この記事では、犬の扁平上皮癌について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、扁平上皮癌について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
扁平上皮癌とは
扁平上皮癌は、皮膚や口腔などの体の表面を覆う扁平上皮が腫瘍性増殖した悪性腫瘍です。
扁平上皮癌は、上皮系腫瘍に分類されます。扁平上皮から発生する場合が多いですが、扁平上皮化生した上皮の基底細胞から発生する場合もあります。
犬の扁平上皮癌の代表的なものに、以下の2つのタイプがあります。
- 皮膚の扁平上皮癌
- 口腔の扁平上皮癌
皮膚の扁平上皮癌
皮膚の扁平上皮癌は、犬の皮膚腫瘍の約6%を占めます。発生部位は、耳、まぶた、鼻、四肢端や肉球、唇、体幹部です。
扁平上皮癌は、外耳道では耳垢腺癌に次いで2番目に多い腫瘍で、四肢端ではメラノーマや肥満細胞腫と並ぶよくみられる腫瘍です。
皮膚の扁平上皮癌は、平均発症年齢が10~11歳で、スコティッシュテリア、プードル、ペキニーズ、ボクサー、ダックスフンド、バセットハウンドが好発犬種とされています。
口腔の扁平上皮癌
口腔の扁平上皮癌は、3大口腔内悪性腫瘍の一つです。発生部位は、歯肉で最も多くみられ、唇、舌、口蓋、咽頭と続きます。
扁桃に発生する扁平上皮癌は、局所浸潤性が極めて強く転移率も高いという他と異なる特徴があります。
口腔の扁平上皮癌(扁桃を除く)は、大型犬に発生する可能性が高いとされています。
原因
扁平上皮癌の発生原因は、明らかにされていません。
皮膚の扁平上皮癌では、以下の要因が示唆されています。
- 皮膚の色素の薄い部分に対する紫外線(UV)
- パピローマウイルスの感染
扁桃の扁平上皮癌は、大気汚染との関連が指摘されています。都会に住む犬は田舎に住む犬に比べて、約10倍の発生率があると報告されています。
扁平上皮癌の症状
皮膚の扁平上皮癌と口腔の扁平上皮癌で、症状が異なります。
皮膚の扁平上皮癌
皮膚の部位による症状は、以下の通りです。
- 皮膚や鼻:潰瘍病変や”できもの”
- 耳や外耳道:不整な隆起
- 四肢端や肉球:歩行の異常、指が腫れる、爪の異常成長や割れる
皮膚の扁平上皮癌は、強い局所浸潤性(がんが周囲に広がって行く現象)を示します。しかし、遠隔転移の発生頻度は低く、転移の時期も遅いです。
扁平上皮癌の犬112頭のうち、遠隔転移を起こしたのは7頭であったと報告されています。
口腔の扁平上皮癌
口腔の扁平上皮癌は、ご飯が食べずらい、ご飯を嫌がる、よだれ、口臭、口から血混じりの分泌物が出る、前足で口を掻くなどの症状が典型的です。
歯肉に発生した場合には、歯肉に沿った腫れや”できもの”がみられます。また、扁桃に発生した場合には、下顎リンパ節腫脹や不整形で腫大した扁桃が通常片側に認められます。
扁平上皮癌の診断
扁平上皮癌の診断は、針生検や切除生検を行います。血液検査やレントゲン検査や超音波検査などの画像検査で、進行状況の確認を行います。また、触診にて、体表リンパ節が腫れてないかを確認します。
皮膚の扁平上皮癌の見た目は多様で、見た目だけで判断することは困難です。四肢端に発生した場合では、レントゲン検査で骨融解や骨増生などの所見がみられる場合があります。
扁桃の扁平上皮癌では、臨床症状が無く顎の下の腫れ(リンパ節転移)のみがみられる事があるので、注意が必要です。
扁平上皮癌の治療
扁平上皮癌の治療は、外科手術です。扁平上皮癌は遠隔転移が遅い腫瘍なので、可能であれば早期に外科的に切除して摘出することが推奨されます。
皮膚の扁平上皮癌では、以下の外科手術を行う場合があります。
- 四肢端にできた場合:指を切断する手術(断趾術)や足を切断する手術(断脚術)
- 耳や外耳道でできた場合:耳や耳道を切除する手術
口腔内の扁平上皮癌では、以下の外科手術を行う場合があります。
- 歯肉にできた場合:下顎骨や上顎骨部分切除などの手術
- 舌にできた場合:舌を切除する手術
※犬の舌は、40~60%以上切除しても良好な機能を保つ事が可能です
切除が不可能な場合には、放射線療法や化学療法を検討します。しかし、それぞれ十分な効果はみられないようです。
- 放射線療法:犬の扁平上皮癌に対しては効果が低い
- 化学療法:確立された抗がん剤の使用法は無い
予後
扁平上皮癌は、完全に切除されれば完治が期待できる腫瘍です。
四肢端に発生した扁平上皮癌の予後は、以下のように報告されています。
- 1年生存率:95%
- 2年生存率:76%
ただし、扁桃に発生した扁平上皮癌は局所浸潤性が極めて強く転移率も高いため、完治は困難です。
まとめ
犬の扁平上皮癌について解説しました。扁平上皮癌は、一般的に局所浸潤性が高いものの、遠隔転移は少ないとされているので、早期に切除が可能であれば完治が見込める腫瘍です。
しかしそのためには、体の一部分を切除(顎、舌、耳、指、足など)を伴うこともあるので、担当の獣医さんと良く相談されると良いでしょう。