この記事では、犬の脱毛症X(毛周期停止)について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、脱毛症X(毛周期停止)について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
犬の脱毛症X(毛周期停止)とは
脱毛症X(毛周期停止)は、毛周期が休止期で停止してしまい左右対称性の脱毛がみられる病気です。特にポメラニアンでの発症が多い病気です。
脱毛症X(エックス)は、最近では毛周期停止と呼ばれています。過去には、以下のような病名で呼ばれていました。
- アロペシアX(エックス)
- 偽クッシング症候群
- 去勢反応性皮膚病
発生状況
- 発生頻度
2/5(まれな病気) - 好発年齢
若齢の犬(1~2歳で発症する事が多い) - 好発犬種
ポメラニアン、パピヨン、チワワ、トイプードル
アラスカンマラミュート、チャウチャウ、キースホンド、シベリアンハスキーなどの北方犬種 - 性差
雄の方がやや多い(雌雄どちらにも発生する)
去勢または避妊手術を実施していても発症する
原因
脱毛症X(毛周期停止)の明確な発症原因は、不明です。特定の犬種で発症するので、遺伝的な素因が考えられます。
脱毛症X(毛周期停止)の症状
脱毛症X(毛周期停止)では、全身症状や明らかな代謝異常を伴わない、体幹部を中心とした脱毛症が典型的な症状です。
この脱毛症は、頚部と大腿尾側そして尾から始まり、経過とともに頭部と四肢を除く体全体へと広がっていきます。
脱毛が始まる前に、犬の毛質が子犬のような毛質に変化することが多くみられます。
似た症状がみられる病気
左右対称性の脱毛がみられるものとして、以下の病気があります。
脱毛症X(毛周期停止)の診断
脱毛症X(毛周期停止)は、全身症状や明らかな代謝異常を伴わない、体幹部を中心とした脱毛症の場合に疑われます。診断は、血液検査と皮膚生検で行われます。
血液検査では、他の似た症状がみられる病気(内分泌疾患)を除外するために、甲状腺ホルモン(T4)やACTH刺激試験を行います。必要に応じて、精巣/卵巣や副腎の超音波検査などを行います。
皮膚生検では、毛周期が休止期で停止していることが確認できます。なお、脱毛症X(毛周期停止)では皮膚生検を行った部位(皮膚を傷つけた部位)に育毛がみられるのが特徴的です。
脱毛症X(毛周期停止)の治療
脱毛症X(毛周期停止)は、有効な治療法は存在しないです。
しかし、いくつか育毛が期待できる治療法が存在します。ただし、それらの治療法に対する反応はさまざまであり、育毛がみられずに苦労する場合もあります。その治療法として、去勢手術、酢酸オサテロン、メラトニン、その他があります。
なお脱毛症X(毛周期停止)は、健康上の問題はなく美容上の問題です。よって、必ずしも治療を必要としないです。
去勢手術
去勢手術をしていない雄犬の場合、去勢手術が有効である可能性があります。有効であった場合、2~4ヶ月後に育毛がみられます。
酢酸オサテロン
抗アンドロゲン製剤である、酢酸オサテロン(商品名:ウロエース)が使用されます。酢酸オサテロンは、犬の前立腺肥大治療薬として承認された薬です。1日1回で連続7日間投与します。
副作用の恐れがあるので血液検査を行い、以下の病気がないことを確認します。
メラトニン
メラトニンは、脳の松果体によって生成されるホルモンです。
メラトニンは神経内分泌に関与し、多くの哺乳類で光周期依存性の換毛や毛色変化に関与します。メラトニンには、以下の作用があると考えられています。
- 毛包への直接作用
- 中枢神経からのメラノサイト刺激ホルモン分泌の調整作用
- 中枢神経からのプロラクチン分泌の調整作用
犬の脱毛症に対して使用され、脱毛症X(毛周期停止)の他では再発性膁部脱毛症やパターン脱毛などにも使用されます。
その他
その他には、以下の治療があります。
- op’-DDD(トリロスタン)
本来は、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の治療薬 - L-システイン
- トコフェロールニコチン酸エステル
まとめ
犬の脱毛症X(毛周期停止)について解説しました。この病気は、健康上の問題はないという点においてはいいのですが、美容上では大きな問題であります。
上述の通り、いくつかの治療法が報告されていますが治療の成功率は様々であり、いくつかの治療法を試してみるしかないのが現状かと思います。