この記事では、犬の血管肉腫について原因、症状、診断そして治療を、現役獣医師が解説しています。
最後まで読むだけで、血管肉腫について誰にでもすぐに理解できるように作成しているので、是非一度目を通していただけると嬉しいです。
血管肉腫とは
血管肉腫は、血管内皮細胞が腫瘍性増殖したもので、脾臓に最も多く発生する腫瘍です。
血管肉腫は、犬で多くみられる腫瘍です。脾臓で最も多くみられますが、以下の部位での発生もみられます。
- よくみられる発生部位
右心房(右心耳)、皮膚、皮下組織(骨格筋)、肝臓 - まれな発生部位
腎臓、口腔、骨、膀胱、左心室、子宮、舌、指端、後腹膜
レントゲン検査や超音波検査などの画像検査で、脾臓にできものがみつかることがあります。脾臓にできものがみつかった場合、脾臓の2/3ルールというものが存在します。この脾臓の2/3ルールというのは、次の通りです。
脾臓でみつかったできものの2/3は悪性腫瘍で、そのさらに2/3が血管肉腫である
肥満細胞腫は中齢〜高齢の犬で多くみられます。好発犬種は、ジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバーなどの大型犬です。
原因
犬の血管肉腫の発生原因は、不明です。しかし、皮膚で発生する血管肉腫は、紫外線との関係が疑われています。
ヒトや実験動物では、以下の薬物と血管肉腫の発生が証明されています。
- 二酸化ナトリウム(過去にレントゲン検査の血管造影剤として
- 使用)
- クロロエチレン
- ヒ素化合物
血管肉腫の症状
血管肉腫の症状は、発生した部位により異なります。
お腹の中で発生した場合
血管肉腫は、脾臓、肝臓、腎臓、後腹膜などのお腹の中の臓器や組織で発生することがあります。
腫瘍が大きくなったり、腹水が貯留することで、お腹が膨らんでくる症状がみられます。さらに腫瘍は出血しやすいので、出血により元気や食欲の低下、粘膜が白くみえる、ふらつきや震えがみられます。
腫瘍がお腹の中で破裂した場合には、急激に出血が起きてショックとなります。
心膜内で発生した場合
心膜内で発生した場合には、心膜腔に液体が大量に貯留します。心膜腔内に液体が多量に貯留することで、心臓の拍動が阻害されてしまい、心臓の働きが弱くなってしまいます。これを、心タンポナーデと呼びます。
心タンポナーデでは、腹水の貯留がみられます。また、息を吸う時(吸気時)に脈が弱くなる奇脈という症状がみられることがあります。
心不全症状が重度になると、運動を嫌がる、呼吸困難、ぐったりするなどの症状がみられます。
血管肉腫の診断
お腹が膨らんでくる症状がみられた場合、腹水やお腹の中の腫瘍を疑い、レントゲン検査や超音波検査などの画像検査を行います。心内膜での発生が疑われる場合には、心臓の超音波検査を行います。また、血液検査も併せて行います。
血液検査では、失血(お腹の中の出血など)により貧血や低タンパク血症がみられます。血小板減少症が、75~97%でみられます。
血管肉腫では、播種性血管内凝固(DIC)が合併することがあります。そのため、血液凝固系の検査も行うことが重要です。
腫瘍の場合、針生検を行うことが多いです。しかし、血管肉腫を疑う場合、以下の理由で推奨されていません。
- 役に立たない可能性が高い
- 出血を起こす可能性がある
脾臓にできものができた場合、以下の病気の可能性が考えられます。
血管肉腫治療
血管肉腫の治療は、外科手術と化学療法を行います。
外科手術
脾臓に発生した場合は、外科手術として脾臓の摘出を行います。脾臓にできた大きなできものの場合、血管肉腫でなくても、破裂してお腹の中に大量出血する危険性があります。そのため、仮に血腫や過形成であっても、脾臓摘出が推奨されます。
しかし、血管肉腫における脾臓の摘出は、治癒目的ではなく緩和目的の手術となります。脾臓の摘出により、腫瘍が破裂して大量出血を起こすことを防ぐことが目的となります。
心内膜に発生した場合は、外科手術として心膜切除術を行います。心膜切除術を行い、心タンポナーデを解消します。これにより、生存期間の延長が期待できます。
脾臓や心内膜以外の部位での血管肉腫の場合も、基本的には外科手術による切除を行います。
化学療法
血管肉腫は、外科手術後の化学療法が推奨されています。化学療法を実施することで、生存期間の延長がみられると報告されています。
予後
血管肉腫の予後は悪いです。
脾臓の血管肉腫の予後は、以下のとおりです。
- 脾臓の血管肉腫における生存期間の中央値
無治療の場合:約1ヶ月
脾臓摘出のみの場合:術後約3ヶ月
脾臓摘出+化学療法の場合:術後約6ヶ月 - 脾臓摘出後の1年生存率は化学療法を併用しても10%以下
脾臓の血管肉腫における生存期間の中央値は、無治療の場合約1ヶ月、脾臓摘出のみを行なった場合で術後約3ヶ月、脾臓摘出後に抗がん剤による化学療法を行なった場合で術後約6ヶ月が目安といわれています。また、脾臓摘出後の1年生存率は化学療法を併用したとしても、10%以下だとされています。
脾臓の血管肉腫以外の予後は、以下のとおりです。
- 皮膚に発生した血管肉腫:脾臓に発生した場合に比べると予後は良い
- 心臓に発生した血管肉腫:脾臓に発生した場合に比べると予後が悪い
まとめ
犬の血管肉腫について解説しました。血管肉腫は、発生した場所によっても予後が違うので注意が必要です。
脾臓の「できもの」は血管肉腫でなく血腫や過形成でも、外科手術による摘出が推奨されています。健康診断等で、早期発見できるようにすると良いでしょう。