犬の多発性骨髄腫を丁寧に解説

この記事では、犬の多発性骨髄腫について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。

対象読者
  • 動物病院で多発性骨髄腫と診断されたor疑われている犬の飼い主
  • 歩行の異常や骨の痛みを訴える犬の飼い主
  • 血液検査で高カルシウム血症がみられた犬の飼い主
  • 犬の多発性骨髄腫について知りたい獣医学生や動物看護師

最後まで読むだけで、多発性骨髄腫について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。

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多発性骨髄腫とは

多発性骨髄腫は、形質細胞(別名:プラズマ細胞)が骨髄内で悪性腫瘍化した病気です。

リンパ球は、T細胞B細胞に分類されます。両者の違いは以下の通りです。

  • T細胞:胸腺由来細胞性免疫に関与している
  • B細胞:骨髄由来液性免疫に関与している

T細胞およびB細胞は、免疫応答の主役となる細胞です。T細胞は免疫応答を指示し、B細胞は抗体を生産します。

抗体は免疫グロブリンとも呼ばれ、体内に侵入していきた細菌やウイルスなどの抗原と結合します。その抗原と抗体の複合体を、白血球やマクロファージといった食細胞が認識して、体内から除去するように働きます。

この抗体(免疫グロブリン)は、B細胞が形質細胞(別名:プラズマ細胞)へと分化して産生と分泌を行います。

多発性骨髄腫は、この形質細胞(プラズマ細胞)が骨髄内で悪性腫瘍化した病気です。健康な形質細胞と、腫瘍化した形質細胞では、以下の違いがあります。

  • 健康な形質細胞:体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物から体を守ってくれる抗体を産生する
  • 腫瘍化した形質細胞:異物を攻撃する能力がなく、役に立たない抗体(M蛋白)を作り続ける

腫瘍細胞が異常な抗体(M蛋白)を作り続ける結果、多発性骨髄腫では「高グロブリン血症」となります。

多発性骨髄腫は、8~10歳くらいの高齢犬での発症が多く、好発犬種としてジャーマンシェパードが報告されています。

原因

ヒトの多発性骨髄腫では、腫瘍細胞のさまざまな遺伝子や染色体の異常が知られています。しかし、犬ではまだ十分な研究が行われていません。

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多発性骨髄腫の症状

多発性骨髄腫では、歩行の異常骨の痛みを訴えることが典型的な症状です。また、鼻血や粘膜からの出血水を飲む量とおしっこの量が増える(多飲多尿)、発作などの神経症状視覚障害などを伴う場合があります。

腫瘍細胞の骨破壊により、高カルシウム血症が生じます。骨破壊が重度になると、病的な骨折がみられる場合もあります。さらに、腫瘍細胞が骨髄を破壊すると、血球減少症もみられます。

過粘稠症候群

過粘稠症候群とは、異常な抗体(M蛋白)により、血液の粘稠性が増加した状態です。これにより、以下の症状がみられます。

  • 出血傾向(出血が抑制できない状態)
  • うっ血性心不全
  • 視覚障害
  • 神経症状

多発性骨髄腫の診断

多発性骨髄腫には、診断基準があります。その診断基準では、下記4項目の内、2項目を満たすこととされています。

  1. 血液蛋白電気泳動でのモノクローナルガンモパチーの検出
  2. レントゲン検査での骨融解像
  3. 骨髄検査で形質細胞が10%を超えて検出される
  4. ベンスジョーンズタンパク尿の検出

モノクローナルガンモパチー

高グロブリン血症は、モノクローナルガンモパチーとポリクローナルガンモパチーがあります。両者には、以下のような違いがあります。

  • モノクローナルガンモパチー:1種類の免疫グロブリンを産生しているもの。
  • ポリクローナルガンモパチー:複数の免疫グロブリンを産生しているもの。慢性炎症免疫疾患が含まれます。

ベンスジョーンズタンパク

ベンスジョーンズタンパクとは、免疫グロブリンの軽鎖のみからなる異常なグロブリンです。これは、尿中に排泄されるタンパク尿の一種です。しかし、通常の尿検査では検出されないので、特殊な検査が必要となります。

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療は、内科的治療です。化学療法対症療法を行います。

化学療法

化学療法は、多発性骨髄腫の治療の中心です。

抗がん剤(メルファランとプレドニゾロン)による治療では、約90%の犬に治療効果があったと報告されています。

この治療での、生存期間中央値は540日と報告されています。

対症療法

対症療法として、高カルシウム血症や高窒素血症の治療痛みの緩和を行います。

対症療法とは

表面化している症状を緩和させ、苦痛を和らげるための治療

  • 高カルシウム血症や高窒素血症の治療:輸液
  • 痛みの緩和:鎮痛剤の投与、緩和的な放射線治療

まとめ

犬の多発性骨髄腫について解説しました。この病気は稀な疾患ではありますが、犬の血液腫瘍性疾患の8%を占めるとされています。

原因不明の歩様異常(びっこ)や体の痛みを訴え、さらに飲水量が増えおしっこの量が増える場合には、この病気の可能性もありますので、早めに動物病院を受診するようにしましょう。