この記事では、犬の原発性上皮小体機能亢進症について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、原発性上皮小体機能亢進症について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
原発性上皮小体機能亢進症とは
上皮小体機能亢進症とは、何らかの原因によりPTH(上皮小体ホルモン)が過剰に分泌される病気です。血液中を流れるPTHが増加するので、採血でPTHの値を測定することで診断が可能です。
PTH(Parathyroid hormone)は、上皮小体ホルモンや副甲状腺ホルモンとも呼ばれます。上皮小体から分泌され、血液中のカルシウムの濃度を上昇させる働きがあります。
上皮小体は副甲状腺とも呼ばれ、左右対称性の小さな上皮性の構造物として、左右の甲状腺の被膜下で実質組織の中に埋もれています。内上皮小体と外上皮小体があり、犬では内上皮小体は両葉の中間位に埋没しています。外上皮小体は甲状腺の頭側端近くに見られるか、 または甲状腺の頭側1/2の部位に見られます。
上皮小体機能亢進症の中でも、上皮小体に腫瘍ができ、その腫瘍が過剰にPTH(上皮小体ホルモン)を分泌するする病態を、特に原発性上皮小体機能亢進症と呼びます。
原因
上皮小体機能亢進症は、原発性上皮小体機能亢進症と二次性上皮小体機能亢進に大別されます。
原発性上皮小体機能亢進症は、上皮小体に腫瘍ができ、その腫瘍が過剰にPTHを分泌する病気であり、続発性上皮小体機能亢進症は、腎臓病などの上皮小体以外に病気の根源があり、二次的にPTHの量が増加した病気です。
犬の原発性上皮小体機能亢進症は、機能的な上皮小体の腺腫が多く、時に上皮小体の癌も報告されています。
10歳以上の高齢犬で診断される場合が多く、キースホンドでの発症が多いと報告されています。
原発性上皮小体機能亢進症の症状
上皮小体から上皮小体ホルモン(PTH)が過剰に分泌され高カルシウム血症となりますが、臨床症状様々で、無症状の場合から重篤な症状の場合まであります。
高カルシウム血症の症状は、元気消失、食欲不振、震え、神経過敏、多飲多尿、嘔吐/下痢などがあります。
原発性上皮小体機能亢進症の診断
原発性上皮小体機能亢進症は、血液検査で持続的な高カルシウム血症(12~16mg/dl)があり、リンが低値から正常(1~4mg/dl)の場合に疑われます。
他の高カルシウム血症を起こす病気を除外して、確定診断を行います。
精密検査として、PTH(上皮小体ホルモン)の測定や、超音波検査などで上皮小体の腫大の確認を行います。しかし、PTH(上皮小体ホルモン)の測定で必ずしも高値が出ないことや、超音波検査などで必ずしも腫大した上皮小体が確認できないことに注意が必要です。
原発性上皮小体機能亢進症の治療
原発性上皮小体機能亢進症の治療は、対症療法と原因療法があります。
対症療法
対症療法とは、症状を軽減するための治療です。
高カルシウム血症による元気消失、食欲不振、震え、神経過敏、多飲多尿、嘔吐/下痢などの症状がある場合には、点滴を行います。
症状の改善がない場合には、利尿剤の投与やグルココルチコイド(ステロイド)の投与を行います。
グルココルチコイド(ステロイド)には、腎臓でのカルシウムの再吸収を抑制する働きがあると考えられています。
原因療法
原因療法とは、病気の原因を取り除き根治を目指す治療です。
原発性上皮小体機能亢進症の根本的な治療には、腫瘍化した上皮小体を除去する外科手術です。ただし、手術後に逆に低カルシウム血症となるリスクがあるので注意が必要です。
手術後の低カルシウム血症は、①手術前のカルシウム値が高い(14mg/dl以上)、②高カルシウム血症が長期間に及んでいた場合に、リスクが高いです。
なお、低カルシウム血症では震え、神経過敏、脱力、発作、呼吸停止(重度の場合)などの症状がみられます。
予後
手術ができれば、予後は良好とされています。
まとめ
犬の原発性上皮小体機能亢進症について解説しました。この病気は、決して多い病気ではないですが、高カルシウム血症を呈している場合には、考えなければならない病気の一つとして重要です。
根本的な治療は外科手術ですが、術後の低カルシウム血症に治療が必要です。