、尿道結石は膀胱からそれぞれ尿の流れによって、結石が入り込むとされています。

 尿路結石の種類

尿路結石の80%以上は、ストルバイトシュウ酸カルシウムです。そして、ストルバイトとシュウ酸カルシウムの発生比率は、ほぼ1:1です。

ただし、腎結石にはシュウ酸カルシウムが、膀胱結石にはストルバイトの比率が多いと報告されています。

その他の結石の種類として、尿酸アンモニウム、シスチン、シリカ、リン酸カルシウムがあります。また、これらの複数の成分からなる混合結石も存在します。

尿路結石と犬種

犬種により好発する結石が知られています。これは、結石になりやすい先天的な代謝異常や基礎疾患が原因だと考えられています。

  • ダルメシアンやヨークシャーテリア:尿酸アンモニウム
  • ミニチュアシュナウザー:シュウ酸カルシウム
  • イングリッシュブルドック:シスチン

原因

犬の尿路結石は、尿路感染と強い関係があります。

例えば、ストルバイト結石は、細菌感染が結石形成の直接の原因となることが知られています。

また、無菌的に形成された全ての結石でも、結石が尿路に存在することにより尿路感染症を引き起こすことが明らかになっています。

そのため、尿路結石と尿路感染症が併発している状況は比較的多くみられます。

結石の発生と、以下の病気との関連性が知られています。

スポンサーリンク

尿路結石の症状

尿路結石は、発生場所により症状が異なります。

膀胱結石や尿道結石では、排尿痛、血尿、排尿困難などの排尿異常がみられます。

腎結石や尿管結石では、片側だけか両側かで症状が異なります。

片側だけの結石では、腹痛や血尿以外に目立った症状がみられないことがあります。しかし、両側になると、重度の腎機能障害を引き起こし、急性腎不全となります。

尿路結石の重症度に大きく関与するのは、腎臓への影響の有無です。

尿路閉塞による腎臓実質への内側からの圧迫(水腎症)や、尿路結石と併発する細菌感染による腎臓実質の炎症(腎盂腎炎)などの合併症がある場合には、重症化すると考えられます。

膀胱結石の診断

尿路結石の診断は、レントゲン超音波検査などの画像検査で、尿路における結石の存在を確認することです。

ただし、何も症状を示さない犬に、偶発的に結石が見つかる場合もあります。そこで、結石が確認された場合には、それに関連した症状を示しているか判断する必要があります。

実際には、症状がないように見えても、気がついていないだけということもあるので、注意深い観察が必要となります。

レントゲンや超音波検査などの画像検査の他に、血液検査尿検査を行います。

血液検査では、腎臓の機能に関連した重症度の評価、結石形成を引き起こす基礎疾患の評価、そして全身状態の評価を行います。

尿検査では、尿路系の感染や炎症および出血、さらには形成された結石に関連した情報を得ることができます。

必要に応じて、尿路造影によるレントゲン検査により、腎臓の尿産生状態を確認することもあります。

膀胱結石の治療

結石による症状がある場合には、外科手術で結石を除去することが原則です。

しかし、結石の種類によっては内科的に溶解することが可能です。内科的治療が可能な結石は、以下の結石です。

  • ストルバイト結石
  • 尿酸アンモニウム結石
  • シスチン結石

内科的治療が可能な結石の場合には、状況に応じて外科手術と内科的治療のどちらを優先するか判断します。ただし、以下の場合には外科手術を優先します。

  • 結石が尿路閉塞を起こしている場合
  • 全身状態が悪化している場合

その他に外科手術が適応となる状況は、以下の通りです。

  • 内科的治療に反応しなかった場合
  • 結石の種類が不明である場合
  • シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムなど内科的治療が不可能な成分であることが分かっている場合

ストルバイト結石の内科的治療

ストルバイト結石を強く疑う状況は、以下の通りです。

  • アルカリ性尿
  • 尿路感染症
  • 尿検査でストルバイト結晶が検出されている
  • 結石がレントゲンで確認できる(X線不透過性)
  • 過去にストルバイト結石の罹患歴がある

ストラバイト結石と判断した場合の内科的治療は、食事療法抗菌薬の投与です。

食事療法とは

食事の量や成分を増減させることで病気の改善を目指します。病気の治療目的臓器の保護目的で行われます。

食事療法は、リンやマグネシウムを制限し、尿のpHを弱酸性に保持し、尿の産生を増加させることを目的としています。

▲ストルバイト結石症やシュウ酸カルシウム結石症に対応した食事の例(出典元:ロイヤルカナン

抗菌薬は、ウレアーゼ産生菌による尿路感染症を抑え、尿中アンモニア濃度を減少させアルカリ化傾向を抑制することを目的としています。

予後

結石を除去する外科手術を行えば、予後は良好です。しかし重度の腎不全が継続する場合は、注意が必要です。

気を付けたいのは、適切な予防措置をとらなければ、多くの場合結石が再発してしまうことです。

結石の種類が明らかになっている場合は、その結石に対応した食事療法や薬の投与を行うことが望ましいです。

全ての種類の結石に対して有効な予防法として、水分摂取量を増加させ、尿の希釈と排尿量増加を促す方法があります。

まとめ

犬の尿路結石について解説しました。結石の治療は、基本的には外科的治療となりますが、結石の種類によっては内科的治療が可能な場合もあります。

治療も大切ですが、療法食やお薬、そして水分摂取量の増加などの再発予防策も重要となってきます。